fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

悪い男 2





何でこんな男を好きになってしまったのか。


そりゃ昔は、あたしだって誰が好き好んで女癖の悪い男を好きになるもんかと思ってたし、昔、親友の優紀が中塚とかいう最低野郎にちょっかい出されてぶん殴ってやった時にも、本当にありえない。一生こんな男選ばないと心に誓った。

だけど、道明寺副社長と出逢ってから。

それは学生時代の猛勉強の末、見事道明寺HDに就職出来た春にはもう、恋に落ちてしまっていた。

「副社長。彼女は第二秘書の牧野です」

「よろしくお願い致します」

「……あぁ」

第一秘書の西田さんに、第二秘書として紹介されたのが彼との思い出の始まりだった。

一瞬合った目はフッと逸らされ、副社長から何となく感じる拒絶は感じ悪いのなんの。

鈍い・鈍感だと学生時代言われ続けてきたあたしがそう感じるくらいなんだから、他の人なら傷付いてもおかしくないかもしれない。

それでも、彼はあたしの上司であり道明寺HD後継者なのだから、せっかく一流企業へ就職出来たチャンスをむざむざ放り投げるつもりはなかった。

「……相変わらず良く食うな」

「食べないと、持ちませんから」

「ほれ」

目の回るような多忙な副社長の秘書なんかしていると、時間の無さに車中で昼食をとることなんかザラにあって、お弁当をしっかり米粒一つ残さないあたしに呆れた声がかかるのもいつものこと。

対照的に、副社長は無駄に大きい身体なのに、いつもお弁当を半分食べればいい方だった。

だからお弁当を食べる時間はあたしの方が自然と長くなり、その間暇なのか副社長は自分が食べなかったオカズを摘んであたしへと投げやり、でもこの高いお弁当のオカズを棄てるのももったいなくて、仕方なしにお腹へ詰め込んでいた。

「…………お前、絶対太ったよな」

「なっ!?」

なんてデリカシーのない男だっ!

た、たしかにこの会社入ってから怖くて体重計乗ってないけど!

「てか、半分は副社長のせいじゃないですか……」

「ま、お前はガリでチビでメガネだからな。太ったくらいでちょうどいいだろ」

「メガネは関係ないでしょ!?」

……いっつも人の事バカにして、だけど初対面よりは態度が軟化してきてたから、たまに副社長が女の人をすごい冷たい瞳で見てるのも気がついた。

ああ、この人は女が嫌いなんだ。

だから、女らしくないあたしには、普通とは言い難いけど、まだマシな対応してくれてるんだ。

なんの根拠もないのに、そう決めつけていた。

そう、思いたかっただけかも知れないけど。








「あぁ、気が向いたら行くよ。じゃな」

「……」

ピッと音がして、通話が終わった事を知る。

ーーーー 彼女だろうか。

それとも婚約者だったり?

タイミング悪く執務室に入ってしまったみたいで、プライベートを覗き見したような居心地の悪さが纏わりつく。

「どうした?」

「……っあ! あの、午後からの視察の時間をお伝えしに」

「そうか」

掛けられた声に、怒られるかもとビクッと反応してしまった。

……はぁ、子供じゃないんだから。

「着替えたら行く」

「畏まりました」

「あ」

伝え終わり、背を向けて仮眠室に向かう副社長を見送ると、予想外に副社長が振り返った。

「お前、朝から髪に米つぶついてんぞ」

「えッ!?」

慌てて手鏡を取り出す。

「……いつ気が付くかと思ってたが、まさか昼まで気付かないとはな」

「っ、早く言って下さいよ!」

「知るか。視察行くのに、米つぶついた秘書連れてたら俺が恥かくから言ったまでた」

「社内でも充分恥ですからね!?」

ぶはっと噴き出す笑い声がして、驚いて顔を上げた。

「ぶっ……くっくっ」

「…………」

「東大のクセして、実はアホだろ? お前」

その時のあたしは、珍しいモノをみて ぽかーんとアホ面晒してたと思う。

「……ほら、取ってやるよ」

その顔は、いつも見ている鉄仮面とは大違いで。

近づいてきた副社長が、子供みたいな笑顔をして笑ってるのが信じられなかった。

「ほんとお子ちゃまだな、牧野は」


優しく、優しく微笑んで。


ほんとに、顔がいい男はズルい。


ほんとに、ありえない。


こんな些細な事で、恋に落ちてしまったのだから。
スポンサーサイト



3 comments

非公開コメント

0 trackbacks

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)