fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

たいせつなもの 11

毎日 牧野の事を考えてはいても、仕事の多忙さから会うことが出来ないまま、あの出来事からもう一週間が経とうとしていた。

つい最近まで連絡手段すらなかったのに、急速に進展した2人の関係が余計に司に焦燥感を与えた。

牧野に会いたい。

声を聴いて、抱きしめて。

あの事は夢じゃなかったんだと確かめたい。

そう思っていても周りの人間が許してくれる筈もなく、司は相変わらず高層ビルの執務室に縛りつけられていた。

「司様。」

「あ? 」

「少々、お耳に入れたい事案がございまして。」

「……手短にな。」

カタカタカタ カタカタカタ……

だが司は 目の前にあるPC画面を睨み付けたまま、一瞥もせずに忙しなく指を動かし続ける。

「はい。では申し上げます。」

カタカタカタカタカタ……カンッ。

ちょうど区切りのいいところでキーボードから指を離し、出されてから随分と時間が経った ブラックコーヒーに口をつけた。

「牧野様が、ある男性の家に出入りしています。」


ーーーー バシャッ!!


「書類は、濡れていませんね。」

「…………フツー、俺を先に心配しねーか?」

動揺の余り、自分の顔にコーヒーを掛けてしまった上司よりも先に、傍に置いてあった書類やPCのチェックをした西田はセーフセーフとでも言いたげだ。

「私ごときに心配された所で、司様のお役に立ちそうもありませんでしたので。」

「お前、ほんと鬼だな。」

無言で手渡されたタオルで顔を拭い、身も蓋もない西田への感想を言ってのける。

「いえいえ、司様ほどではございません。」

西田も西田で、この2人は割りと互いに言いたい放題言える間柄にあるようだ。

「って、そんな事はどうでもいい! 牧野がどうしたって!?」

「ですから、男性の家に。」

「なんでだよっ!まさか、あいつまた、変な事件に巻き込まれてんじゃ……!」

「いえ、牧野様は自ら進んで入られたようです。」

「あぁっ!!?」

「慣れた様子で、マンションの一室に入って行ったとSPの報告がございます。」

「見てたんなら止めろよっ!」

「牧野様に見つからない様に極秘裏に。と仰いましたのは、司様ですが?」

「そっ、そんなもんキリン横柄だっ!」

「…………臨機応変ですね。」

「とにかく!牧野はその男に襲われたりしてねえんだろうな!?」

「いえ、それは室内での出来事ですので流石に分かり兼ねますが……」

「……っ!! じゃあ牧野自身に盗聴器つけるなりなんなりしろよっ! あいつは俺の女だ!何かあったりしたらお前らSPごとぶっ殺す!!」

「ただ、報告には二時間程で部屋から出て来られたようですね。その後の様子も慌てていたり怯えるといった事はなかったそうです。」

「…………。」

二時間。

二時間という時間は、そうゆうことがあったともなかったとも取れる ものすごく微妙な時間だ。

「牧野のご様子からされまして、司様のご心配されているようなことは無いとは思いますが…」

「そんなん、わかんねーだろっ!」

「そうですね。その時間内なら仮にあったとしても、合意の上でしょう」

「にっ、西田ぁあぁぁああっ!! テメーなんてこと言いやがるっ!?」

「私個人の意見ではなく、あくまで一般論ですので。」

「ぜってぇ、いつか首にしてやる……。」

「それは、司様が道明寺総帥になる時でしょうか? 幸い老後資金も既に貯まっておりますし、司様のその姿が見られれば、私はもう思い残す事は御座いません。今からその時が待ち遠しいですね。」

