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たいせつなもの 3

「早く入れよ。」


ゴクリ。


「や、やややっぱ帰る!」

「は? 目の前まで来といて何言ってんだよ。」

道明寺家の大きな門を見た瞬間、圧倒的な威圧感に生唾を飲み込んだ。

一時とは言え、ここに住まわせて貰った事もあるのに。なんなんだろう この緊張感は。

ズルズルと引き摺られるように、道明寺に連れて来られた玄関前。ギギッと大きな扉が空いた瞬間、真っ先に懐かしい人の姿が現れた。

「つくし!?」

「あ……。」

タマさんだ。

あの日以来、道明寺家に関わる全ての人との関係を立ち切ってしまったから 今日まで会わずにいた。

しょうがなかったとはいえ、自分勝手なあたしを許してくれるのか。

あたしのそんな気持ちを知る由もない道明寺は、さっさと一人で着替えに行ってしまうし……。





「なんだい、連絡の一つもよこさないで! 」

「ひっ!」

開口一番、タマさんの檄が飛ぶ。

だが直ぐに、前よりしわくちゃになった目元が潤み、小さな身体で抱きしめられた。

「……辛かったろう?」

「あ、あの、あたし……。」

「良いんだよ、何も言わなくて。あたしは全部知っているからね。」

「え…………?」


ーーーー 知ってる?


ーーーー 全部?


あたしにしか聞こえない小さな声で、前よりも小さく感じるしわしわの手で、ギュッと握られた手が熱い。

4年前の出来事を、タマさんは何処まで
知っているんだろう。

「タマさん、あの、やっぱりあたしはここに来るべきじゃなかっ……」

「つくし!」

「はいッ!?」

「もう良いんだよ。一人でよく頑張ったね。」

「タマさん……?」

「奥様と旦那様に、ご挨拶していってくれないかい?」

「え?でも……。」

今から?

魔女はもちろんの事、会ったことのないお父さんまで?

今更 ぬけぬけと、どんな顔をして会えと言うのか。

あたしが渋っていると、タマさんが涙をいっぱい溜めたその瞳で、


「年寄りの後生だと思って。頼むよ。」

「……はい。」


頷くしか出来なかった。








「入りな。」

「ここは……?」

部屋に入ると、独特の香りが鼻を掠める。

あたしも何度か嗅いだことのある、この臭い。

「…………。」

「あのっ! タマさん!」

さっきから何も喋らないタマさん。

人の気配がまるで感じられないこの空間。

もう、嫌な予感しかしない。

嫌な汗が額をつたう。


まさか


まさか


「…………奥様。」

タマさんが、ぺたりとそこに座り込んだ。

「つくしが、来てくれましたよ。」


ーーーー あぁ、やっぱり。


チラリと目に入ってきた、重厚そうなそれ。

あたしはもう見て居られなくて、信じたくなくて、とうとう目を瞑ってしまった。


青ざめるつくしを背に、表情の変わらない二人にタマは続ける。


「もう、この子に真実を話しても構いませんね?」

ゆっくりと、タマがつくしに振り向く。

そこだけ時間の流れが止まってしまったかのように、ゆっくりと瞼を持ち上げて。


「……4年前、何があったのかを。」











「こんなトコに居たのか。」

「あ、どうっ……!」

声を掛けられ 後ろを振り向くと、普段着に着替えた道明寺が立っていた。

躊躇いもなくあたしの隣に腰を降ろすと、マジマジと顔を覗きこまれる。


「お前、なに辛気臭せー顔してんだ?」

「あ、あははは。そ、そうっ?」

「…………。」

「あ、ごめん。先にお茶頂いちゃった。相変わらず美味しいね、ここの お茶。ケーキもクッキーもすっごく美味しくて今度真似して作ってみようかなーなんて。でも甘いもの食べたらやっぱりしょっぱいものが欲しくなっちゃったりして、今日の晩ご飯はラーメンにしようかなー。あははは」

「…………ラーメン?」

「あ、あんたは食べたことないか。もったいないなぁ、あんなに美味しいものないのに。人生損して…」

「今度、連れてけよ。」

「へ?」

「ラーメンとやらに。」

「や、やだよ!なんであたしがっ!」

「いーじゃん そんくらい。昔の詫びだと思えば安いもんだろ? なんなら今からお前んちで作ってくれてもいーけど。」

「は!? 今から!?もう何時になってると思ってんのよ、このエロガッパ!!」

「バーカ。俺みたいな紳士はそうそういねーぞ。」

「どこがっ!?」


コン コン


「……誰だ。」

「お食事をお持ち致しました。」

「ああ、運んでくれ。」

「あ、あたし帰る! ラーメン作らないと!」

「お前の分も作らせたから食ってけ。」

「えっ!?」

そうこう言っているうちに、二人分の料理があっという間に運ばれてきた。

テキパキテキパキと。なんて、無駄のない動き。

……あたしには拒否権もないのか?

「ラーメンは今度な。」

テーブルの目の前に座ったこの男は、ククッと笑いながらあたしを見ている。


ーーーー やめてよ。


そんな優しい目であたしを見ないで。



「………………今度ね。」

「!!」

「でも、あんたの奢りだから。よろしく。」

「…………おう、まかせとけ。」


驚きを隠せない様子の道明寺。

きっと、あたしが断るとでも思っていたのだろう。

確かに、さっきまでのあたしなら断固拒否してたけど。



ーーーー ああ、調子が狂う。


タマさんがあんなこと言うから。












『丁度あんたが居なくなって 数ヶ月経ったころだったかね。ちょうど、お二人でいる所に暴漢が現れて、刺されたんだよ。二人とも。』

『えっ!?』

『SPが居ない所を見計らっての計画的犯行でね。そりゃあ……酷い有様だった。』

『そんな、ひどい……。』

『でもこちらも、刺されても仕方ないことばかりしていた様だしね。相手方は道明寺家に契約を打ち切られた取引先の社長で、社員は路頭に迷い、家族は一家心中。許せる訳じゃないけど 全てをなくした人間に強くなれって言うのもね……。』


『あの子もね、両親の件でだいぶ苦労したんだ。 高校卒業と共にたった一人で渡米して、大学に通いながら会社の事もして。毎日毎日睡眠時間も僅かで、いつ倒れちまうんじゃないかって随分ハラハラさせられたよ。』


『昔なら、暴れる事でストレスを解消する事も出来ただろうけど、今は全社員の生活があの子の肩に乗ってる。一応表面上で笑ってはいるけどね、死んでるんだよ。心が。』






あたしが居ない間に、それだけの事があったなんて。

そんな事を聞いてしまったら、目の前にいる道明寺を とてもじゃないけど無碍には出来ない。

これは、同情じゃないかと言われればそうかもしれない。

でも、どうしても放って置けないよ。





「あっ、 また好き嫌いしてっ!」

「相変わらずウッセーなー。」

「社長のあんたがそんなんじゃ、社員のみなさんに笑われるよっ。」

「ケッ、出来るもんならやってみろっつーの。」



最後に、涙ながらにあたしに訴えた タマさんの言葉が 頭をよぎる。




『坊ちゃんを救ってやれるのは、あんたしか居ないんだ、つくし。』
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