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悪い男 15


「えっ、お見舞い……ですか?」

「はい。今から行けますか?」

先週一週間。他部署を回って週明けの月曜日、漸く西田さんから副社長の執務室に戻って来いとのお達しが出た。

それで気持ちを入れ替えて頑張ろうと思った矢先のことだったので、呆気に取られてしまった。

「今から? あの、仕事は」

「それは大丈夫です」

「…………わかりました」

帰ってきて早々こんな事を言われるなんて、やっぱり副社長から避けられてるのかな。

あたしが悪かったとはいえ、ずっと顔も見られないなんてやっぱり凹んでしまう。

「大丈夫ですよ」

「へっ?」

「あの方は複雑そうに見えて、案外単純ですから」

「…………あの、あたしまた?」

「ええ。 声に出ていましたね」

「あゔ」

やってしまった。

あたしの恥ずかしい悪癖、時折思考が口からだだ漏れになることだ。

「ッ、あの! どなたのお見舞いでしょうか!? 早速行ってきます!」

ああああ!もう!この場から一刻も早く立ち去りたい!!

やってしまったことは仕方がないけど、若干笑いを堪えてる西田さんの傍に居るのは居た堪れなさすぎる!

「ええ、副社長です」

「副社長ですね! わかりました、今すぐ行ってまいりま………………え?」

ババッと荷物を纏めていた手が止まり、聞き間違いかとぎこちなく振り返ると、西田さんはお父さんみたいな優しい顔をしていた。

「本日は道明寺邸でなく、マンションの方だと伺っておりますので」

「…………」

有無を言わさぬとてもいい笑顔で、普段は西田さんのみに預けられている鍵を受け取ると、理解できないままに気づけば会社を追い出されていた。


********



『今日はスケジュールに空きが出ましたので、ご自宅でゆっくりお休み下さい』



そう言われたのは、朝迎えに来た西田から。

だけど、当日にいきなり休日を言い渡されても納得出来るはずもなく

『は? そんなわけあるかよ』

キャンセルならキャンセルで、それでなくても仕事は山積みだっつーのに。

『いえ、ここ最近は根を詰めていらっしゃいましたので、幾分予定調整が可能です』

『……別に休みなんていら』

『体調管理も秘書の仕事のうちですので』


そんなこんなで突っぱねも相手にされず、自宅に押し返されてしまった。







「西田のヤツ、俺にどうしろっつーんだよ」

いざ、いきなり休みだと言われてもやる事がなかった。

唯一の親友であるあいつ等を誘っても、簡単に捕まるやつなんていないし、娯楽という娯楽は学生時代にやり尽くしてしまった感すらある。

だから別に、やりたい事なんて……



「…………」










ーーーー 牧野に会いてえな。



自分で避けておいて、何をやってんだか。

でも、会いたくてたまらない。

牧野の笑顔が、ずっと頭から離れねえ。

だけど、会ってしまったらとどめをさされてしまいそうで、どうでもいい用事ばかり押し付けて先延ばしにしていた。

牧野に拒否されたらなんて考えただけで、身体が受け付けなくて、吐きそうになる。

「…………寝るか」

寝れないのもわかっていたけど、今すぐにどうこう出来る問題でもなかったから。











ピンポーン


「…………」


ピンポーン ピンポーン ピンポーン


「…………ッ誰だよ、煩えな」


ベッドに横になって数分後、インターホンが鳴った。

面倒臭くて放置していると、しつこいくらいに鳴り止まなくなり、仕方なしにベッドから起き上がる。

「はぁ…………どーせ、タマか姉ちゃんだろ」

玄関前までだいぶ時間を掛けて歩き、鍵を開けようとした、

その時。



カチャカチャ、ガチャッ!


キィィ……



「お、おじゃましまぁ〜す?」

「…………ッ」


西田にしか預けていないハズの玄関の鍵がひとりでに開き、面食らっていると、聞き慣れた……いや、少々久しぶりに聞く声と、よく手入れされたツヤツヤの黒髪の小さな頭がそろそろと姿を現す。

「っあ、ふくしゃちょう!?」

「おまえ、何でここに……」

「あの、西田さんからお見舞いに行けって言われたんですけど…………体調大丈夫ですか?」

パッと顔を上げたかと思うと、心配そうな瞳とかち合い、何やらよく分からない事を言っている。

「見舞い?? 体調って何の話を……」

「あ、ごめんなさいっ! 起こしちゃいましたよね? 早く横になってて下さい!」

「は? おい、待て」

「ベッドどこですか? ほら、早く!!」

「お? おぉ」

弾丸で捲したてる牧野の勢いに呑まれて、何故か再びベッドルームに舞い戻った。

「はい、熱はかりますからね!」

「お、おいおい待てまてまて」

なんだ?

一体何が起こってやがんだ。


ーーーー ピピピピッ!


「……ん? 熱はないんですね。じゃあ腹痛とかですか?」

「だから待てっつの!!」

バスローブの中に体温計を突っ込まれ、掛け布団まで掛けられていたのをガバッと押しのけ牧野の腕を掴んで止めた。

どんだけ暴走する気だこの女は!?

「だから、別に体調不良じゃねえんだよ!」

「え」

「いいから落ち着け! な?」

「…………あ、はい」

目をぱちくりさせて、キョトンとする牧野。

「西田が何言ったが知らねえが、俺は別に体調悪くて休んでるわけじゃねえよ」

「あれ、じゃあなんで」

「だから知らねえって」

「????」

牧野は大いに混乱して、目をぐるぐる回している。

「ま、いーか」

「え??」

だけど、ちょうど良かったのかも知れない。

「お前に話あったから」

先延ばしにしていた問題もあるのだから。
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