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未来の先に見つけたものは 8

ーーーー 俺にとって、衝撃的だったあの日から1ヶ月。


「副社長、次の会議資料です」

「あぁ」

次の日には、何もなかったみたいに出勤してきた牧野に拍子抜けして、腹立たしいやらホッとしたやらで複雑な気持ちを抱えていた。

「訂正はありませんか?」

「……まぁ、いんじゃね」

どうせ、粗探しのしようもないだろう資料を手に取り、パラパラと目を通す。

「今日はお昼はどちらで?」

「いつも通りで頼む」

「……偶には外に出たらどうですか」

いつも執務室で配達させた弁当を食う俺に、そんな言葉が返ってきた。

俺が外で食べないと牧野も一緒にここで食う事になるので、暗に昼休みは解放してくれと言っているのかもしれない。

「別に、死ぬわけじゃねえんだからどっちでもいいだろ。なにより面倒臭え」

「……」

おまけに、牧野に胡乱な目を向けられている気がしないでもないが、気にしてられるか。

だって、お前とゆっくり過ごせる時間は今くらいだろ。

「お前、さ」

「はい?」

「そいつの事どう思ってんだよ」

ずっと、聞きたくて聞けなかった事。

あれから1ヶ月過ぎたが、やはりと言うべきか それらしき男は牧野の近くには居なくて、弁当をパクつく牧野に探りを入れてみる。

「そいつとは誰の事ですか」

「だからあの、ほら……、前に言ってただろ。お前の前の男」

「……っそれが?」

「まだ、そいつのこと好きか?」

「ッ!?」

動揺した牧野に尋ねておきながら、返って来て欲しい言葉はひとつだけだった。


ーーーー 頼むから、もう好きでもなんでもないと言ってくれ。


出口の見えなくなりそうなこの恋は苦しくて、手に入らないかもしれないと思うほど牧野への想いは一層強くなり、だけども行き場のないこの熱はいつまで経っても冷めそうにない。


隣にはいつも、手を伸ばせばすぐに届きそうな距離に牧野がいて。

華奢な細い指と、

眼鏡の奥の大きな瞳。

サラサラの黒髪と、色づいた唇。

牧野の全てに触れたくて、見つめられたい。

だけど触れる事は許されなくて、もう、頭がおかしくなりそうだった。


「…………全然、好きじゃない、ですよ。はは、なに言ってるんですか」

「……」

力なく笑った牧野に、欲しい言葉を貰えたはずなのに。

なんでだよ。

好きじゃないなら、なんでそんなに辛そうな顔をする?


「じゃあ、捨てちまえよ」

「お前を 捨てた男の事なんか」


牧野にこんなに想われている男が 憎くて、羨ましくて仕方ない。

俺の方が牧野を好きなのに。

俺の方が牧野を大事にしてやれる。

そんな最低な男、牧野に想われる価値もないだろう?

「……あなたに、何がわかるんですか」

ムッとした声が届く。

「もう好きじゃないんだろ」

「好きじゃないです! 好きじゃないけど、でもっ、あたしの過去に副社長は何も関係ない!」

「……関係なくねえ」

「ッ!?」


好きじゃない、と言った牧野。

でも 嫌い、だとも言わない。

……いや、言えないんだろうか。

そう考えたらたまらなくて、隣の牧野を強く抱きしめていた。


「好きな女が苦しんでるのに、黙って見てらんねえ」

「そいつの代わりでもなんでもいいから、お前の傍に居させてくれねえか?」

「な、代わりって……」

「もちろんずっとじゃねえぞ。お前がちゃんと笑えるようになったら、もっかい口説くからな」

「……え?」

「これ以上、一人で抱えんな。俺が居るってこと忘れんなって前に言っただろ?」

「……っ」

少し身体を離してやると、瞳いっぱいに溜まった涙が今にも溢れ落ちそうだった。

「ばか、唇噛み締めんなって」

「……だっ、で」

ぐちゃぐちゃな泣き顏に、笑ってキスを落とす。

瞼に。

額に。

頬に。






” 愛してる ”


世界中の誰よりも。



俺の腕の中で、際限なく溢れ出る涙は 過去を洗い流す為に必要な儀式だった。

タガが外れたみたいに泣いて泣いて泣いて。

この細い身体で、背中にしがみついてくるこんなに頼りない存在を、誰が守らずにいられるというのか。

たまに八つ当たりなのか、俺の胸をボカスカ殴ってくるので何故かと聞くと

「これは、アンタが受けなきゃいけない罰よ」

と、訳のわからないことを 言われた。

まぁ、女の力じゃそんなに痛いわけでもねえし、こいつに拒否られる胸の痛みの方がよっぽど痛いので甘んじて受けよう。

「牧野、お前が好きだ」

「……っあたし、は」

「何にも言うな。ただ、俺の傍にいてくれるだけでいいから」

「今は、黙って抱きしめられてろ」




牧野の全てが愛おしくて


俺の全てで、守ってやりたいと思った。
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