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未来の先に見つけたものは 9


涙も枯れつくしたのか、腕の中から聞こえるのがすんすんと鼻を啜る音だけになった頃。

まだ若干震える声が、俺へと向けられた。

「あんたの気持ちはわかった」

「……なら」

「でもやっぱり、忘れられないと思う」

「……ッ!」

抱きしめていた俺を剥がしにかかり、涙目ながらもしっかり告げられた牧野の本心。

「……そんなにそいつが好きか?」

怒りか、ショックからかはわからない。

握り締めた手と声が自然と震えて、ただただ悔しいとしか感じられなくて

「わかんない。でもたぶん、ずっと、好きだったから簡単には消えないよ……」

言いながらまた潤んでくる瞳が綺麗で

綺麗過ぎる、一途すぎる穢れない牧野の心に触れたくて、でも触れてしまえば脆く壊れてしまうんじゃないかと思わせた。

「だから、ごめん」

「……っ!」

「あんたと付き合っても、きっと比べてしまうと思う。だから、ごめんなさい」

「…………好きだ」

「副社ちょ…」

「お前じゃなきゃ、いやだ!」

「……ッ」


ーーーー ああ、違う

お前を泣かせたいわけじゃねえのに。


「俺だってお前が好きなんだ。お前が誰を好きだっていい。 忘れられないなら、忘れられるまでお前を待っててやる! だから、俺から離れて行こうとすんな……ッ!」


……自分勝手だってわかってる。

でも今何か言わないと、無様でもなんでもいいから牧野を捕まえておかないと、今度こそどこか手の届かないところへと消えてしまう。

そんな経験はない筈なのに、確信に近い俺の勘が 今ここで牧野を絶対に逃してはならないと告げていた。

「……でも」

彷徨う視線は、可能性は0ではないとも。

「迷うくらいだったら俺を選べ!後でいらないと思ったら俺を捨てればいい」

「なっ」

「今だけでもいい。もし、そいつが帰ってきて お前がそいつと俺の間で迷うなら、またそん時選べ」

「そんなこと、出来るわけなっ」

「無茶苦茶言ってんのもわかってる!だけど牧野、頼む……!」

何度目かもわからない抱擁。

今の俺には牧野が好きだって気持ちしかなくて、牧野にしてやれることなんて全然思いつかない。

だけど、笑っていて欲しい。

ずっと、俺の傍で。

「お前が俺を嫌いじゃないなら付き合って欲しい。絶対後悔はさせねえから」

この手で

守りたいんだ。


「……返事は今日の夕方、待ってる」


昼休み終了の合図と共に 頭のてっぺんにキスをした。

牧野へ届くようにと想いを込めて。



***********


「なんでこんなことに……」

自然とため息が漏れた。

今もまだ、じくじくと痛む過去の傷。

あたしはどうすればいいんだろう。

……ううん。どうしたいの?

自分の心と向き合う時間は余りにも短くて、だけど、ここで断ってしまえばそれこそ二度と会えなくなってもおかしくない人なんだと、イヤというほど知っているからこそ。


ーーーー 思い出の中で、今も笑ってる道明寺。


あたしが好だった人はもういないと思って過ごしてきたから、同じ笑顔を向けられる度に塞がった筈の傷口が疼くような感傷を覚えた。

『お前じゃなきゃ、いやだ!』

……血を吐くかのような、叫び声だった。

あたしは、今の道明寺が好き?

わからない。

そんなの、全然、


「わかんないわよ……ばか」


やっと 封印出来たと思っていた記憶は、こんなにも簡単に開かれてしまった。

27歳の道明寺が笑ってても、18歳の道明寺を思い出して胸が切なくなるのか、それとも今の道明寺に対してなのか。

過去と今

あたしは何処にいるんだろう。


***********


今か今かと待ちわびた就業定時時間。

牧野の口から、色よい返事を貰えた。


「いいよ。あんたと付き合う」

「まきっ、」

「ただしっ!」

「……あ?」

感激して、腕の中で揉みくちゃにしてやろうと思って伸ばした手にストップがかかる。

「ちゃんと夜は家に帰って寝ること!昼間はサボらないで仕事をして、体調悪いならちゃんと病院に行きなさい!」

「…………お、おう?」

付き合って早速、彼女というより、まるで母親な台詞を吐かれた。

いや、実の親にも言われたことねーから よくわかんねえけどよ。

「あと、会社の中でむやみやたらにくっつくな!」

「……わかった」

言われて、牧野へと向けていた腕を仕方なく下ろす。

まぁ、牧野と付き合えんならなんでもいい。会社がダメなら今すぐウチに行こう。うん。そうだそれがいい。

「それから、期間は3ヶ月!」

「……あ?」

「期間限定ね!」





「ハァアアアッ!??」

ーーーー コイツは何を言ってやがる!?

「この期間に、あたしを惚れさせてみなさい!」

「んなっ!?」


ビシッと突きつけられた人差し指。

ある日突然に

戦いの火蓋は切られた。


********


それから1週間後の日曜日。

「なー、牧野」

『ん?』

「デートしたい」

『……交通手段は?』

付き合ってから初めての休みなのに 急に入った出張で牧野に会えなくて、今度の休みこそは絶対牧野と過ごしてやると誓った俺。

牧野に言うと『ほぼ毎日会ってるじゃん』と笑われたが、それは違うだろ!?

仕事中は手を繋ぐ事も出来ねーのに、本当に会うだけだとかありえねえ。

もっとずっと牧野を見てたいし、仕事以外の事を話したい。

そんなこんなで、ようやく仕事を終えた日曜の夜10時に 牧野と小さな機械で繋がっていた。

「あ~、そうだな。流石に海外行く時間はねーから、国内だとポルシェ、ランボルギーニ、BMW、他にも色々あるけどお前何がいい?」

『はい却下』

「……なんで」

『なんでもなにもないの。電車かバスか徒歩、もしくは自転車で行ける範囲ね』

「なんでだよっ、フツー女ってのは車のが喜ばねえ?」

『あたしはフツーの庶民デートがしたいの』

「しかも自転車乗ってデートって……」

この俺様が?

あり得ねえ。

っつーか、乗った事ねえ。

牧野とめでたく(?)付き合えるようになったが、すぐに甘い雰囲気とはいかなくて、

『あっ、誰か来た!』

「……こんな時間にか? やめとけ、出るな」

こちらまで聞こえたインターホンが来客を知らせた。

『大丈夫だって、今日泊まる約束してた子だから』

「だっ、誰だよ!? 男じゃねえだろうな!?」

『そんなわけないでしょ!女の子よ!』

「…………」

『ったく、バカな事ばっか言ってないで早く寝なさいよね。じゃあおやすみ』

「ちょっと待てッ!まっ……」

ブチッと切れた音がした後は 虚しい音しか聞こえてこなくて、項垂れた。

ここ1週間からの経験上、掛け直しても牧野は出ないだろう。

「……………………くそ」

牧野成分が足りねえ。

牧野に会いたい。声が聞きたい。触りたい。

やり場のない気持ちを抱えているその時だった。

「んッ!?」

サイレントが光り、牧野からのメール受信だとわかってガバッと身を起こす。

そこには ” なるべく小さい車ならいいよ!”と書かれてあって。

「…………短けえ」

本当にそれだけ。

短いけど、照れて怒った顔をして誤魔化している顔が目に浮かぶようだった。
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