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たいせつなもの 2


何時からだろう。

こんなに世界がつまらなく 色褪せて見えるのは。

世界が、何もかも元に戻ってしまったのは。

知らなければ良かったのか。

あの色鮮やかな世界を。

あの 陽だまりの様な存在がいないコトが

俺を、こんなにも苦しませるなんて。













一瞬、幻でも見ているのかと思った。




「ま、きの?」

「どうっ……!」

そしてそれは、コイツも一緒だったのだろう。

見開いた目が、驚きと戸惑いを宿している。

俺は コイツを見た瞬間、指先まで血が通った気がした。


「そこまで時間取らせねーよ。心配すんな。」


ーーーー 嘘だ。


お前をやっと見つけたんだ。


もう二度と離してたまるか。


黙って俺について来る牧野に、胸が高鳴る。


俺の本心を悟られないように、仕事で培った得意のポーカーフェイスで 牧野と向き合った。


「何であの時、俺から逃げたんだよ。」


「俺にだって、知る権利があるだろ?」


あれからずっと 聞きたかったこと。

遠回しに聞くなんて、まどろっこしい事 俺には出来ねえ。


「道明寺の、あんたのお母さんとの勝負にね。あたしが負けたからだよ。」

「……勝負?」

そんなこと、初耳だった。

「あんたのお母さんと賭けをして、あたしは負けた。だからあんたの元から去ったの。ただ、それだけだよ。」

「賭け……?」

「うん。」

身体中の血が一気に、煮えたぎったように熱くなるのがわかった。

「なんだ、それ!? なんで俺の知らねえところで勝手にそんなことしてんだよ!」

「……ごめん。」


今更、牧野を責めても なくした時間は戻らない。

わかっているのに口が止まらなかった。

「あの頃の俺の、お前を必死で追いかけて、全てをお前に捧げた気持ちはどうなる!?」


「…………ごめん、なさい。」


ハッと、我にかえった時に見えたのは 牧野の 本当に申し訳なさそうな顔。

しまった。

ポーカーフェイスを心掛けて居たのに、つい カッとなってしまった。

今すべき事は牧野を責める事ではない。取り繕うように、ま、昔の事だけど。と付け足した。

気を取り直して、今度は軽い感じで その " 賭け " とやらがなんだったのか聞いてみたけど、牧野は苦しそうに笑うばかりで。頑なに教えてはくれなかった。

「あいつらもお前に会いたがってたし、また皆で集まろーぜ。お前の番号教えろよ。」

別れ際、あいつらをダシに携帯番号を聞き出した。

あの別れから、牧野の番号を俺は知らない。

牧野がいきなり消えたその日から、俺の知っていた番号は役立たずになってしまっていたから。

正直、ここで牧野に拒否されたら、立ち直れないくらいに心臓が震えていた。

俺に聞かれて 暫く戸惑っていた牧野だったが、どうしても牧野の番号を知りたかった俺は、《みんな お前を心配してたぞ》と付け加え、お人好しの牧野につけ込んで 牧野の番号を手に入れた。

牧野にはあり得ないだろうけど 念のため、その番号が確かな事をその場で直ぐに確かめ

そして、俺の携帯から牧野の携帯に音が繋がった瞬間。

一度切れてしまった俺たちの繋がりが、元に戻った気がして。







泣きそうなくらい、嬉しかった。














「……あれっ? つくし?」

「「!!」」

丁度店を出たところで、牧野に声を掛けて来たのは、40代程のスーツを着こなしたおっさん。

「……将太さん?どうしたんですか。」

将太と呼ばれた男が牧野の傍まで寄って来る。

「いやぁ、そこの本屋で例の本を探してたんだけどね。 一足遅かったみたいで、ついさっき若い女の子が買って行ったってさ。」

「……あっ!!」

何か思い出した牧野は、唯一持っていた 仕事用と思わしき鞄に徐に手を入れ、ガサゴソと中身を探りだした。

「はいっ! これです。」

そいつに向かって、晴れやかな笑顔でブックカバーの付いた本を差し出す。

「あっ! これ!」

「すいません。入れ違いになっちゃいましたね。」

「何だ、つくしだったのか?」

「ふふっ。そうみたいですね。」


二人して俺を無視って、名前で呼び合う仲の良さそうな二人の関係。

さっきまで 俺には1秒たりとも見せなかった笑顔で、牧野が笑っている。

それを間近で見せつけられて、さっきまで幸せの頂点にいた俺は 呆気なく地獄につき落とされた気分になった。


「あ、ごめん! 彼は……。」

漸く、隣にいた俺に気づいた男。

「もしかして、彼氏?」

「「なっっ……!?」」

牧野と同時に声が上がる。


ーーーー そりゃ、出来るものならなりてーけど!

ーーーー さっきまで番号すら知らなかった俺に、どうしろっつーんだ!


「ちちち、違う! 全っ然!違いますから!」

「…………。」


ああ、そうだよな。

ブンブン頭振って、全力で否定。

相変わらず、無自覚にヒデー女。


「そうなの? 彼、めちゃくちゃカッコ良いし 彼女にして貰ったらいいのに。」

「将太さんっっ!」

男の、冗談なのか本気なのかわからない言葉に、真っ赤になった牧野が慌てて止めに入る。

……とりあえず、コイツは敵ではなさそうだ。

「いや本当に。きっとこの人仕事もできるし、将来安泰だって。」

……いいぞ、将太。もっと言え。

普段なら、失礼極まりないこの男にブチ切れていたかも知れないが、この時ばかりは感謝した。

「あのねっ、この人には婚約者が居るんです! ヘンな事言わないで下さいよっ。もうっ!」

「………………………… は?」

「なんだ、残念。」

「なんで将太さんが残念がるのっ!」

「……ちょっ、待て! 婚約者ってなんの事だ?」

「さ。社長。行きましょ。」

「おいっ!待てって!!」

俺の声が聞こえてないのか、聞く気がねーのか。

さっさとその場を去ろうとする牧野。

しかも ご丁寧に将太とやらの腕に手を掛けやがって。俺にケンカ売ってんのか。

……将太、お前はやっぱ敵だ。


「痛ッ!?」

「まだ話は終わってねえ。」

「ゲホッ!……や、バカッ! 苦しいっつーの!」

牧野の首根っこ捕まえて、無理矢理後方から引っ張った。

「それにまだ、車にお前の荷物があんだろ。」

「ぐっ……。」

荷物を人質に薄く笑ってやると、ぶつぶつ言いながら やっと将太から離れた。




「早く返して!」

「もうお前の荷物、全部邸に送っちまった。欲しけりゃ自分で取りに来い。」

「!?」

「死にかけのタマと姉ちゃんがお前を待ってる。顔くらい見せてやれ。」

「ひっ……!」

「あん?」

「卑怯者~~~~ッ!!!!」

「ヒキョー者はどっちだよ。全部話すって言った癖に、逃げようとしやがって。」

「あんただって、今更だって言ってたでしょう!?」

「うるせーな。そりゃ言葉の泡ってヤツだ。」

「泡じゃなくて、ア・ヤ!! あほっ!」











ギャンギャン喚き続ける牧野と話しているうちに、俺の中で 何かがカチリと動いたのがわかった。


あの日から


止まったままだった、俺の時間が動き出す。


世界を


景色を


色鮮やかな極彩色に変えて。
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