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悪い男 10



高層ビルの最上階。

ほとんど人が行き来しないフロアで静まり返った中、はっきりと聞こえてきた言葉を聞き返すのは おかしな事だろうか。

「俺の、ものになれって……?」

ーーーー どういうこと?

ひょっとして、これは副社長がいつも使ってる手口だったりする?

「あの~、おっしゃっている意味がよくわからないんですが」

副社長がまさかあたしに……なんて、そんな事はとてもじゃないけど考えられないし。

だって顔が凄く怒っている。

「とりあえず、あいつはダメだ」

「……あいつ?」

再度聞き返すと、眉間に皺を寄せていた顔がさらに怖くなってきた。

うん。 勘違いしなくて良かった。

「さっき話してただろ。また会うとかなんとかって」

「…………」

もしかして、宮山先輩のこと?

でもダメだの意味がわからないし、ダメだと言われてもこの間の事も謝らなきゃいけない。

「さっきのは、お土産を渡す約束してただけなので」

「じゃあ俺が届ける」

「えっ? いやいや……」

おかしいでしょ。

お詫びの品なのに、副社長から渡されてしまったら、とんだ嫌がらせになってしまう。

「とにかく、俺以外の男と話すのも禁止だからな」

「…………いやです。てゆーかムリだとおも」

「あぁ!? なんでだよっ」

あまりに現実離れした無茶振りを断ろうとすれば、何故だか怒られた。

「なんではこっちの台詞なんですけど……」

そんなことしてたら仕事に差し支えるし、第一、あたしの人権はどうなってるんだって話だ。

「なんでって、お前は俺のものになったんだから、俺の言う通りにするのが筋ってもんだろう!」

「……はぁ?」

「なんだよ、文句あんのか」

「あるに決まってます」

というより、副社長の《もの》になるのを承諾した覚えはない。

「そんなこと、あたしが守らなきゃいけない義務はありませんよね?」

「あるに決まってるだろ? 今、俺が決めたんだから」

「はああーーー!?」

なんなのこの人!?

さっきから意味わかんない事ばっかり言って、またあたしをからかってる!?

「いくら上司だからって、そんなことまかり通るわけないです!」

「だからっ、わざわざこの俺がこうして言ってやってんだろ!?」

「そんなこと誰も頼んでませんから!!」

自分でも何で言い合いになっているのかよくわからないうちにヒートアップして、止まらなくなった。


ーーーー さっきまで本当に楽しかったのに。


いきなりこんな事言ってきて、何なのよもう!

副社長が無茶苦茶なのは今に始まった事じゃないけど、こんな事言う人だとは思ってなかったのに!

「~~っ! あたし、もう帰りますっ」

「え、おい待てよ!」

お話にならないと踵を返せば、背後にいる副社長に手を掴まれた。

ぐんっ と後ろに引かれて、予想外の動きに反応出来るはずもなく、直ぐに後頭部が何かに当たる。

「…………!」

振り返ると、泣きそうな顔をした副社長がいた。

余りにびっくりして、声が出ない。

「まきの」

「!?」

瞬間、知っているコロンの香りがした。



何が起こってるんだろう。

なんで、あたしは。

副社長の腕の中にいるの?





「…………今日は、帰してやる」


どくんッ!!


「あ、あの……?」


唇が触れそうなほど近くで囁かれて、心臓が飛び跳ねた。


ーーーー どくん、どくん。


「…………だけど」


ぎゅうっと抱き締められた腕が、離したくないと言っているように感じるのは、あたしの妄想なの?


「明日からは覚悟しておけよ?」



*********


その宣言通り、翌日からの副社長の態度が180度変わった。

「あの、副社長……」

「ん?」

「狭いので……せめてもうちょっと左へ移動してくれるとありがたいかなぁなんて」

「…………」

「あは、ははは?」

「…………」

聞こえているだろうに、聞いちゃいない。

自社の移動車の中。 いつもなら向かい合う配置で座るはずが、広い車内で何故か椅子の隅に置いやられていた。

……隣にぴったりとくっつく副社長付きで。

「狭いです。書類が取り出せません」

「俺が取ってやるよ」

「え!?」

そんな訳にいかない。

秘書とあろうものが、サポートするはずの副社長にサポートされてどーするんだ!

「いや、自分で……っ」

「ほれ、これだろ?」

「…………ありがとうございます」


抵抗する前にあっさりと鞄から抜き出され、手渡された。

ゔぅ。これじゃ秘書失格だぁ……


「今日は何時に終わる? 飯行こうぜ」

人の気も知らず、ウキウキと楽しそうな副社長を思わず睨んでしまう。

「…………行きませんから」

「は? なんて?」

「毎日副社長とご飯行ってたら、そのうちあたしは破産します!」

副社長の行きつけなんて星が幾つかついてる店なんだから、エンゲル係数はうなぎ登りだ。

「あ? 俺が奢るに決まってんだろ」

「決まってません。奢って貰う理由がないです」

「あるだろ。お前は俺の女なんだから」

「…………」


また出た。

最近の副社長は何かにつけて、


《お前は俺の女なんだから》

《お前は俺のものだ》


口癖かと思うくらいにその台詞を言う。

承諾した覚えはないと言っても、


《照れてんのか? 可愛い奴だな》

《わかってる。みなまで言うな》


とか、もう言葉が通じない。

あたしがこの3年間見ていた副社長は何処に行ってしまったのかと問いたくなるけど、仕事中はそんなことなくて、クールな上司に戻っている。

もしかして、副社長は女性を口説く時はいつもこうなのかもしれない。

自意識過剰だろうけど、見た目が変わったあたしにたまたまターゲットを変えて来たのかもしれない。


「……おい、どうした?」


ジッと見つめれば、副社長が心配そうにあたしの顔を覗き込んで来る。


「いえ、ちょっと考え事してました」

「そうか? 無理すんなよ」

「!」


不意をつかれて、おでこにキスをされた。


「っな! な、んななな!?」

「プッ。真っ赤になって かわいーな、牧野は」

「〜〜〜っだから、こういうの止めて下さいってば! セクハラ!」

「やだ。お前が可愛いんだからしゃーねーじゃん」

何その超理論!!



…………でも、今のあたしは副社長から見て、かわいい女の子になれているんだろうか。

見た目ひとつで、ここまで副社長の態度が変わるなんて思ってなかった。

例え一時の事だとしても、欲しかった視線があたしに注がれている。

ほんとは泣きたくなるほど嬉しくて嬉しくて、受け入れて貰えるのかなって期待してしまう。


けど、それと同時に…………すごく虚しくなる。


本当のあたしじゃ、好きになってもらえないから。

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