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悪い男 4


「ね、ね! 今度はこれ着てみて!」

「うん」

優紀に付き合ってもらった日曜日。

連れて行って貰ったお店は、今までよく行っていた所よりワンランクかツーランク上のお店で、正に女子力至上主義!といわんばかりにキラキラしていた。

何から見ればいいか、何を着ればいいのか長いこと女子をお休みしていたあたしは全くわからなくて、優紀に言われるがまま着せ替え人形と化している。

「やっぱり、つくしはスカートのが似合うよね! せっかく綺麗な足してんだから、出さなきゃもったいない!」

「そ、そう?」

自分ではそんなこと思ったこともない。

仕事でもいつもパンツスーツで、カラーは黒・グレー・濃紺のみ。

黒髪でポニーテールオンリー。プラス、フチなし眼鏡。

…………ははっ。確かにダメだわこりゃ。

「さてと、今度は下着売り場行くよ!」

「えっ、下着まで!?」

「当たり前でしょ!洋服だけ綺麗にしてても、下着がヨレてちゃ背筋も女子力も伸びないんだからっ」

「よ、ヨレてはないけど」

辛うじて。でも、友の言葉を信じよう。

「軍資金は大丈夫!?」

「うん、たぶん」

学生時間は生活費に学費にと毎月火の車だったけど、道明寺HDの秘書課配属にもなると、両親に毎月仕送りを送ってもまだ余裕があった。

一人暮らしの安アパートな上に、節約はもはや生活の一部だし、就職してからも遊ぶ余裕もなかったので、貯まった預金はそれなりにある。

「よし!ヤル気でてきたよー!」

「え?ちょっ、落ちついて優紀ー!」

ガシッと腕を掴まれ、持てる荷物の量も考えずに売り場を2人で荒らしていく。

普段は大人しいのに、いざとなるとパワーを発揮する親友の熱意に圧倒され、この日は人生で一番お金を使った日になった。


*********


「お前、メガネ忘れてんぞ」

「いえ、コンタクトにしたので大丈夫です」

「…………そうか」


あれから、分厚かったメガネはコンタクトに変えて過ごしていたら、3日後に副社長が気付いた。

ていうか、メガネを忘れるわけないでしょうともの凄く突っ込みたい。

自慢ではないが、あたしはかなりの近眼で、メガネがなかったら書類の文字を読むのも一苦労なのだ。

まぁ副社長があたしの視力を知ってる筈もないので、わざわざ言うつもりもないけど。

「お前、かみ……」

「紙? これですか?」

一枚ひらりと落ちた書類を机上に戻す。

「……お、おう。さんきゅ」

「??」

何時になく挙動不審な副社長。

具合でも悪いのか?

「体調悪いんですか?」

「あ? なんで」

「だっていつもより、顔赤いですよ?」

この人は、かなり無茶をしても翌日にはケロッとしているタフな人だ。

完徹でも3日までは余裕で、しかもショートスリーパーだからすぐ回復するし、長期の海外出張の翌日でもいつもどおりデート(?)に出掛けていた。

…………いけない。思い出したらイラッときた。


「早く治して下さいね?」

「…………ん?あぁ」


話をあまり聞いてなさそうな副社長に、持っていた市販の風邪薬を無理矢理握らせる。

だって放って置いたら、なんにもしないんだもんこの人。

バケモノ染みた体力なのは認めるけど、倒れられて困るのはこちらなのだ。過信は良くない。

「白湯でも持って来ます」

「おい、別にいら……」

去り際、副社長が何か言っていたけど、閉じたドアの音にかき消された。







「お前さ」

「はい?」

「なんで髪切ったんだよ」

「…………へ?」

移動中の車の中、これから向かう企業の資料に目を通していた副社長が、そんなことを聞いてきた。

「なんで、って……」

切りたかったからに決まってるでしょう。

そのままそれを伝えると、副社長は尚更ムッとして、

「それに、なんでスーツ変えた? お前ずっとパンツスーツだっただろうが」

「…………」

一体何を言い出すんだ、副社長は。あたしには意味がわからない。

「…………え〜っと。パンツスーツじゃないと駄目でしたか?」

同じ秘書課の見目麗しいお姉様方は、スカート9割だったのでそんなことはないと思ってたんだけど。もしかしたら副社長付きの秘書はダメだとかあったんだろうか。

「…………いや、そんなことは」

「?」

そのまま口の中でもごもご言って、良く聞こえなかったけどダメではなさそうだ。

「良く分かりませんが、先にお昼頂きますね」

何やら悩み始めたので、取り敢えず放っておく事にする。

「いただきまーす」

今日の玉子焼きは自信作で、なかなか上手く出来たと思う。

今までは忙しいのもあって、副社長と同じお弁当頼んでたけど(だってタダだし)、外食よりはマシとはいえ豪華なお弁当だったから、カロリーオーバーで太ってしまっていた。

だから自分をこれ以上甘やかさないように、3年ぶりにお手製のお弁当が復活したのだ。


パクッ

もぐもぐもぐもぐ

…………う〜ん。我ながら美味しい。



1人満足し、コクッと頷いて食べ進めていくあたしの事を副社長がずっと見ていたなんて、その時は全然気がつかなかった。
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