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未来の先に見つけたものは 2


「あっ、またこんな所に居たっ!」

「……?」

屋上で少しうとうとしていた俺は、いつもの声に現実へと引き戻された。

「ふぁ……。お前はいちいちデケーんだよ声が」

「何言ってるんですかっ!就業中にサボって昼寝してる副社長が悪いんでしょう!!」

ガミガミガミガミ。

口煩くやかましい女秘書・牧野は、欠伸してる俺を見上げて怒鳴りつけるのが日課のようだ。

「仕事はちゃんとやってるだろ」

「そういう問題じゃないっ!ウチはフレックスタイム制じゃありません!」

「今度導入するか」

「導入したとしても副社長に当てはまる訳ないでしょうがあーー!!!」

「うるせえ。もっと声を小さくしろ」

「誰のせいよ!!」


最近、人生が退屈で死にそうだった俺に、仕事以外の趣味ができた。

女秘書・牧野をからかって遊ぶコト。

我ながらガキっぽいと思うが、殊の外楽しくて困る。

「何、にやにやしてんですかっ」

最初から礼儀とか何もない奴だったが、それに輪を掛けて遠慮が無くなった。

「いや、牧野は可愛いなーと思ってよ」

「んな、なな、な……!?」

見た目通り男慣れしていないだろう反応も笑える。

「嘘に決まってんだろ。ブス」

「……」

ピシッと青筋が入ったのにも笑って、コロコロ変わる表情も可笑しくてまた笑う。

牧野に出逢ってからは笑いっぱなしの毎日で、すげー新鮮だった。

なんでだろう、こいつが近くに居ると、退屈で堪らなかった日々に色付けがされていく。

長い冬の後の、春の暖かさに似た心地良さすらも。

心が救われる感覚……とでも言うのか、俺に反発してばっかで決して媚びなんか売らない、むしろ初対面から喧嘩売ってくるような奴に。

そんな日々が続くと、牧野にどうしようもなく惹かれている自分がいるのを自覚せざるを得なかった。

淡い初恋とでも言えばいいのか、だけど、この感覚を昔から知っていた気もして、ずっと妙な感覚が俺を襲っていた。

「……そういやコレ、誰に貰ったんだ?」

最初に会った時から気になって仕方なかった、胸元のネックレス。

指で鎖をひょいと持ち上げ、まじまじと見つめる。

球体のソレが、相変わらず俺の胸をザワつかせた。

「? いえ、自分で買いました」

「……そうか」

てっきり、他の男にでも貰ったのかと。

「珍しいデザインだよな」

「……そうですか?」

「ああ、あんまねえだろ。これ ”月” のデザインなんだろ?」

「ええ。よくわかりましたね」

「……俺は土星の方が好きだけどな」


本当に何気なく言った言葉に、牧野が動揺していることなんて、その時はちっとも気づかなかった。



********


「牧野」

「はい?」

「俺 今日はここに泊まるから、お前は適当に切り上げて帰れ」

「……また、ですか」

「ああ」

定時の少し前、牧野に告げると 嫌そうな顔を隠そうともしない牧野だが、こっちにはこっちの都合があんだよ。

「なんで、昼間に仕事しないんです?」

昼間は執務室を抜けてばっかの俺が、夜になると帰りもせず仮眠室で明け方まで集中して仕事してるのを、こいつは知っている。

「仕事してた方が気が紛れるからな」

「??」

「俺、夜あんま寝れねーんだ」

「えっ!?」

「だから毎日ここに泊まるか、自宅に帰ってもジムに篭って限界まで身体動かした後 無理矢理寝てるかなんだよ」

……誰にも話した事はなかった。

知ってるのはウチの使用人くらいで、今までの秘書も気づいてはいただろうが特に触れてきた奴も居なかったから。

「……なんで?いつから?」

「あ~。高校卒業前くらいからか?」

退屈で仕方ねーのに、なぜか眠ることが出来なくなった。

医者にも掛かって、あの刺された事件が原因かとも思ったこともあるが、どうやらそれが直接の原因ではないらしい。

渡米してからは、持て余したその時間は勉強に当てた。

面白くもなんともないが、ボーッとするよりは時間を忘れられたから。

元々、NYの大学には行くつもりだったから調度良かったのもある。

「でもそれじゃ、か、彼女とかと会う時間もないでしょ?」

「……いねーよ、そんなん。つーか要らねえ」

「え、でもっ、副社長くらいの人なら婚約者くらいいるんじゃ」

「まぁ、昔は居たな」

「……」

「でも、全部破棄した」

「なんでですか」

「なんでなんでって、お前なぁ……」

呆れながらも、質問だらけの牧野に求められるまま答えていた。

思いっきりプライベートな事だらけだったが、不快感を感じる事なくスルスルと出てくるのが自分でも不思議で。

「お。もうこんな時間じゃん。アブねーから早く帰れよ」

ふ と横を見れば鮮やかな夕焼けが目に入る。

時間が経つのも忘れて話し込んだのなんていつ振りだろう。

「副社長は、静かに破滅を待っているみたいですね」

隣の声に釣られて見れば、眉間に皺を寄せる牧野の横顔。

「……なんでお前が泣きそうなんだよ?」

「え、あっ!ちょっと!」

でかい瞳に溜まる雫に苦笑して、眼鏡を取り上げる。

「……うわ。すげえ目ぇクラクラする」

「か、返して返して!見えない!」

試しに一瞬掛けてみたが、相当目ぇ悪いぞコイツ。

「伊達じゃなかったんだな」

「昔は良かったけど、大学受験とかの勉強で悪くなっちゃったんですっ!もう早くかえせバカッ!」

「お前な、上司に向かってバカは余計だっつー……ッ!」

メガネを高く上げて牧野を見下ろすと、眼鏡無しのキラキラした瞳と目が合った。


ーーーー どくん。



「……!?」



ーーーー どくんどくんどくんどくん。



なんだコレ。


頬が、あつい?



「早く返して下さいよっ!」

「……あ、あぁ」

「お疲れ様でしたっ」

パシッと眼鏡を奪い返して、ぷりぷり怒って部屋から出て行く。

俺は、その後ろ姿から目が離せなかった。








「…………やべ」


完璧、落ちた。
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