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悪い男 11



「そういうわけだから、あいつにはもう構うな」

「…………」


ーーーー まずは、一人目。

蒼白になって、声も出ねえのか了承も反論もせず黙りこむ目の前の男。


「…………確かに渡したからな」


だけど俺だってそんなに暇じゃねえ。

即座に応えられねえ程の想いなら、さっさと諦めてもらう。

「っあ、あの! 」

「あ?」

さっさと去ろうとした所で、漸く聞こえた声は切羽詰まった声だった。

「僕は、牧野さんが好きです! 彼女には……まだ、伝えていませんでしたが、あなたは彼女を幸せに出来ますか……!?」

「…………」

驚いた。

思ったより、骨がある奴だったかと認識を改めておく。

「男としては敵わなくても……正直、僕の方が彼女に釣り合うと思っています」

挑むような、瞳。

「だから……彼女を弄ぶよう、な、気なら、引きたくない、です」

「クッ」

面白れえ。

声は震えてみっともねえのに、この俺に刃向かうなんざいい根性してやがる。

だけどな、

「ひとつ、いいこと教えといてやる」

釣り合うとか釣り合わねーとか、好きだとか弄ぶとか関係ねえんだよ。

「あいつは俺のもんなんだよ」

あいつはもう俺のもので、誰にもやらねえから。

「わかったら失せろ」

同じ土俵にすら上がらせねえ。

低く笑うと、青ざめた男が出て行った。


*********


「…………なんか機嫌いいですね?」

「そうか?」

珍しく副社長がにやにやしていて、珍しい事もあるものだとつい口に出してしまった。

「あ、そうだ」

「?」

「お前のアレ、土産? とかいうの。あの男に渡しておいてやったぞ」

「は? …………お土産ならここに、ってアレ、ない? 何でっ」

どこにもない!

確かにここの引き出しに入れて置いたのにっ!?

「だから俺が渡しておいた」

「はあああ!? 何て事をしてくれたんですかっ」

「泣いて喜んでたぞ」

「嘘こけっ! ふ、副社長なんかから渡されたら心臓に悪いから止めてって言ったじゃないですか!!」

「副社長なんかって何だ。シツレーな奴だな。この俺に渡されて喜ばない奴がいるかよ」

「じょ、女子社員ならそうかもですけど、男の人には嫌がらせにしかなりませんよ!」

「とりあえずあの男には、俺が話つけといたからお前ももうあの男にかかわるな」

「なんで!?」

「何ででも、だ」

腑に落ちなかったけど、副社長の眼差しがギラギラしてて怖かったからしぶしぶ頷く。

「……そんな顔すんな」

「っ!?」

うつむいていると、両手が温かい何かに触れていた。

それは正面にいる副社長の手で、驚いて咄嗟に引こうとしたけれど、それよりも早く指と指が絡められ、留められてしまった。

「あの、手……」

「ん?」

顔があつい。

変な汗が出てきそうだ。

「離して下さい……」

「なんで?」

「…………」

そんな綺麗な瞳で、下から覗き込むなんて反則だ。

何も言えなくなってしまう。

「別に誰も見てねーし、いいだろ?」

「ゔ……」

いいわけない。

ここは仕事場で、西田さんだっていつ戻ってくるか分からないのに。

でも、そんな、見たこともない笑顔で微笑まれたら、恋愛偏差値の低いあたしが太刀打ちなんて出来る筈もなくて。

「牧野、かわいい」

「揶揄わないで下さい」

「からかう訳ねーだろ」

ちょっとムッとしたように、眉間に皺を寄せる。

手をそのまま引かれて、元々近かった2人の距離がゼロに近くなった。

「ちょぉっ!!!?」

ーーーー ち、近っ!!

あたしは慌てふためいて副社長を押し戻そうとするけど、副社長は難なく抱きとめたまま、何故か嬉しそうな顔で、色気だだ漏れで挑戦的に笑った。



「目は瞑っとけ?」



















「まったくもう……」


あんな戯言にわざわざ付き合うことないのに、言う通りにするあたしもどうかしてる。

勘違いしてしまいそうな自分が、ドキドキしてる胸が、いつか来る時を思うと恐ろしかった。

何より、初めて触れた感触が、なにか別のものになってしまったみたいで。

意味もなく指先で触れたり、鏡でジッと見つめてしまったり。


「…………偏差値、もっと積んどきゃよかったかなぁ」


ファーストキスがこんなに唐突だなんて、誰も教えてくれなかったもん。

しかもそれが副社長にバレて、あんなに恥ずかしい思いをするなんて思ってなかった。


「そしたら練習とかって、あんなにいっぱいされずにすんだのに〜!」


くだらないいい訳を頭の中で浮かべては消し。

もんどり打っては打ちひしがれ。

まだ鉄の味がする口内にとうとうどうしようもなくなって、更衣室の壁に凭れかかり、ズルズルとしゃがみこんだ。
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