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悪い男 14


道明寺 司、26歳。

俺は今まで、それなりに上手くやって来たつもりでいた。

くだらねえ事ばかりしていた日本での学生時代も、打って変わって勉強や仕事に明け暮れたNYでの日々も、俺の人生において邪魔になるものなど何一つないと過信するくらいには。

それが、いい歳してこんな恥ずかしい告白をさせられるなんて誰が思う?




「は」

「…………あ?」

「はははは」

「…………何だよ、文句でもあんのか」

牧野の乾いた笑いにちょっとイラッとした。

「あの、そんな嘘言わなくても大丈夫ですよ」

「!?」

「……あ~、ビックリした。何を言い出すかと思ったら、あはははっ…………はぁ」

「…………おい?」

カラ笑いしたと思ったら、ため息を吐いて俯いてしまった。

大丈夫か、こいつ。

「あのな」

「ッ!」

声を掛けると、牧野の肩がビクッと跳ねた。

「まぁ、今までが今までだからな。勘違いしてても仕方がねえかもしんねーけど」

「…………」

「お前に今まで用意させてた花やら何やらは、俺にとってはただのゲームの道具だったんだ」

「…………っ!?」

「最低なのは自覚してる。けどな、」

「うそです」

「あ?」

「副社長は、あたしの事だって好きなわけじゃないんです」

「…………なんでそう思う」

最後まで言わせてくれない牧野に、自分を否定されたようで、もやもやする。

「あたしだって、この三年間ずっと副社長を見てきたんです。 ただの秘書で、それも第二秘書だからできる仕事だって限られてるへっぽこ秘書ですけど、でも……」

「でも?」

「でも、誰よりも近くで副社長を見てました」

「…………そりゃな」

仕事からプライベートまで、この三年、思い返せば割と後悔しかないくらい、ただの秘書としては近すぎるくらい牧野はいつも俺の傍にいた。

ーーーー いままでの秘書だって、こんなに近くにいた秘書は居なかったというのに。

「だから、生意気って思うかも知れませんが、副社長が女の人は絶対に好きにならない……いえ、女が嫌いだってことくらい知ってます」

「っ、お前だけは別だ!」

牧野は妙に冷めた瞳で、寂しさを堪えるような表情に胸がやけに騒ついて、反射的に叫んでいた。

だけど、それでもその表情は変わらなくて、



「そのうち、勘違いだってわかります」

「…………ッ!!」



パンッ







笑って言った牧野に、腹が立った。













「…………ぁ」


いま、何が起こったの?

驚きすぎて、声もでなかった。


「……いっ!」


痛い。

動かそうとした左頬から、じわりと流れ出したのが血液だとわかるまでに数秒とかからなかった。

この痛みは何故ーーー。


「…………わりぃ」

「!!」

「俺の自業自得なのに、な」

「……あ、ふく」

どうしよう。

「本当にごめん。 頭、冷やしてくるわ」

「あの、……ちが、待って下さ」

「お前ももう帰れ」


バタン!














「うそ、あたし間違えちゃった……?」


主のいない部屋で、あたしはいつの間にか膝をついていた。

あたしは一体、何をわかった気でいたのだろう。

あんな、あんな苦しそうな副社長は見たことがない。

叩かれた筈のあたしより痛そうな顔をして、あたしを叩いた右手を震わせて。


『知っています』?

『わかります』?



ーーーー 何も知らないくせに。


なんで、たった三年傍に居ただけで、何もかもわかった気でいたんだろう。

傷付くのが恐くて、副社長の事を何も知ろうとしなかったくせに。

恥ずかしいくらい、自惚れてしまっていた。

「…………謝ら、なきゃ」



だけど結局、閉じられた扉を開く勇気は持てなかった。


*********


「お疲れ様です」

「お疲れ様でした。明日は営業所の方に手伝いに行って下さい」

「……はい」


まただ。

あれから一週間、副社長とはまだ会えていない。

あの翌日以降、あたしは第一秘書の西田さんづてで各部署へのサポートばかりを副社長から命じられていた。

勿論それに異論はない。ないけど、

「…………はぁ」

その理由を考えると、ため息しか出なかった。

…………嫌われたのかも知れない。

あんな、見当違いな失礼な事ばかり言ってしまったせいで、副社長はもうあたしの顔なんか見たくないのかも知れない。

そんな事ばかり考えていると、仕事中でも涙が込み上げそうになる。

三年間、当たり前に毎日傍にいた人に会えない。

今思えば、自分は片想いでも相当恵まれた環境にいたんだと嫌でも思い知る。

あんな日常でも、あたしは確かに幸せだったのだと。

恋ってこんなに苦しかったんだ。

副社長はいつの間に、あたしのほとんどを攫って行ってしまったんだろう。

恋が、こんなにも胸を締め付けるなんて。


本当に、何もかもを知らなさ過ぎたみたいだ。
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