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悪い男 20

※後半胸糞注意。心臓弱い方は次回更新時にまとめて読んだ方がいいかも。(・ω・)



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 ーー息ができない。


 気がついた時には視界が塞がれていて、嗅ぎ慣れた香りで頭が真っ白になった。






「……お前、それは反則だろっ」

 苦しげに吐き出された台詞の意味はわからなかった。
 緊張で心臓ごと震えてる身体が、副社長の体温のせいで更に血が上っていく。
 力加減をしらないのか、ぎゅうぎゅうに抱きつかれた。

「さ、酸素が、」

「もうダメ。もうマジで無理。もう我慢しねえ。全部お前のせいだからなっ」

 え、一体何の話ですか。
 そこまで副社長の怒りを買った覚えはない。

「し、んじゃう……」

「うおっ!?」

 べちゃ。

「うおおおッ? 牧野!?」

 副社長がパッと腕を離すと、あたしは地面に沈んだ。
 慌てた副社長に横抱きにされ、ソファーに寝かせられる。

 ……かつて、ここまで色気のない告白シーンがあっただろうか?

「悪い。大丈夫か?」

「……はい。なんとか」

 流石に殺す気はなかったのか、いつになく殊勝に謝るレアな副社長が見れた。
 酸素を充分に取り込んで落ち着くと、ソファーから上半身を起こす。
 意外と過保護なのか、隣に腰を掛けた副社長の右手があたしの背中に添えられている。

「後で、うちの医者に見せよう」

「…………うち?」

 さっきからちょいちょい会話が噛み合ってない気がする。
 なんの話だと問えば、頭を打ったかもしれないから医者に見せた方がいいのだと力説された。

「いえ、頭は打ってないんで大丈夫です」

「バカ。後から後遺症が出てきたらどうする!?」

「……あのですね、」

 そもそもあたしはそんなにひ弱じゃありませんし。それより、クールビューティな副社長のキャラが崩壊してないか?
 そうは思いつつも、あたふたする副社長が可笑しくて。
 くふっ、と思わず笑ってしまって、副社長はまたなに笑ってるんだ!と拗ねてしまった。
 副社長って、副社長ってさ、意外と……

「子供っぽい……?」

「あぁっ!?」

「いや、嘘です嘘です!」

 流石に子供扱いは嫌だったのか、お綺麗な顔にピシリと青筋が入る。

 ……あちゃー。やっちゃったかも。

 慌ててフォローしたけど、余計に拗ねてしまった。
 なのに、さっきから握られている右手はそのままで、あたしは一体どうしたらいいんだろうか。
 途方にくれたあたしは、なんとか副社長のお怒りをなだめた。

「すいません、冗談ですから」

「…………俺をガキ扱いすんな」

「はい、もうしません」

 だから、機嫌を直して下さいね?
 そんな気持ちを込めてそっぽを向いている顔を覗き込む。
 副社長は、チラリと目線だけであたしを見た後に、ぐっ、と謎の唸りを上げていた。

「…………あの??」

「俺はガキじゃない」

「あ、はい。それはもちろん!」

 それはさっきも聞きましたが。
 まだ引きずってるところがやっぱり子供っぽいかも……、なんて事はとても言えないので、ひたすらコクコクと頷いておく。

「だから」

「…………へ?」

 突如、身体が宙に浮いた。

「え、えっ? な、ななにするのッ!?」

「お前と大人の時間ってヤツを過ごして、証明してやるよ」

「はあ!!??」

「もう逃してやんねえ」

 この時のあたしは、横抱きにされた事とか副社長の言った言葉とかで頭が混乱していて、敬語すら抜け落ちてしまっていた。



********



「麻紀さん、今日はもう上がっていいわよ」

「……はい」

 道明寺邸、道明寺楓の執務室にて。
 今日も今日とて夜中まで及んだ会議の後、楓は秘書の八代麻紀(やつしろまき)を連れて自宅に仕事を持ち込んでいた。
 日付けが変わろうという頃、やっと激務から解放された麻紀は連日の激務に頭がフラフラだった。
 もう時間も遅いため、今夜は道明寺邸に一室を借りて明日はここから楓と共に出勤する手筈になっている。

 ーー今夜は無理でも朝にはきっと会えるわよね?

 そんな下心を忍ばせて、司が使っているという部屋の隣を急遽空けるように使用人に命じて部屋に入った。
 それはもちろん、司が夜に帰って来た時に直ぐに気づけるようにするためだ。

「…………ふふっ」

 ああ、楽しみだ。
 楓に付いての秘書業務は、正直、辟易していて今直ぐにでも辞めたいくらいだが、チャンスをものにするまでは辞めるわけにはいかない。
 もし今夜彼に会えたら、何から話そう。
 まずは、あの目障りな女の排除からだ。

「さあ、早くしなきゃ」

 頭は重いが、今夜会えたらもしかしたら ”彼と” そういう事があるかもしれないから、念入りに磨いておかなければ。
 笑みを携えて、風呂上がりにボディクリームをたっぷりと塗り込めていく。
 何しろ彼は、上流階級の幾人もの女を手玉にとっているのだから、手抜きは許されない。
 あの忌々しい女の事はどうせ、上流階級の女に飽きた末に気まぐれで手を出したのだろうし。

「そろそろ司も、いい女と寝たがる頃よね……?」

 地位も美しさもないような女が、自分より司の傍に居たのだと思うと腹立たしいが、そういう意味では彼女に感謝しなくては。
 空腹時の食事が最高のディナーとなるように、貧相な食事をした後は豪華な食事を恋しがっている筈だから。

 過去に、司と数時間部屋を共にした女はいずれも一度きりだったし、一週間と経たずに別の女へと入れ替わっていた。

 ーー残酷な男。

 だが、麻紀にとってはその残酷さがたまらなかった。
 女に一切媚びず、誰のものにもなろうとはしない高貴で誇り高い彼。
 それでもいつも、従兄弟である自分には手を差し伸べてエスコートし、踊ってくれるのだ。

 ……まるでこの私に、ここまで来いと言っているかのよう。

 司が社会人になってからは、楓や椿がパートナーを務めた時以外は自分を選んでくれた。
 あの女でもいいと言っていた楓だって、いつまでも結婚しない司に妥協しただけで、本当の相手が自分だと分かれば私と司は両家から諸手を挙げて喜ばれるはず。
 その為に、私は今まで司が相手をして来た女達を処分して来たの。

 仮に妊娠していても、突き落としてでもして堕胎させればいい。
 だって、司と私の邪魔をしたんだし、一晩司の相手が出来たと思えば安い代償でしょう?
 私達の未来に傷をつけるわけにはいかないもの。


 ーーガチャ


 重厚な部屋の扉を開けて素足のままひたひたとある場所を目指す。
 夜中でも空調が効いているため、薄着でも凍える事なくその部屋に入る事が出来た。
 部屋を見渡せばそれだけで自分を酔わせる彼の香りが充満していて、初めて入ったその空間に幸せで目眩がする。

「司、早く帰ってきて……」

 うっとりと呟いた麻紀はその場でバスローブを脱ぎ捨て、薄手のネグリジェを纏った姿でベッドへと潜り込んだ。


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坊っちゃん逃げてえええぇえーーー!
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