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たいせつなもの 10


お昼休み。

みんなでお煎餅を齧り、休憩室に備えられているTVから流れるワイドショーを、なんとなしにただボーッと眺めていた。

その番組の中盤では、” 今日の晩御飯 ” みたいなコーナーがあって、ああ、今日の晩御飯は何にしよう……なんて、我ながらかなり暢気に過ごしていた。



「つくしちゃん、このニュース知ってるかい?」

話掛けてきたのは、隣にいたトメさん。

「……好きですねぇ。」

トメさんは芸能人やら有名人やらの噂話が大好きで、いつもこの手の話をしているが、正直あたしは見た事も聞いた事もない俳優ばかりだったりする。

「だって、ほら、これこれ!」

「…………はぁ。」

トメさんがあたしの目の前にバッと差し出したのは、一冊の週刊誌。

思った通りそこには、見たこともない俳優の顔と名前がでかでかと載っていた。

「あ、これって……。」

「びっくりだろう?この若い女優、清純派で売ってたのに同棲してたんだって!!」

でもあたしが引きつけられたのはそこじゃなくて、その記事の端っこに載っていた、小さな写真。




「……しちゃん、つくしちゃん!」

「えっ? あ、はいっ!」

「どうかした? ボーっとして。」

「あ~、ははは。すいません。なんか聞いたことあるような……ないような? 」

「えーっ! つくしさん、知らないんですか!? この女優、今めっちゃ売れてますよっ?」

「つくしちゃん、あんまりテレビみないって言ってたもんねぇ。」

「そうなんですよ。ちょっと前までテレビ買ってなかったから……」

「そういやそんなこと言ってたねえ。ところで、どうだい? この俳優は?」

「どうって?」

「やだねぇ。 タイプかどうかってことだよ!」

「……あ~。世間一般的には格好いい……かも、知れませんね。」

正直、高校時代に見たあの強烈な4人組を知っているからか、ちょっとやそっとじゃ ”かっこいい” なんて、思えなくなってしまった。

……ん?

もしかしてあたしって、知らないうちに目が超えちゃってる?

それは、これから先の人生に気障をきたすんじゃないか!?かなり、マズくない!?

「そう?おばちゃんはすっごくタイプなんだけどね~。せめてあと20歳若かったら……」

「ちょっ、おばちゃん!恥ずかしいからやめてよっ!」

頬をポッと赤くするトメさんへ、杏奈ちゃんからすかさず突っ込みが入り、周囲からどっと笑いが起こった。

「あっ、おばちゃん!見てっ!大河原財閥の令嬢にも婚約者がいるって書いてる!!」


ーーーー !!


「……へ、へえ~。」

それは、あたしがさっき見ていたページだ。

「なになに……大河原財閥と道明寺財閥の結婚秒読み?」

「あ~。それね、道明寺財閥の御曹司と大河原財閥のお嬢様は結構昔から噂になってるよ。」

「へえ、そーなんだ。」

「ま、2人ともそれだけお金持ちだからねえ。噂の度に合併だの統合だのの話も付いてくるから、大人の事情も多少なり入ってるんだろうけど……なんてゆーか、住む世界が違うよ。」

「でも い~なぁ~。 一度でいいからこんな恋人欲しーい!!」

「ふっ。あんたにゃ百年早いね。」

「うるさいな、分かってるよっ!こんな美人に敵うわけないじゃんっ!!」

「ああ、確かにこのお嬢さんはべっぴんだよねぇ。」





イヤな、汗が流れた。

道明寺の話題がほんの少し出ただけで、ドクドクと心臓が速まって息が 苦しい。

今朝までの事は誰も知らないはず。

なのに、婚約者がいる道明寺と許されない事をしてしまったあたしは、勝手に皆に責められている気分になった。

高鳴る心臓を、早く治まれと笑顔で誤魔化して、なんでもなかった振りをする。


大丈夫、大丈夫。


そう自分に言い聞かせて。



******



お昼休みも残すところあと10分。

食後の歯磨きをしようと、いつも持ち歩いている歯ブラシを咥えて廊下を歩いていると、

「牧野、ちょっといいか?」

後ろから誰かに呼び止められた。

歯ブラシを加えたままの間抜けな状態で振り返り、顔を見た瞬間、あたしは血の気が引いた。

「ぶっ…!」

部長 ーーーーっ!!

そうだった!タマさんのことや道明寺の事ですっかり忘れてしまっていたけど、あたし この間、健太部長との約束ブッチぎっちゃったんだ!!

「あ、あわわわわわ。昨日は本当にすいませんでしたっ!このお詫びはキッチリさせて頂きますので、どぉーーか、クビだけはご勘弁をっ!!」

これはヤバイと本能が告げて、ガバーーッと腰から90度以上深く折り曲げた。

てゆーか、なんでこんな大事なこと忘れちゃうのよあたし~!!呑気にお昼食べてる場合かっ!

すると、数秒考える表情を作っていた部長が何かを思い付いたように、

「……詫びって、なんでもすんの?」

「はいっ!なんなりと!」

「じゃあ、今週の日曜日に白石会長の孫とデートなんてどうだ?」

「はいっ!喜んでっ!」


…………………………。

……………………。





…………んん?

今、なんて言った??

「前から 白石社長に頼まれてたんだよ。息子に合わせたいって。牧野 いつもそういうの断ってるだろ? あ、フレンチとイタリアンどっちが好き?」

「…………どっちも好きです。」

「そっか。好き嫌いは?」

「…………いえ、特には。」






「………………あの。」

「ん?」

「デートって、あのデートですか??」

あの、所謂、男女がキャッキャウフフみたいな。

「もちろん。デートにあれもこれもないだろ?」

「は、はははっ。そりゃそうですよ……ね?」

「……何? やっぱり嫌?」

「や、嫌ってわけでは……。」


本当はすごくいやだ。

でも、こんなに悲しそうな瞳をされちゃあ、ましてやこっちに非があるわけで。

でも、デートなんて数年はご無沙汰しているあたしにうまくやれる自信は全然なかったり。

「すいません……。出来れば、それ以外がいいかなぁ、なんて。」

「だよなー!牧野だしなー!」

「…………。」

部長はあたしの答えが分かっていたのか、あっさり納得するとケラケラと笑った。

部長の中のあたしって、どんなイメージなんだろう……。 これは、この間の腹いせか?

「掃除とか雑用係とかならすっごく得意なんですが。」

せめて何かお役に立てないかと案を出してみるが、部長は微妙な表情だ。

「掃除……ねぇ。」

まぁ、そりゃそうだよね。

掃除なんて誰にでも出来るもの、わざわざ人に頼む訳が……

「よし、決まり!」

「?」

「俺んち掃除しに来い!」
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