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未来の先に見つけたものは 1

「今日から、日本支社で働くことになった。よろしく頼む」

「「「はいっ!」」」

日本支社に出勤して1日目。

ごく僅かな人数にだけ挨拶をする。

こいつらは、俺を除き上から数えた方が早い。つまり、これから俺の手足となり働く地位の高い奴らばかりだ。

「では後ほど」

「ああ」

軽い挨拶の後は、それぞれの持ち場に戻っていく。

俺も早々に真新しいデスクに座り、”副社長室”と刻印された雰囲気の良い部屋を見渡した。

ーーーー うん、悪くない。


「ここ数年の資料持って来たか?」

「ここに」

準備の良い秘書から資料を受けとり、今から自分がしなければいけない事、問題点、改善点、課題点、と、次々と自分の頭にインプットしていく。

「ん?」

「……どうされました?」

資料を速読してる最中に、幾つか気になる点があった。

「いや、ここの営業企画は随分優秀なんだな」

そう、近年随分とグラフが上昇しているところは決まって営業企画部だったのだ。

「はい。営業企画部は少し前に入った新人が優秀みたいで、」

「ふーん」

「最近じゃ、絶対無理だって言われてた金井物産との契約も、その子がとってきたみたいですね」

「……そいつ何歳?」

新人と言うからには若いんだろうが、金井物産といえば、花沢物産と同格……か、ちょい下の大手だ。

「副社長の一つ下だと聞いています」

「26?」

「はい。若いながら営業企画部のエースとして頑張っていますよ」

「…………へえ」

26歳の若さで、大手の企業から契約をもぎ取ってくる男。

自慢じゃないが、俺ならそれ以上の契約も可能だと思う。

だがそれは、俺の家柄、容姿、学歴、それらが可能にしているのは理解している。

「ただ……」

「あ?」

「明日から、その人物が副社長の第一秘書を務められるのですが……」

とても言いにくそうに、明日にはNY行きの元秘書が告げた。

「それ、大丈夫か?」

「秘書検定は持っているとか……」

「……」

そういう問題じゃないのは、元秘書もわかっているんだろう。冷や汗がハンパなかった。

26歳の若さで営業のエースなら、秘書の経験もあるはずがない。この道明寺HDで、片手間仕事でエースと呼ばれる仕事など出来るはずもないのだから。

「……頭痛え」

なんなんだ、この無茶苦茶な人事は。

アイツか。またあの親父なのか。

「まぁ、仕方ねえな」

グダグダいっても始まらねえ。

そいつを俺が育てるか、どうしようもないなら切ればいいんだ。

そこまでしてダメなら、俺が文句を言われる筋合いもないだろう。

どっちにしろ会って見ないとわからない。

そう考えて、翌日秘書と顔合わせをした俺は、自分の勘違いとその事実に衝撃を受けるのだった。


*********

翌朝。

俺の目の前にはやたら細っこくて、黒目黒髪のメガネを掛けた あまりに化粧っ気のない女が立っていた。

「牧野です」

シンプルにそれだけ言うと、不貞腐れた顔で、渋々頭を下げられた。

ますますもって意味がわからなかった。

「……おい」

「はい」

返事をしたのは元秘書のみ。

「なんで、女がここに居る? 新しい秘書連れてくる予定だろ」

「……は?」

言われてる意味がわからないと、元秘書はキョトンとした。

「だから、新しい秘書連れてくんだろ!?」

「……牧野が、そうですが」

「あ?」

こいつが? 俺の新しい秘書だと?

今まで俺に付いた秘書は何人か居るが、その全ては男に指定して来た。なのにここに来ていきなり女秘書(未経験)の登場に思わず眉間に皺が寄ったまま女秘書を睨み付けると、

「……元営業企画部の牧野つくしです。この度副社長に就任おめでとうございます。秘書経験の無い私が、な・ぜ・か 優秀な副社長の秘書という人事ミスとしか思えない配置で大変恐縮しております。つきましては、いつでもこの場所を明け渡す準備は出来ておりますので。なんなら今すぐにでも」


「…………なんだお前」


変な女が現れた。

来て早々これでは、秘書はしたくないと言ってるようなもんだ。

いや、ワザとなんだろうけどよ。

「……ほんとサイアク」

「!?」

しかも、秘書の口からボソッと漏れた本音。

秘書(予定)は独り言が俺に聞こえてるとも知らず、まだなにやらブツブツ言っている。

「ま、牧野さん?」

「あ、はいっ?」

口元をヒクつかせた元秘書に呼ばれると、ハッとした牧野とか言う女は顔を上げた。



肩まで伸ばされた、ハーフアップの艶やかな黒髪が揺れる。


厚いメガネの奥には、意志の強そうな大きな瞳。


その下の首元には球体のネックレス ーーー ?


「……」

「副社長?」

「いや、なんでもねえ」


何故だろう。

胸がザワザワする。


「お前、俺とどっかで会ったことねーか?」

「……ナンパですか? 副社長、案外古い手を使うんですね」

「……」

ダメだ。会話になりそうもない。

俺にこんな失礼な知り合いはいない。居てたまるかってんだ。

「ま、いいや。 取りあえずお前ら引き継ぎしとけ。時間は今日1日しかねーからな」

「あっ、副社長はどちらへ!?」

「お前らが使いモンになるまで、外でタバコ吸ってくる」

どうせ今日1日は潰れちまうだろう。

そう言って、屋上へと向かった。
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