fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

悪い男 17


「牧野、昼メシ行くぞ」

「……はい」

当たり前の様に腰を抱かれ、耳元で囁かれる。

しかし相手は難攻不落と言われた副社長で、側からみればあたしたちの関係は怪しいことこの上ないんだろう。

真相は、唯のお昼御飯の誘いだったりするんだけどね……。

でもそれでも、今までとは変わった事もある。

あの言葉通りに。





ちゅっ、ちゅ、ちゅ


「んっ」

「っはぁ、まきの……!」

「っあ、やぁ、ん……んぅ」

「好きだ……愛してる……」

昼食後、会社に戻る途中の車内でのキスを 副社長に毎回求められる様になった。

移動はもっぱらリムジンを使う副社長だから、運転席までの長い距離と、視界と音を一切遮る自動式のスライドガラスが、車内でのキスの抵抗感を減らしたせいもあるんだろう。

「……はぁ、副社長っ、まって」

「待たねえ」

だけどお昼休みとはいえ、仕事中に、しかもスーツのままキスをするのに抵抗はあった。

「っあ!副社長、だめッ……」

「ん。ちょっとだけ」

もちろん実際に抵抗したし、付き合ってもいないのに止めて欲しいと訴えたけど、副社長の巧みなキスで、一旦唇を許してしまったらあとはもうズルズルと時間の許す限り貪られてしまっていた。

「硬く、なってる」

「や、やぁ……っ!」

シャツの下から浸入してきた手が、無遠慮にあたしの胸を弄っている。

「…………っ!」

大きな手でブラの上から揉み込み、先端を親指で擦り上げている。

「その顔、すっげぇ可愛い」

恥ずかしくて息詰まるあたしに、息も荒く副社長が強引に舌をねじ込んできた。


ぴちゃぴちゃ、くちゅっ、ちゅぱ、ずずっ


「あ、んッ、むっ」

「……お前マジやべー。なぁ、直に胸触っていい?」

「!」

顔を上気させ、死ぬほど色っぽい顔で怖いことを言い出す副社長に、ブンブン頭を横に振った。

「チッ」

「舌打ちしてもダメです!」

「けち」

反論したい気持ちが湧き上がったけど、会社が近付いたのに気づいて、くっついていた副社長を引き剝がしにかかる。

到着迄になんとか服装を整えて、深呼吸してからリムジンを降りた。

あぁ、本当に、なんでこんなことになっちゃってるんだろう?

「こら待て、牧野」

考え事をしていて、いつの間にか副社長をおいてけぼりにしてしまったらしい。

副社長が後ろから駆け寄ってくる。

「秘書の癖に俺を置いてくんじゃねえ」

「……すいません」

秘書に手を出してくる副社長に言われたくないと、喉まで出かかったけど、グッと堪えた。

「まぁいい」

そして、当たり前の様に腰に置かれた手。いやいや、おかしいでしょ。

「手、退けてくれます?」

「無理」

静かに払いのけようとしたのに1㎜も動かないもんだから冷静に対処したのに。無理ってなによ無理って。副社長の手でしょうが!!

「離してやってもいいけど」

「えっ!」

「今夜、俺の部屋に来るんならな」

「@#$ナ*¥€〒んにゃッッ!!?」

「…………何言ってっかわかんねえよ」

副社長は楽しそうにくつくつと笑う。そして今日は衛星中継でのNYとの会議があるからと、どこからか颯爽と現れた西田さんと会議室へと消えていった。


*********


「しつけえな、テメェも」

『そう思うのなら、早く御自分でお相手を選びなさい』

「フンッ」

聞き飽きた台詞にお決まりの答えを返す。

もう何百、いや何千回このやり取りをしたことか。顔を合わす度にこの応酬で、毎回辟易としていた。

具体的には、3年前から。痺れを切らしたババアが無理矢理女を定期的に送り込んでくるようになり、それも厄介な事に毎回取引中の重役の親族ばかり。

正直ブン殴りたかったが、こっちからは無下に出来ねえし、仕方なく女を歓迎する振りをして裏では相手の女のアラ探し。

浮気女に間男の存在を突きつけ、その存在がない女にもそれらしい男を雇って当てがえば、どの女達にも言い逃れの術はない。あくまで、《相手の過失》で婚約前に話を全て潰してきた。

…………まあ、赤札を彷彿とさせる強制退場劇に、血が躍ってしまったのは想定外だったが。

だが、それももう終わりだ。

「安心していいぜ、もう相手は見つけたからよ」

『…………』

ババアが怪訝そうに、こちらを睨みつけてくる。

実の息子に向ける表情じゃねぇだろと思わなくもないが、そんなのは今更だ。

『何を、企んでいるのかしら』

「クッ」

おかしな話だ。ついさっきまで相手を探せと口煩かったババアが、相手を見つけたと言った途端に疑いだすなんてよ。

「テメーがさんざん結婚しろって言ったんだろうが。 お望み通り、《俺が選んだ相手》と結婚してやるよ」

是非は言わせない。俺の結婚相手は俺が選ぶ。

「話は終わりだ」

『まっ、待ちなさい司ッ!!つか、』


ーーーーブチッ!


中継を繋いでいたコードを適当に1本引き抜くと、呆気なく映像は途切れた。

ババアの焦った顔なんて久しぶりに見た。鉄の女と言われるだけあって、悔しいが、世界経済を掌握しているババアにはまだ敵わねえ部分がある。それは経験だったりコネだったり信用だったり……

もしも、ババアが牧野との事に口出しするようなら、全面戦争になるだろう。

「司様……」

「お前まで、そんな顔すんな」

もう一人の鉄仮面まで、心なし驚愕しているように見えた。

俺自身、人生において側にいたい、いて欲しい女と巡り会えるなんて思ってもみなかった。そんな、奇跡に近い幸運は幾ら金を積んでも手に入らないと諦観していたし、金を積めば積むほど、くだらねえ輩が湧く。

だから、あいつは俺にとって奇跡の女だった。

道明寺財閥を背負った俺じゃなくて、《俺自身》を見てくれる女。

何より、他の男にやりたくない。どうしても欲しくて堪らなくなった。




「牧野」

「副社長っ!」

執務室に戻った俺を見て、ポッと顔を赤くして慌てて出迎えてくれる。

「あの、何か淹れましょうか?」

ジャケットを脱ぐのを甲斐甲斐しく手伝い、上目遣いで聞いてくる。俺と牧野の身長差じゃ、どうしたってそうなるのは仕方ないんだろうが、毎回抱き締めたくなる衝動を抑えるのが大変だったりする。

「コーヒーを頼む」

「はいっ」

「なぁ」

「はい?」

「いや……、なんでもねえ」


だから牧野、早く俺のものになれ。
スポンサーサイト



2 comments

非公開コメント

0 trackbacks

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)