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悪夢の後で


「……あ。ダメだって、もう。」

腰に巻きついて離れない腕が、再び温もりを求めて動きだしたのを甘く宥めて、ベッドからそっと抜け出した。

「お水飲む?」

「んなもんいーから。早くこっち来いって。」

ミニバーからミネラルウォーターを取り出し尋ねると、大きな身体で拗ねたように口を尖らせる彼が可愛くて、思わず笑っていたら なんだよってジロッと睨まれてしまった。

「はい、お水。」

「サンキュ。」

ベッドに座ったまま 素直にグラスを受け取り、2、3口含むとベッドサイドにそれを置く。

「……あのよ。」

「なあに?」

すかさず伸びて来た手に持っていたグラスが奪われ、ベッドサイドに置かれた。

「ごめんな。」

「え? 何が?」

隣から傾けて来た頭の重さが肩にかかって、らしくもなく、頼られているような気がした。

「ねえっ、どうしたの?」

「……さっき、ユメみた。」

「夢?どんな?」

「高校の頃、俺が刺された時の。」

「…………ああ。懐かしいねー。」

「懐かしーって、お前……。」

あれは、自分の人生の中で一番の汚点。

いや、ハタからみればそれ以上に悪い事を沢山しただろうと言われるかも知れないが、俺自身が一番最悪と感じるからやっぱりアレこそが一番の汚点なんだ。

「で?どんな夢だったの?」

なのに、一番傷つけたハズの女にこうもあっけらかんと聞かれては、俺が女々しいんじゃないかって気にさせられる。

「あの時の俺が、お前に酷え事ばっか言ってて……」

「…………。」

「思ってもいねー事ばっか、口が勝手に動いて……」

「…………。」

思い出したくもなくて、記憶の底に沈めていた記憶。

どうしようもなくて、やるせなくて、情けないと分かっていながらも言わずにはいられなかった。
そんな俺の話を牧野は黙って、遮ることなく聞いていた。

「お前が、類の腕ん中でずっと泣いてて……。」

「…………うん。」

「お前が、俺なんかいらねえって、遠くに行っちまいそうで……。」

「あたしは、何処にも行かないよ?」

「わかってる。」

そう、そんな事は分かり切っている。

今のお前は、俺に見向きもしなかったあの頃のお前じゃないし、愛して愛されてるのは毎日実感してる。それに、俺だって手放す気はこれっぽっちもないんだ。


なのに。


幸せなのに、満足しているはずなのに、何なんだ。


この焦燥感は。


「…………はぁ。」

チュッ。

ため息が聞こえたと思ったら、頬に柔らかいものが当てられていた。

「ま、きの?」

「好きだよ。」

「まき……っ?」

「好き。アンタが本当に大好き。」

「…………!」

「意地悪なくせに優しいところも、誰よりもあたしを想ってくれるところも。」

「この大きな手で、いつも守ってくれたよね。」

「あたしだってアンタに酷い事いっぱいしたよ? でもアンタは、いつも許して、助けてくれたよね?」

「それは……。」

どんなにこっぴどく振られても、俺がお前を諦められなかったからだ。

俺達は何度も離れて、俺はその度に諦めようと何度も思った。

でも、お前の顔を見たら、やっぱり欲しくて堪らなくて。


《俺以外を見るな》


《俺以外に笑いかけるな》


《俺以外に触れさせるな》


そんな事ばかり考え、気付けば、いつも嫉妬ばかりしていた。


「あたしだって、同じだよ。」

「?」

「どんなに酷い事されたって、仕方ないなって許せちゃうくらい惚れてるんだから。だから…」

「だから?」








「愛してるよ、司。」

「…………っ!」

「あんたが居れば何も要らない。だから、あたしと結婚して?」

「……俺のセリフだバーカ。」

「ふふふっ」


牧野のちっせー手が俺の両頬を包むと、じっと見つめあった。

それはほんの数秒の間だったのだろうけれど、永遠の時間の様で

「一緒に、幸せになろう?」

もう一度落ちてきた唇は 弧を描き、月の光が反射して、まるで女神みたいに思えた。





******






牧野、お前は何か勘違いしてるみてーだな。

え? 何を?

俺はお前を捕まえた日から、もうとっくに幸せなんか手に入れてんだよ。

……ふふ、そっか。

だからな?もうフツーの幸せじゃ物足んねぇ。

は?

だからもっと俺を幸せにしろよ。

もぉ、俺様。どうやって?

毎朝俺と一緒に起きてメシ食って、仕事行く俺を送り出して、昼休みはずっと俺と電話して、夜仕事から帰って来たらキスで出迎えろ。

…………超ワガママじゃん。

仕方ねーだろ?そんだけお前に惚れてんだからよ。

ん~じゃあ、あたしのワガママも聞いてくれる?

あ?お前の?

うん。

なに?

夜はなるべく、12時には帰って来て。

……。

ちょっとづつでいいから、タバコ減らして。

……うん。

あと、もし……もしも、これから長い人生の中で、あたし以上に好きな人が出来たとし、

出来る訳ねえだろっ!!

うんだから、例えばね、例えば。

……。

やだ怒らないで、ね?

……で?

万が一、あたし以上に好きな人が出来たり、アンタがあたしの事好きじゃなくなったとしたら……

したら?

あたし以上に、アンタを幸せに出来ない人なら、あたしは絶対別れてやらないからね。

……はっ?

どんなにアンタがその子を好きでも、あたしの事が大っ嫌いになっちゃったとしても、ろくでもない女ならアンタは渡さないから!だから覚悟しててね!

……。

って、道明寺聞いてる?

……ったく、素直じゃねえな。

は?

素直に、浮気するな、あたしだけ見てって言えよ。

!!!!!

なんだよ、自分で気づいてなかったのか? また訳わかんねえことゴチャゴチャ考えて、妄想で居もしねえ女作り上げて妬いてたんだよお前は。

え、ちが……ちがう!

何がちげーんだ? その存在しねえ女が俺の隣に居んの想像して、渡したくねえって思ったんだろーが?

……ぇ、……ぁ?

ここまで言って、まだわかんねえなら教えてやる。今、お前が涙目なのは何でだ? 嬉しくて泣いてんのか?それとも悲しくて泣いてんのか?……違うよなぁ?牧野?

……。

バカ、泣くな。これ以上俺を煽るんじゃねえ。

……?

あと、お前のその胸のモヤモヤはな、俺に触れてキスして、抱き合えば無くなるぜ。

ぇ、なんでわかるの……?

ばか、首傾げんな。必死で我慢してんのに……

ほんとに?

本当だ。俺とイチャイチャして居りゃあ治るぜ。試しに俺にキスしてみろよ。

……。

チュッ。

な?治って来ただろ?

……わかんない。

じゃあもっかいな?

チュッ。

んっ……!

ほら、口開けて舌だせよ。俺がその悪い夢忘れさせてやるから。

だからお前も俺をもっと幸せにしろ。わかったな?

……うん。

後、いーかげん司って呼べ。ベッドの中だけじゃ物足んねえ。

……さらに要望増えてるんだけど。



fin
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