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悪い男 8



「…………やっちまった」


アレは完全に、俺が悪い。

週はじめの月曜日だというのに、早々に深いため息を吐かずにはいられなかった。

女なんか皆同じだと思ってた事は確かだけど、あいつは、牧野だけは違うってわかってたのに。

初めて会った時、最初こそ女かとがっかりしたものの、どいつもこいつも気持ち悪いくらい振り撒いてくる色気なんか欠片もなくて、こんな女も居るのかと驚いたことを覚えている。

裏表なく誰にでも優しくて、いつも笑ってて、あいつの周りの人間はみんな笑顔だった。

あんな女は俺の周りには今までいなかった。


『副社長には関係ない事じゃないですかっ!』

『あたしが嫌いなら放っておいて下さい!』


いつも牧野を怒らせて遊んでたけど、あれは、それとは比べようもなくガチ切れしてた。

あんな、あんなことを言うつもりはなかった。

あの日は、プライベートを犠牲にして、京都まで付いてきた牧野を労ってやるつもりだったのに。

食べる事の好きなあいつの為に、ホテルの上のレストランを予約して、ご褒美としてなんか買い与えてやってもいいかなと思うくらいには。

だけど、部屋に居なかったあいつを探して、やっと見つけたと思ったら電話の話相手が男だってわかってスゲーむかついて、気付いたら思ってもいねー事ペラペラ喋ってた。

日曜は帰るまで顔合わせようとしなかったし、今日は今日で、仕事の話しか口を聞こうとしない。それ以外は徹底的に無視かスルー。

「なにやってんだ、俺」

はあぁ……

自分でも驚くくらい落ち込んでいるらしい。

いつもの “お遊び” も気分が乗らなくて、早く帰ってきたものの、邸から出て行く気になれない。まあ、普段も仕事でドタキャンも多いし、“気が向いたら”と言っているので全く問題ないんだが……

「あれまぁ珍しい。どうなさったんですか」

びくうっ!

「たた、タマッ! いつの間に入って来やがった! ノックぐらいしろっ」

ベッドで仰向けに寝転がる俺の目の前に、皺くちゃの妖怪。

「いえいえ。ちゃんとノックしましたよ。坊ちゃんがボケーッとなさってただけで」

「だからって妖怪みたいにヌッと出てくんじゃねーよ!」

俺の寿命まで縮める気か!

「それより坊ちゃん。 珍しく早く帰って来たと思ったら何かあったんですか?」

「…………別に」

なかなか鋭い突っ込み。

女怒らせて謝り方がわからねえなんて、情け無い話出来るかよ。

…………でも、今は皺くちゃの妖怪ババアだが、元は女。

仕事と違って、自分1人じゃ到底わからない答えを見つけるのに良いヒントを貰えるかも知れないと、恥を忍んでタマに聞いてみた。

「じ、実はな……」

もちろん、当事者が俺ではなく馬鹿な部下の話だという事にして。







「坊ちゃん、それは……」

散々遠まわしに説明すると、タマが呆れたような顔になる。

「あ? なんかわかったのか!」

「ええ、ええ。 タマも女の端くれですからね。よおっくわかりましたとも」

「そうかっ! それでどうしたらいい!?」

切羽詰まった俺は、タマに迫る。

「まずはそのお嬢さんに、きちんと謝らないといけませんよ」

「…………ゔ。わ、わかった。そう伝える」

女どころか、人に謝った事がない。

ちゃんと出来るのかと不安に駆られるが、それは仕方ないだろう。

「それがクリアしましたら、お詫びの気持ちを込めて、お食事でもご馳走すれば如何でしょう?」

「ッ! そ、そうだなっ! ちょっと待て!」

そうだ。結局メシも奢ってやれてねえし、今度は忘れねえように……

カリカリカリ

「メモってあんた……」

「それで次はっ!俺はどうしたらいい!?」

「それはですね」

「それはっ!?」

「既成事実を作るのです!」

「…………は?」

「きっと、その男性とやらはそのお嬢さんに恋心を抱いているのでしょう?」

「は、はあ!?」

「でしたら、既成事実を作ってしまえばこっちのもの。 責任をとって嫁に貰うのですッ!」

「…………」



よ め ?



「あら? 坊ちゃんどうしたんですか」

「…………」

「…………まさかいい歳して、自分の気持ちにも気づいてなかったのかねぇ。やだねこの坊ちゃんは」


あ〜やれやれ。

言いたいことだけ言うと、固まった俺を置いて 仕事に戻って行ってしまった。

タマはなに言ってんだよ。

自分の気持ちって、何のことだ?

ーーーー あぁクソッ

余計に頭こんがらがってきた!


「…………っつーかあのババア、一体何しに来たんだよ!」


虚しい叫びは、誰にも届く事はなかった。


*********


「やっちゃった……」


なんでこんな事に?

よりにもよって、上司になんて口聞いてんのよあたし。

いや、あたしは悪くないと思う。寧ろ被害者だとも言えなくもない。

…………でも相手が悪いっ!!

こんな、こんなしょうもない事で左遷されたらどうしよう。

折角お給料がいい秘書に配属されたのに、地方にでも飛ばされたら仕送りも減らさないといけないかもしれない。

確かにあたしも、日曜日はイライラして口も聞きたくなくて、話掛けて来ようとする副社長を無視して、飛行機でもずっと寝てた。というより気づいたら寝てただけだけど。

今日は今日で、冷静になってみればいつ左遷を言い渡されるのかと恐ろしくて避け続けてしまった。

「明日会社行きたくないよ〜……」

いや、行かなきゃいけないけど。

クビになるなんて真っ平ゴメンだ。

「……ッ! もしや、左遷じゃまだいい方で、クビになったり……する?」

そうだ。

未来の社長様、会長様だったよあの人。


「…………もーいいっ! とりあえず寝る!」


暫く考えたけど、今更あたしに出来る事なんてない。

最悪クビになっても、3年は勤めたし多少なり退職金も出るはず。

貧乏暮らしには慣れっこだから、その時はその時で考える!よしっ!


「おやすみっ」


半ばヤケクソでベッドに入り、30秒もしないうちに眠りについたのであった。
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