「………。」

首にしてやると自分は言った筈なのに、楽しみにされてしまった。

転んでもタダでは起きない、全くもって食えない男だ。

仕事上ではともかく、口では全く歯が立たないので、司は話題を変える事にした。

「牧野をうちに連れて来とけ。」

「ご本人の了解は?」

「んなモン、必要ねえ。」

「……知りませんよ。」

「ああ、任せとけ。」

「かしこま……、」

呆れ顔で かしこまりましたと言いかけた西田の顔が、「あ」と一瞬 固まる。

「? どうした。」

「いえ、その。本日は お邸に滋様がいらっしゃるとの報告がございまして。」

「また、アイツかよ……。」

無表情でもどこか苦笑いな西田の言葉に、ウンザリと顔に書いて項垂れる。

今にも、積もり積もった愚痴を吐き出しそうな司を冷静に眺めていた西田は、お茶を出しにやって来た秘書が下がった所でずっと思っていた事を口にする。

「恐れながら私個人の意見を述べさせて頂きますと、滋様とキチンと向き合わなかった司様にも問題がおありかと思われますが。」

「あぁ!?」

不機嫌を隠そうともせず、そのケチのつけようもない眼力で睨まれるのはいつ振りだろうか。

「向き合う? 向き合うもなにも、とっくの昔に滋とのケリは着いてんだ。過去も未来も、今現在だって俺の中には牧野しか居ねえ。そんなことは滋だってわかってんだよ!」

西田に当たっても仕方がない。
分かっていても、つい声を荒げてしまう。

「滋様はそれをわかっていながら、それでも司様のお力になりたいとお望みになったのではないでしょうか?」

「…………俺にはわかんねえな。自分が幸せになれる訳でもねーのに、何がしてえんだかサッパリわかんねえし、わかりたくもねえ。」

あくまでも冷静な西田に内心で舌打ちし、吐き捨てるように言い切った。

そんな司に、表情はほとんど変わらなくとも何処か慈愛に満ちた言葉で西田は諭す。

「愛とは複雑で、幾つもの形があるものです。ご自身にも覚えがおありでしょう?」

「…………。」


ーーーー 愛、か。


人は誰かを本気で愛すると、その誰かの為に何でもしてやりたいと思う気持ちが溢れて来ることを教えられた。

それは、4年前につくしと共に人生を歩みたいと思った司自身の姿で、又、自分の為に身を引いたのだろうつくしの姿で。

実際には叶わなかったが ーーーー 実現出来たかどうかより、それ程想う事の出来る相手が居るというのは、確かにそれは愛と呼ぶべき存在なんだろう。

ただ、もう実現出来なかったと嘆くばかりの自分はもう此処にはいない。

ーーーー 離すつもりも、ない。


深妙な顔で黙り込んだ司を、西田は何も言わずにジッと待つ。

その視線に気付いた司が確かな意思を持って目線を合わせて来るので、西田も応えようと真剣に見つめた。


一拍置いて、司から出たのはーーーー


「西田、お前が愛とか言うな。気味悪りい。」

「…………。」


ただの暴言だった。

その後、司の仕事が更に増えたのは西田の呪いかもしれない。


******


「はぁ、疲れた……。」


仕事&残業(?)をこなし、クタクタになったつくしは帰路を辿っていた。

心なしかスーツもくたびれているようで、哀愁も漂っている。

だがその実、胸中は怒りと呆れで埋め尽くされていた。


ーーーー なんなんだ、あの家は!!



『お邪魔しま……ってうわっ!!』

『牧野、今頃 後悔しても遅いぞ?お前から申し出たことなんだから。』

『だ、だからってこんなの……』

『そんなに怯えなくても、俺も鬼じゃないさ。』

『あ?じゃあ……』

帰らせてくれるのっ?

『俺も鬼じゃないから、1人でやれとは言わないし、コレは2人でゆっくりやって行こうな☆』

『……うげ。』

期待に胸をふくらませたあたしに、とっても素敵な笑顔が返って来た。(もちろん嫌味です。)

健太部長に連れて行かれたのは、汚部屋ならぬ立派ゴミ屋敷。

まず、食べ掛けの缶ビールやカップラーメンが散乱アンド散乱。

捨てそびれた各種ゴミ袋。

溜まりまくった洗濯物と食器類。

敷きっぱなしのお布団。

カサカサと動く…………うん。もう忘れよう。

本当に壮絶な光景だった。

それを見てしまったあたしは、”ゆっくり片付ける” なんて悠長な事が出来る筈もなく、使用人として働いていた経験を活かし なんとか二時間で殆んどピカピカにして帰った。

健太部長はそれはそれはもう大喜びで、綺麗になった部屋をみて感動の余り「もう散らかさない」なんて言っていたけど……

「でもあーいう人は、直ぐまた散らかすんだろうな…………って、ん??」

独りごち、アパートの前まで着くと誰かが玄関の前で蹲っているのを見つけた。

こんな夜更けに不審者かと思い、警察でも呼んだ方がいいのかと思案したが、よく見ると女の人の様だ。


ーーーー あ、なんかデジャヴ?


「…………滋さん?」

「あ、つくしっ!」

もしかして、と思い切って声を掛けると、パッと顔を上げ 思っていた通りの声が聞こえてきた。

「…………どっ、どうしたの?なんでこんなところに居るの? 」

直ぐに声が出なくて、それより他に言わなきゃいけない事がある筈なのに、動揺したあたしはこんな言葉しか出て来なかった。

「つくしに会いたかったの。」

「…………え? あ、と、とりあえず部屋の中……入る?立ち話もなんだし。」

「うん……ごめんね、急に。」


明らかに元気のない滋さんを放って置けなくて、家の中に招き入れた。
スポンサーサイト