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たいせつなもの 14


「ん~ッ! おいしぃ~ッ」

「……ぷっ。」

牧野は相変わらず、美味そうに飯を食う。

行儀が良いとは言い難いが、ひとくち含む度に足をバタつかせ、手のひらを頬に当てて、何より幸せそうに《美味い》を表現する。

そんな顔を見ながらする食事は正に幸福の時間であり、気を抜いたら自分が食べるのも忘れてしまいそうだ。

……これじゃ、どっちがメインかわかりゃしねえな。

「お前、この後どうすんだ?」

「この後?」

「きょ、今日はもう時間もおせーし、今から帰っても危ねえだろ。」

…っと、気持ちが先走ってどもっちまった。

「あ、そっか。……どうしよう?」

牧野は特に何にも考えていなかったようだ。

俺だからいいものの、まさかコイツ、他の男の前でもボケッとしてんじゃないだろうな?

「今から帰るとか言わねえよな? ウチは腐るほど部屋あんだからよ。今更意味ねえ遠慮なんかすんなよ。」

放っといたらこの夜道を1人フラフラ歩いて帰るつもりなんだろう。

分かりきった答えなんて待つわけもなく、俺は先手を打った。

「あははは!それもそっか!じゃ、腐っちゃ勿体ないし、泊まらせて貰おうかな?」

「おー。 そうしろ。」

「お世話になりますっ!」

ぺこっと俺に頭を下げた牧野。

ーーーー まあ、お前は俺と一緒の部屋に決まってるがな。うるせーから言わない。事後承諾だ。

「道明寺、あのさ。」

「ん?」

「その前に、ついてきて欲しい所があるの。少し時間いい?」

「んあ?あ、ああ。いーけど。」






「……ここか?」

「うん。」

手を引かれ、牧野に連れて来られたのは、先程も訪れたばかりの場所。

牧野はそこにペタンと腰を下ろすと、俺とよく似た白黒写真の女をじっと見つめていた。


ーーーー 牧野のやつ、何を考えてんだ?


暫しの時間が流れ、意を決したつくしが顔を上げる。



「あたし、道明寺が好きです。」


「ッ、まき……?」


「4年前 貴方と、どちらが道明寺……司という男を幸せに出来るか、勝負をしました。」

「でもあたしは、情け無いことに、道明寺を幸せにする方法が何も思いつかなかった。」

「出逢いは……最悪で。いつもケンカばかりで、笑った顔より怒った顔ばかり見てたあたしは、どうすれば道明寺を笑わせてあげる事が出来るのか全然わからなかった。」

「自分はいつも道明寺に助けて貰ってた癖に、この大きな家でいつも一人でいる道明寺をどうやって幸せにしたらいいのか、そもそも、家を捨ててあたしと一緒に居る事が本当に道明寺にとって幸せなのかわからなくなって、彼と一緒になる決意も、彼に直接別れを告げる勇気もなくて逃げ出しました。」


「でもっ…!」


「でも、離れたこの4年間、ずっと忘れられなかった。胸の中に道明寺がずっと住み着いて、思い出すと苦しいのに、温かくて……」

パタ、 パタ……

「………………好きなんです。」

「今更、あたしにこんなこと言う資格無いのもわかってます。でも好きなんです。あたしが幸せにしたい。どうしても、諦められないんです……!」

「あたしは、道明寺 司を 愛しています。」

「ただ一人の男として、愛しています。今度こそ、絶対幸せにします!絶対に、後悔はさせません……っ!だから、」

「彼を、あたしに下さい。」

「お願いします。」










仏壇の前で綺麗に頭を下げた牧野。

その独白はあまりにも唐突で、正直、目の前で何が起こっているのか把握しきれない。

だけど。

牧野が、俺を好きだって言った。

いや、それだけじゃない。

俺を、…………愛しているとも。

「まきの……。」

唯一、愛している女に愛されるとは、こんなにも幸せな事なのか。

「俺も、お前を愛してる。」

堪らず抱き締めた腕の中から聞こえた、小さな泣き声。

身体は震えていて、俺を好きだと泣く牧野が愛おしくてたまらない。

もう二度とこいつを離せねえ。

「牧野。」

「……っえ?」

「結婚すっか。」

「え?あ?今なんて?」

「聞こえてただろ。だから、結婚しよーぜ。」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「…………おい?」

