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悪い男 5


「やだ、司さんたら~」

「いえ、貴女には私よりもっと相応しい人が居ますよ」

「そんなことないですぅ」

あははは

うふふふ

そんな音が聞こえて来そうな男女の会話だった。

「…………えーと」

少し開いたままのドアの外。

この場合、お茶を持って来たあたしはどうすればいいのかな?

………………このまま立ち去るか。

幸いな事に2人は、あたしの姿に気づいてなさそうだしね、うん。

「牧野、早く入れ」

「いっ!?」

物音をさせないよう、ゆーっくり回れ右していたのに、中にいるはずの副社長から呼び止められてしまった。

なんで!? 扉の外にいるあたしが何でわかったの!? 副社長はエスパーなのかっ!?

「…………失礼しまーす」

仕方なく執務室に入ると、ソファーに対面に座る副社長とお客様。

ーーーー うぅ。

ギリッと向けられるお客様の視線が肉食獣のそれで、グサグサと刺さって痛い。

” 邪魔すんじゃないわよ ”

美しいお顔に書かれても、入って来いと言ったのは副社長であって、あたしじゃないですからあ~!!

言えそうもない言い訳を頭の中に巡らせて、表情はにっこり笑ってお茶を出した。

「どうぞ」(あたしは無害ですよ~)

「ありがとう」(早く出て行きなさいよ)

「……ごゆっくり」(ラジャー)

にこにこにこにこ。

面白くもないのに笑うとか、これぞ腹芸。やだやだ、大人って怖い。

一仕事終えたあたしは、さっさと退室しますからご安心下さいね~っと。

「三原さん」

「え?」

副社長にもお茶を出そうとして、副社長がいきなり声を出したものだから一瞬固まってしまった。

「今日はありがとうございました。お礼と言ってはなんですが……」

ーーーー ああ、いつものですね。

こちらにチラッと目線を寄越して、取って来いと目だけで指示を出される。

「お持ちしました」

別室に準備していた控えめな花束を手にして、戻って来て副社長に手渡した。

「三原さん、どうぞ」

「……私に?」

「もちろんです」

「嬉しいっ!」

直ぐに副社長の手から離れた花束は、三原さんの手の中に収まり、彼女の嬉しそうな笑顔が爆発する。

「これは、なんていうお花ですか?」

ピンクと白の花弁で、グラデーションとなるようにあしらわれた見事な可愛い花束をみて、上目遣いに副社長へと尋ねる。

「…………すみません。今日、偶然見かけた花だったので良くしらないんですよ」

「あっ、いえ!全然構わないですわ!」

「可憐な貴女に似合うと思って」

「やっ、やぁだ司さんたら~!」

あははは

うふふふ

……………………なんかまた始まってしまったらしい。

本格的にアホくさくなって来たあたしは、2人に気付かれないうちに執務室を出た。


ーーーーーーーー パタン。


「はぁ」

毎度毎度よくやるよ副社長も。

でもこんなの慣れっこだし、全部がぜんぶ、副社長の持病から来ている行動という訳でもない。

今日の相手だって、超重要取引先のお嬢様だから、ご機嫌を取って控えめなプレゼントを渡すのも半分仕事の内だったりする。派手好きな副社長だけど、余り華美な贈り物をすると過剰な期待をされてしまい、後々面倒ごとが起こるからだと西田さんが言っていた。

「でも、知ってるはずだよね」

いつも女性に花をプレゼントする時は、副社長自らがあの花を指定しているから。


花の名前は、シレネ。


花言葉は ーーーーーー 偽りの愛。


女遊びはするけど、決して本気にはならない副社長にぴったりで。

それでも少し羨ましいと思ってしまうあたしは、かなり重症なんだと思う。




「はぁ……」

何回目かわからない溜息をつく。

「どうした? 溜息なんかついて」

「山田先輩っ!」

とぼとぼ歩いている途中に声をかけられ、顔を上げると先輩社員の山田先輩がいた。

山田先輩は営業部の人で、あたしがまだ入社したての新人の頃、研修期間に何度かお世話になった事がある。

「どうしたんですか? 珍しい」

このフロアは副社長室と秘書課の事務室しかなく、営業部は下の階だ。

「お前に用があってな」

「へっ、あたしにですか?」

「おう。取り敢えず後で営業部寄ってくれ」

「え~?……わ、わかりました」

「えーってお前な。心の声漏れてっから。そんなビビらなくても取って食わねーよ」

「急用ですか?」

「や、そうじゃなくてプライベートな事でよ」

「はぁ……」

いまいち要領がつかめない。

「牧野、お前彼氏居なかったよな?」

「まぁ、そうですね」

「あのな…………お前を紹介して欲しいって男が居るんだけど、会う気ねえか?」

「え」
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