fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

悪い男 7


「そうだ、牧野」

「はい?」

「今度の土曜 京都に出張になった。西田が無理そうだから、お前付いて来られるか?」

道明寺HD本社、いつもの副社長室。

資料を手渡しながら次の仕事内容を詰めていると、顔を上げた副社長がそんな事を言った。

「え……今度の土曜日ですか?」

ーーーー 珍しい。

副社長自身と西田さんは、土日祝日に出社することは多々あったけど、あたしには滅多にお声は掛からなかったのに。

「ああ。一泊二日でKB社と打ち合わせが入った」

「…………泊まりですか」

「なんだ? なんか用事でもあんのか」

「いや……あの、」

どうしよう。

今度の日曜日は、宮山先輩と約束してるのに。

「あそこと、やっと話が纏まりそうでな。あっちの担当が西田よりお前との方が相性が良さそうだし、西田も来られねえみたいだから丁度良いかと思ったんだが」

「あっ!」

そうだった。

KB社と言えば、2年前から契約を結ぶ為に副社長自ら何度も出向いていた所で、2年間のうちに、あたしも西田さんと交代で何度か顔を合わせていたんだ。

例の担当さんも凄くいい人で、自分の娘くらいのあたしを可愛がってくれている。

だけど、契約が纏まった後は会うこともなくなるんだろう。

担当の葛西さんとは会いたいけど…………でも、宮山先輩との約束もある。

「え、と」

「まあ、無理なら無理で良い。秘書課のやつ 適当に連れてくからよ」

即答しないあたしに何か感じ取ったのか、もう手元にある資料に目線を落としている。

いつも切り替えの早い副社長の事だから、あたしが悩んでる時間なんてないんだ。

「……いえ、大丈夫です! あたしが行きます。最後まで担当させて下さい」

最後かも知れないと思うと、やっぱり未練が残ってしまいそうで、咄嗟に行くと宣言してしまっていた。

…………宮山先輩に後で謝らなきゃ。

「そうか、わかった」

副社長はニッと笑うと、また明日なとあたしの頭を軽く叩いた。


*********


週末の土曜日。

副社長とあたしは京都に飛び立つ為、急遽な出張という事もあり、道明寺家占有の飛行場に居た。

いくらお金持ちだからって、飛行機が個人の持ち物だと知った時には開いた口が塞がらなかったなぁ。

新幹線じゃダメなのか聞いた事もあるけど、副社長は人混みがダメらしい。

「忘れ物ねえか?」

「…………あのね、子供じゃないんですから大丈夫です!」

「何言ってんだガキのくせして」

「だから! 何度も言うようですが、副社長と1個しか歳変わんないですから!」

「ああ、ペットはすぐ歳とるもんな」

「むきぃーーッ!」

「ははははッ!」


飛行機の旅は終始こんなくだらない感じで、副社長があたしをひたすらからかって来て非常に疲れた旅となった。


*********


『良いって。気にしないで』

「本当にごめんなさい」

土曜日の夜。

2年越しのプロジェクトは、本日無事に締結まで辿りつき、今後は各担当に割り振るだけとなった。

仕事が終わったあたしと副社長は、個々で部屋を取ったホテルで1泊し、明日は帰るのみ。

会社の経費で泊まるこのホテルは、大きな温泉もあると聞いたので是非ゆっくりと浸かりたい。でもその前に……と、電話をかけた先は、約束を反故にしてしまった宮山先輩だ。

『いやホントに。こうやって電話番号も聞けたし、かえってラッキーだったかも』

「……え? なんか言いました?」

『あ、こっちの話! 気にしないで』

「お詫びに、お土産買って行きますね。八ツ橋と千枚漬けだったらどっちがいいですか?」

『そんな気を使わなくてもいいのに。……ん~でも、どっちかって言うと八ツ橋かな。漬物苦手で』

「わかりました。しば漬けですね」

『えっ! 俺の話聞いてた!? 選択肢増えてるし!』

「あははは。冗談です。甘いのにしときます」

宮山先輩は最近知り合ったばかりの人なのに、穏やかで、意外とノリも良くて気兼ねなく冗談も言いあえた。

居心地の良い安心感。

片手で数える程しか居ないけど、今まで告白されただれよりもしっくり来る人かもしれない。





「はい、それじゃ」

ピッ

暫く話して電話を切り、さ~て、お風呂行こっかな〜と、ルンルン気分でくるんと方向転換した

その時。

「ずいぶんと楽しそうだな」

「ひぃッ!?」

かなり近くに壁があって、悲鳴を上げてしまった。

「……てめえ。プライベートより仕事を優先した事を誉めてやろうと思ったら、約束って男かよ」

「…………ふく、しゃちょお?」

見上げた壁の正体は副社長で、お風呂に行った後なのか、クルクルの髪がストレートになっている。

初めてみた髪型に気をとられて呆けていると、何故か険しい副社長の顔がますます恐ろしい事になり、あたしも何がなんだかわからなくなる。

「所詮、お前も女なんだよな。ちみっけークセに色気づきやがって」

「あの、いきなりなにを……」

「男を自分の思い通りに振り回して満足か? 普段は媚び売って都合が悪くなりゃ泣きわめいて、いい御身分だよなぁ。 世界がてめえの為に回っていると思ったら大間違いなんだよ」

「…………は?」



副社長が何を言いたいのかさっぱりわからないけど、どうやら罵詈雑言とやらを浴びせられているらしい。

だけど、時間が経つに連れて理解すると共に、ふつふつと沸く自身の怒りも自覚出来た。



どこまで、この男は。

あたしをバカにしたら気がすむんだろう。

あたしが努力したのはあたしの為。

自分で自分を誉めてあげたかっただけ。

なのに全部の女が、私利私欲の為に動いてるだなんてある訳ないのに、そう決めつけている。

悔しくて目頭が熱くなって、泣きたくないのにじんわり溢れて来たものを止められなかった。

そして。

見られたくなくて、うつむくあたしを黙って見ていた副社長の一言が、決定打となる。



「チッ…………だから女は信用ならねえんだよ」



プチッ



「…………だから?」

「は?」

「あたしが色気づいた事で、副社長に何か迷惑かけましたか? 」

「…………まきの?」

副社長の面食らったような顔までが今は忌々しい。

「業務上に差し支えあるような行動や言動をしていたのなら謝ります! でも、それ以外の事は…………ッ」


だめだ。

こんな事言いたくないのに!



「あ、まき…………」

「副社長には関係ない事じゃないですかっ!」

「ッ!」

「あたしが嫌いなら放っておいて下さい!」



投げつけるように言った言葉は、返ってくる事はなかった。
スポンサーサイト



11 comments

非公開コメント

0 trackbacks

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)