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悪い男 1



「お疲れさまでした」

「……牧野」

「はい?」

仕事終わりに、いつものように部屋を出る寸前で呼び止められ、あたしもいつものように振り返った。

人を呼び止めておいて、マイペースにも煙草に火を付けていた男の台詞を待つ事数秒。

悪気もなくタバコを燻らせる男の横顔を、じっと見つめていた。

「…………」

高層ビルの夜景をバックにしても埋もれない存在感。

いつでも無表情で、何も映そうとしない硝子の様な瞳。

その暗い瞳は、何を映せば輝き出すのだろう。

一度でいい。

どんなに冷たくてもいいから、あたしを見てくれたらならーーーー

そんな 関心を引きたくてたまらないあたしの心なんて、背中を向けたままの本人は、知る由も無いんだろう。

いや、そんな女は星の数ほどいるだろうし、そもそもこの男の考えている事なんて、一体誰が分かると言うんだろうか。

……でも、この後に来る台詞だけは簡単に予想出来た。


「 ”いつもの” また適当に見繕っておけ」

「…………畏まりました」

グシャッと潰れる音がして、ハッと我に返る。

力任せに灰皿に押し付けられた煙草を見ていると、二度と真っ直ぐには戻らないのだと言われている様な気さえして。

気持ち急いで執務室を出る。

いつもは振り返って欲しくてたまらないのに、この時ばかりは、こっちを向いていなくて良かったと思った。

情けない顔は、見られたくなかったから。






「ふぅ」

流石に滅入るなぁ。

何回やっても慣れない。

むしろ、もう笑うしかないんじゃないだろうか。

「…………あーぁ」

他の女の人へ贈るプレゼント選びなんて。

まさか、あの人とあたしがどうこうなるなんてお花畑な脳みそは持ち合わせていないけど、辛いものは辛い。

「ま、こんな感じでいっか」

カタタッ、カタカタカタ、タンッ!

とは言っても、悲しきかな。やり慣れた作業は勝手にスイスイと手が動いて、本当に適当に見繕ったジュエリーの数々を前回以前のものと被らないようにだけ気をつけて、ネットで注文する。

値段は怖いから見ない。

副社長の金銭感覚は本当におかしくて、おざなりに選んだそれすら ブルガリ、カルティエ、ティファニー、ハリーウィンストンetcetc……と、庶民のあたしからしたら、頭がおかしいんじゃないかと疑うくらい。

でもそれもそのはず。

彼、道明寺司副社長はあたしの上司で。

世界でも有数の大金持ち 道明寺財閥 御曹司なのだから。

「あーあ……。なんで、あんな人好きになっちゃったんだろ」

そう。

あたしは、そんな道明寺 副社長に恋をしていた。






*********


「これでサヨナラだ」


ーーーー バサッ



「……冗談よね?」

床にばら撒かれた札束。

信じられないものを見たと驚く振りをして、その実、欲望で濡れた瞳に笑みが溢れた。

「冗談?」

「ねえ、私と別れるなんて嘘なんでしょう?」

「……なんで嘘だと思うんだ?」

一見、にっこりと微笑んだ表情は 間近で見ると、彫刻の様な冷たさを湛えている。

「私達、上手く行ってたじゃない! ねぇ、悪い冗談よね?」

「…………」

美しい男は 微笑んだまま、喋らなくなった。

「わ、私っ、ずっと貴方が好きだったの! だから貴方と付き合えた時、夢みたいだって思ったわ!」

「…………」

「貴方ほど素敵な人はいないものっ! 私はもう貴方じゃなきゃ駄目なのよ……?」

男の腕へとしなだれかかり、上目遣いで自分へと媚びる女を無表情で見下ろした。

「好きよ……」

まるで自分は悲劇のヒロインで、自分の為に世界は周っているのだと信じて疑わない態度。

全ては自らの思うがまま、欲しいモノは手中に収めんとする強欲ささえ、男にとってはたまらない。

「私には、貴方だけなの……」

うっとりと目を瞑る女を見ると、愉しくてたまらない男は、口元が歪むのをおさえられそうになかった。







「……クッ」


ーーーー とても、滑稽で。


「え……司様?」

男が突然笑い出したのに女は戸惑う。

ーーーー ドンッ!!

「キャアッ!?」

「俺が好きだって? 面白え冗談だな?」

触れられていた腕を鬱陶しそうに振り払うと、女は呆気なく床に転んだ。

「いた……私は本当に司様のことが好きでっ!」

「じゃあこの男はセフレか?」

「ッ!?」

女が目を剥いた先、男の手には一枚の写真。

それは、腕を組み 男とホテルへと入る直前を、言い逃れしようもないほど正面から正確に撮られたものだった。

「ちっ、違う! ……私じゃないわ!」

さっと青褪めた顔が何よりの証拠になっている事も気付かずに、女は往生際悪く足掻くが、司が聞き入れる筈もない。

「この男もかわいそうだよなぁ。お前と結婚するつもりで、去年から式場まで予約してるんだって?」

「ッ、違うのっ! 私には、貴方しかいないの!その人とはもう別れたのよ!」

「……そんなこと言って良いのか?」

「もちろんよ!私はっ、そんな人知らない!この時だって、私は嫌だって言ったのに無理矢理その人が……!」

「わかった」

「…………司様?」

分かってくれたのか。

ホッと息を吐き出しそうになるもつかの間、男は突然背を向け、一番手間にある部屋の一室へと歩きだした。


「だ、そうだが」


ガチャッ


「…………佳奈」

「貴一さんっ!?」

手間の扉を開けて出てきたのは、顔面を蒼白にした30代前半の男だったが、その男を見た瞬間に、佳奈と呼ばれた女も更に顔色が悪くなっていく。

「な、なんでここに……っ」

「佐渡さん、賭けは私の勝ちという事で宜しいですね?」

「……はい」

「では、ここにサインを」

一人だけ冷静に、何処からか契約書を取り出せば、もう一人の男がさらさらと力無げにサインをしていく。

「…………な、なんなのッ!?」

取り残された女は目の前で起こっている事が信じ難く、醜聞も気にせず喚き散らした。

分かるのは、自分がおざなりにされている事実のみ。

「ねえ、どういう事ッ!? 私を騙したのね司様っ!」

「…………あぁ?」

「ひっ!?」

今まで体験した事のない、恐ろしい眼光で睨まれた女は恐怖で竦み上がる。

「騙すもなにも、俺は一言もお前を好きだなんて言ってねーからな? ましてやバーでも、レストランでも、この部屋にもお前を誘っちゃいない。お前が俺に声を掛けて勝手に付いて来ただけだ。違うか?」

「…………そ、んな」


女はすっかり、この男が手に入ったのだと安心していた。

安心していたからこそ、この男と出会う前に婚約をしていた、このもう1人の会社持ちである男と縁を切るつもりで、婚約破棄の慰謝料くらい道明寺財閥に嫁ぐのなら何ともないだろうとタカを括っていたというのに。

「いいか」

人間が、ここまで低い声が出せるものなのか。

「俺がこの世で一番嫌いなものはな」

今まで、完璧な微笑みがこんなにも恐ろしいと感じた事はない。



「お前みたいな、浅ましい女だ」




” ゲームオーバー ”




声に出さず、口元だけで嗤う。

これが、今の彼にとって唯一の娯楽だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




全国の佳奈さんに土下座。orz orz orz orz orz

またまた、ち★様からの頂きもののお話です。ありがたや、ありがたや。(−人−)ナームー

ダークネスなお兄さんは、好きですか?
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