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未来の先に見つけたものは 5

「またこんなとこで寝てっ」

「んっ……?」

それは、風も柔らかい春の空の下。

「寝るならベッドで寝て下さい!屋上なんかで寝て雨でも降って来たらどうするんですか!」

「……お前が起こせばいいだろ」

「その前に会社で寝るなっ」

「頭痛え。身体もだりぃ。ちょっと肩貸せ」

「もうっワガママ!……ほら、しっかりして!」

何だかんだ文句を言いながら、俺に肩を貸す男前な女。

牧野の華奢な肩に凭れかると、柔らかな陽の匂いが鼻腔をくすぐった。

「なあ」

「なにっ」

もう遠慮もクソもない態度に笑えてくる。

「牧野、キスしよ」

「また引っ叩かれたいんですか」

「そういやお前、俺以外とキスした事あんの?」

「……セクハラで訴えますね」

「お前は俺の女なんだから、聞いて何が悪い」

「だから、いつからあたしがアンタの女になったのよ!!」



ーーーー 前回のデート。

衝動的にキスをした夜。食事前の宣言通り、綺麗なもみじを左頬に作って帰った事を思い出す。

「ケチ。いーじゃん、キスくれえ」

「あのね、副社長はNY帰りだから誰とでもほいほいキスするかもしれませんけど、あたしは奥ゆかしい日本人なんです!」

「奥ゆかしいだあ? 人に平気でパンチ喰らわすお前が奥ゆかしいなら、日本中みんな奥ゆかしい事になっちまうだろ」

「うるさいッ」

そう怒りながらも、右肩に回った俺の腕を振り解こうとはしない。

以前、牧野に触れる為、嘘をついて凭れかかろうとした時はすぐにバレてパンチを喰らったというのに、今みたいに本気で怠い時は振り払おうとはしなくて。

「やっぱお前、俺の事好きだろ?」

「自惚れないで」

「……」


ーーーー たぶんだが。

それは、俺の勘違いではないと思う。

だけどそれでも、俺の胸に飛び込んで来ないのは何故なのか。

「お前、俺が好きな癖になんで素直にならねーの?」

「勘違いも甚だしいですね……さ、着きましたよ」

「あ?」

軽口を叩いている間に連れて来られた医療室。

「こんなとこには用はねえよ」

「あたしがあります」

「は? お前どっか気分悪いのか!」

それは大変だと、体重を掛けてた肩から慌てて飛び退こうとした。

「いいえ?」

だが、何時になくガッシリと掴まれた手が俺を離そうとはしない。

そのままズルズルと力任せに部屋の中へと押し込まれると、近くにあったソファーに座らされた。

「……おい?」

なんなんだ、一体。

「副社長に、しっかり休んでいただく為に」

「!?」

牧野の不自然な笑顔が近付いてくる。

「さあ、これを飲みましょうか」


ジリジリと。

着実に。

何かを口に含んだ牧野が、


どんどんどんどん、近付いてくる。


「ちょ、……おまっ!?」


掴まれた胸ぐら。

近付いて来た、牧野の顔。

すぐに 柔らかい感触が唇を割った。


「ンッ……!?」

ゆっくり絡まる舌から感じる生温かさと、柔らかなそれから伝ってくる液体。

驚きで目を見張った俺が見たものは、牧野の赤い顔で。






ーーーー ゴクン。



「っは……!ぁ……ん?んんーッ!?」



俺に何かを飲み込ませた後 すぐ離れようとする牧野の舌を捕まえて、夢中で吸った。

散々唾液を行き来させてはまた吸って、漸く唇を離せた時は 最初に感じた液体の苦味はなくなっていた。

「……っはぁ、なにすっ」

飲み込みきれなかった唾液が、牧野の顎を伝っている。

その溶けた女の顔にぞくりと。

すぐそばにあったベッドが余計に興奮を高め、浮かされた欲望のまま立ち上がり、牧野に手を差し出した。






ーーーー ガクンッ!



「……あ?」



だが、その手は空だけを掴んでいた。


「……やっと、薬が効いたみたいですね」

急激に視界が変わり、ずっと 見下ろしていたはずの牧野の声が頭上から聞こえる。

「ま、きの……?」

顔がみたいのに、身体がまともに動かない。

「副社長が悪いんですからね」

「おまえ、なにをいってる……?」

気がつけば膝立ちになっていた俺は、緩慢な動きで牧野を見つめた。



「…………ほんと、バカなんだから」



視界が悪い。

全てが霞んで見える。

そんな中でも、牧野の声が震えているのがわかる。

「泣くな……牧野」

牧野の髪に触れた所で、俺の記憶は途絶えた。
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