「でも、道明寺のお母さんが……」

「は? ババア?」

「いきなり結婚だなんて、そんな…」

「ババアは関係ねえだろ。結婚すんのは俺とお前の問題だし、ババアにはなにも言わせねーよ。」

「……。」

「第一、ババアにはもう反対なんてする理由も権利もねえ。そんな心配なら、本人に聞いてみろ。」

ーーーー 牧野が心配そうな顔をした後、仏壇の写真に再度振り返る。

「いいのかな……。」

独り言か、それとも俺に聞いているのか。

わからないけど、黙って牧野の頭をポンポンと撫でてやる。

「あのよ。ちょっと聞きてえんだけど。」

「なに?」

「お前、何でさっきからこの写真に向かって喋ってんだ?」

「な、何でって、そりゃそうでしょ? ここにはあんたのお母さんが ーーーー」



ガラッ!




「さっきから、貴方達は一体何をやっているのかしら。」


時が、停止した。




*********






「おーーッ、滋ー?」

「あ、みんなっ!」

「おっまえ、おせーよ。」

「ごめーん! 何着ようか迷っちゃってさ~。せっかくつくし達の晴れ舞台なんだもん。」

「……そうだな。」

「ああ、やっとだ。」


いつもよりめかし込んだ男女6人が、晴れ渡る青空の下を歩く。


「みぃんなぁ~!待ってよぉお~!」


そこに、気が抜ける声が聞こえた。


「「ゲッ、和也!」」

「あ、忘れてた……」

あきら・総二郎が頬を引き攣らせた後、今思い出したらしい類が悪びれもなく言ってのけた。

「ええ~~ッ!酷くない!?ぼかぁねッ!ここにいる誰よりもつくしちゃんと、ながぁ~くて、ふかぁ~い付き合いがあるんだからねっ!それこそ憎っくき道明寺よりも……ってあいたたたたぁ~~!」

ギリギリギリ……

「和也てめー、調子に乗んな!あいつは俺の女だッ!」

「「 司っ!」」

「あいつの1番は俺なんだよ!あいつの夫であり、男であり、あいつが1番愛してる男はこの道明寺 司様だっ!わかったか!」

「わ、わかった!わかったから、そろそろ和也を解放してやれっ!」

「…………ぐぎゅ。」

カクッ

「あ。オチたね。」

「なんだよ、情けねーなッ!」

ぺいっ

「っうおおおい! いくら和也でも投げ捨てるな! 打ちどころによっちゃ死ぬぞ!」

無残にも意識を刈り取られた和也を、あきらがキャッチした。

「あーあ。和也くんのしちゃって。つくしに怒られても知らないよ?」

「知るかっ!」

「それより司、何でこんな所にいるの? 新郎・新婦は控え室に居なくちゃいけないんじゃないの?」

「……あ~~。ちょっとな。」

「なんだよ、ちょっとって。」

「いや、まだごちゃごちゃ言ってっから……ちょっとな。」

「……ぅおいおいおいおい!大丈夫かよ!?」

「不穏な気配しかしねえッ!」

「ブククッ……牧野はまだ、悪霊に取り憑かれてんの?」

「笑うなっ、類!」

「 あ、悪霊ぉ~?」

「まぁ、そーいう事だ。」

「「 いや、どーいう事だよッ!?」」

「とりあえず、お前ら来い!あのじゃじゃ馬をなんとかしろっ! 」

「……また、何やらかしたんだお前。」

「エラそーに言ってるが、要は助けてくれって言ってんだな……。」


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