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悪い男 21


悪い男20話お預けだった皆様、長らくお待たせしました。
取り敢えず今回は「負」の要素は皆無ですので、まったり見て頂けるかと存じます。(*'▽'*)



++++++++++++++++++++++


 ーーあれからは、あっという間だった。

 強く手を引かれて執務室を出ると、気づけば副社長のリムジンに乗せられ、結局行き先もわからないままどこかへと向かっている。
 尋ねる事をすればよかっただろうと言われるかもしれないが、しなかったのではなく、副社長に口を塞がれてしまい出来なかったのだ。

「…………ん」

 ーー運転手さんが居るのに。

 いつもは、車でキスをする時は運転席との間にガラスがあった。
 可動式のそれはいつも副社長が自然と操作していたから、あたしにはどこにそのスイッチがあるかもわからなくて、我を忘れたようにのし掛かって唇を押しつけてくる胸元を叩いた。

「ん? …………あぁ」

 息苦しさと恥ずかしさで顔が熱い。
 唇が離れた瞬間に必死で指をさして伝えれば、今気づいたというように、ピッ、と音が鳴って運転席から目隠しをしてくれた。
 今更……ではあるけど。そのままはもっと恥ずかしいし。

「大丈夫だろ。あっちには俺の背中しか見えてねーし」

「そういう問題じゃありません」

 そりゃ、今までだって毎回ガラス上げてたし何してるかなんてなんとなく気づかれてただろうけどさ!
 それでも副社長に覆い被さられたりしてるところを直接見られるのは、また別の恥ずかしさがあるんですけど!!
 こっちがいくら言っても、「はいはい。そーかそーか」と軽くあしらわれ、ちっとも話が通じなかった。

「まあいーじゃん。見られて困る事してるわけじゃねぇだろ?」

「あたしが後々の対応に困るんです」

「は? なんで」

 もうっ、このお坊っちゃまは全く!
 羞恥心というものが抜け落ちてるんだから。あたし一人で必死になって、バカみたいじゃないか。

「それよかお前、どっち行きたい?」

「~~~っ、どっちって?」

 副社長は興味なさげに早々にその会話は終了して、次の会話に移る。
 それにちょっとイラっとして一体なんの話かと頭上にいる人を睨むと、いきなり目の前が真っ暗になった。

「ばか、決まってんだろ?」

「な……」

 何がですか。
 しかし、それを言うより先に、副社長の声が耳へ直接下りてきた。

「ーーーーーーー」

 小さな小さな声だった。

 耳を澄まして、やっと聞こえるくらいの。

「な?」

「…………っ」

 やめて。そんなに近付かないで。

 心の声は口に出さなければ伝わらない。
 あたしはそんな当たり前の事も忘れて、はくはくと声にならないまま口が動く。
 急速に走り出した心音に煽られて、顔が熱くて、頭の中は真っ白。
 いっぱいいっぱいのあたしに気付かないのか、副社長は更にあたしに近付いてきて、高鳴りは半分恐怖に変わりそうだった。

 うそ、待って。まだあたしは……

「愛してる、牧野」

 ……なんで今それを言うの?
 そんな優しい顔で、まるであたしが【愛おしい】って言ってるみたいで勘違いしそうになる。
 でも、何もかもがもう遅い。あたしには副社長を拒否するなんて出来るわけがなかった。

「いいだろ?」

「…………は、い」


 あたしはとっくに、この人に囚われてしまっていたのだから。



 『じゃあ、俺の部屋で一緒に寝るか』



 ーーもう、抜け出せない。



******



「坊ちゃん、お帰りなさいませ。本日はどのようになさいますか?」

「食事だけ部屋に運べ。 まだ仕事が残ってるから、それ以外は部屋に入ってくるな」

「かしこまりました」

 ……え。それで通じるの?
 逃げられないようにする為か、副社長の左手はあたしの肩にさりげなく添えられている。
 秘書として何度か出入りしていたので、道明寺邸には顔見知りの人も何人かはいた。
 でもさっきの使用人さんから見ると、秘書の肩を抱いてる主人が今から仕事しまーす、って、信じてくれる人は果たしているのか……? うん、もう何も言うまい。

「さっきから百面相して、なにやってんだ?」

 一人で悶絶していると、それを見た副社長が、クッと笑った。
 その顔が思いの外優しくて、顔が熱くなる。「なんで真っ赤になってんだよ」だなんて不可解そうな顔をしていたけど、指摘されると余計に恥ずかしい。

「やっぱすげーかわいい」

「…………いつもブスって言う癖に」

「ばか、ブスでもなんでもお前が一番かわいいんだよ」

 無茶苦茶な事を言いながら、時折、機嫌良さげにおでこにキスを落としてくる。
 カチャリと開けられた扉の中に副社長と一緒に入ると、中の部屋もやっぱり凄く大きくて、何度来ても感嘆の溜息が出る。
 調度品の数々はきっと高級品しかないだろうし、果たしてこの部屋は、あたしの一人暮らしの部屋何個分の広さなんだろう……?

「ほれ」

「ぅわっ!?」

いきなり、バサッと投げつけられたバスタオル。

「……て、なんですかこれ?」

「お前シャワー浴びないの? 俺は全然構わねーけど」

「いえっ、有り難くお借りしますっ!!」





 ーーって、待って?

 なんであたしは今、大人しくシャワー浴びちゃってるのよ。 ……っていやいや、さっき覚悟したばかりじゃない。
 しっかりしろ!牧野つくし!

 脳内ではもうパニックで、慌てながら身体の隅々までチェックした。だって、こんなことになるなんて思ってなかったし。

「……あの、お風呂いただきました」

「おう」

 用意されていたバスローブ姿で部屋に戻ると、髪が濡れて別人のような髪型になってる副社長がいた。

「ここ座れ。髪、乾かしてやる」

 長い手に腕を引かれ、ソファーの下の絨毯に座らせられる。
 副社長はあたしの真後ろのソファーの上に座って、もう片方の手に持っていたドライヤーの準備を始めた。もしや本気で、副社長があたしの髪乾かそうとしてる?

「あ、あたしは後でいいので。 副社長が先に乾かして下さい」

「やだ。お前が風邪引くだろ」

「でもっ」

「いーから」

 上げかけた腰を座るように強引に肩を押されて、大人しく前を向く。髪を梳く手で手際良く根元から乾かされて、偶にドライヤーの音に紛れて調子外れな鼻歌が聞こえてきた。
 いつになく上機嫌な副社長が珍しくて、思わず仰け反るようにして真上にいる人を下から覗き込んでしまった。

「なに」

「っ、いえ! なにもっ!」

「?」

 いかん。自爆した!
 どの角度からみられても完璧な造形をしたお顔に隙があるはずもなく、少し濡れたままの髪が緩いパーマになっていて色気が倍増していた。
 むしろ、あたしのが間抜けな顔を晒してしまったのではないか。

「ほれ、終わりだ」

「あのっ、次はあたしがやります!」

「いらねえ。 そんなことより、早く飯にしよーぜ」

 自分の髪はタオルでガシガシと乱暴に拭き、あたしは副社長に背中を押されるまま、キラキラしたエフェクトさえ見える食卓についた。
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