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悪い男 12


「……っつ」

コーヒーを含んだ口内が、チクリと痛んで顔を顰めた。

だけど不快感は全く無くて、むしろ先程までのアレを思い出してニヤけそうになる。


ーーーまさか、あれがファーストキスだったなんてな。





牧野に喰いつく寸前、余りにも顔が強張ってたから、せめて緊張くらいは解いてやろうと先に顔中にキスを降らせてやった。

「……あの? ふ、ふくしゃちょ?」

頬に手を当てて、唇に近い場所まで吸い付く。

「ひゃ……!」

「そんな緊張すんな」

キスで耳まで真っ赤にする牧野がかわいい。

後頭部を片手で支えて、今度こそ美味そうな熟れた唇を戴こうと、顔の向きを変えて直ぐに触れる距離まで近づいた。

「…………」

だけど、牧野はプルプル震えながら目を見開いている。

「……だから、目ぇ瞑れって」

「っえ!あっ」

そう言うと、牧野はハッと今気付いたように、これでもか!とぎゅうっと目を閉じた。

力を入れ過ぎて、唇すら引き結んでしまっている。

……極端すぎねえか?

中坊のファーストキスでもあるまいし、こいつは何をそんなに緊張してんだ。

いや、俺はファーストキスすらクソったれな思い出しかね………ん? んんん?



「……キス、はじめてか」

「っ!」

「そうか」

ビクリと牧野の肩が揺れ、勘が当たったと思うと、胸の中の何かが燃え上がったのがわかった。

「じゃあ、俺が全部教えてやる」

「!」

最初は優しく。

触れるだけの、唇を押しつけるだけのキス。

「な、怖くねえだろ?」

コクン……

小さく牧野がうなづいてくれて、自然と頬が緩む。

「んじゃ、もうちっと練習しよーぜ」

「えっ!? いや、もうむ」

拒否の言葉を聞きたくなくて、唇を塞いだ。

「っ……!」

今度はもう少し、深く。

吸い付いて、上と下の唇を交互に味わう。

やっべえ。

キスってこんなに気持ち良かったのか?


「っは……ふぅっ、はぁッ」

まだ離したくなかったけど、慣れてないせいか、息もうまく出来ていなかった牧野の為に一旦休憩を入れてやった。

「鼻で息すんだよ」

「そ、そんなのしらな」

「なら、練習が必要だな」

それから数十分は、牧野とのキスに文字通り溺れた。

初心者に流石に舌は入れられなかったけど、さりげなく舐めた唇は凄え柔らかくて、あまくて、美味かった。

練習だなんだの言って牧野を丸め込んだけど、俺が我慢出来なかっただけだ。

ただ、俺がしたかった。

潤んだ牧野の顔を見てても、これは同意だからと、牧野も俺を同じように想ってくれてるんだと、信じて疑わなかった。

事実、ファーストキスも貰えたし、悪戯心で牧野からするように仕掛けたキスも成功した(勢いがついて失敗したけど)

とりあえず牧野を可愛がることしか考えてなかった。

だからこの後、幸せってこの事かと浮かれ気味でいた俺に最大のピンチが迫ってるなんて気づかなかったんだ。



**********



「あ、牧野さんいたいた~」

「へ?」

なんとか気持ちを落ち着かせて、仕事をしようと副社長室に戻る最中。

「あのね、副社長のお客様?がいらしてて、本当かどうか牧野さんに確かめて貰っていいかな?」

「はい?」

受付の女の子がそんなことを言ってきて、どういう事かと再度尋ねた。

どうやら、訪ねて来ているのは何度か仕事で副社長室に通した事のある取引先の娘さんで、仕事内容を尋ねても副社長と会わせろとしか言わない。

ただのファンなら追いかえせるけれど、なまじっか、取引先のお嬢様ともなればどう扱えばいいのか困ってしまうのも頷けた。

「それに、あの……副社長ってたまに女性と……でしょ?」

ズキン!

「あ、あぁ、そうですよね」


副社長に、仕事とは余り関係のない女性が訪ねてくる事はこれまでもあったのだ。

もちろん全てを受け入れてはいないし、極秘の仕事で、仕事関係の人だったと後から知った事もあるけど。

「……〇〇会社のお嬢様ですね? 副社長にどうするか聞いて来て、後で受付に電話入れます」

「良かった、ありがとう」

「いえ」

ホッとした顔を浮かべて、受付嬢は去って行く。

「…………今だけ、なんだから」

勘違いしちゃダメなんだ。

浮かれていた頭に冷水を浴びた気分で、さっきまで高鳴っていた胸が今度はズキズキとうるさい。

「仕事、しなきゃ」

込み上げてきた涙を拭って、副社長室を目指した。
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