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悪い男 24

久しぶり過ぎて作中のイメージが変わってしまっているかもしれません。
一話の長さも長いのか短いのかどうかも感覚を忘れてしまいよくわかっておりません。
話の流れに矛盾点等ございましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。((+_+))



************


「なぁ。最近副社長やたら機嫌が良くないか?」

「だよな!? 俺なんて昨日挨拶し返してくれたんだぜ?」

「ちょっ、何それ! その話詳しく聞かせなさいよ!」

「うわっ、お前必死すぎだろ。こえーって(笑)」

「……あっ、噂をすれば!」

 男性社員2人の会話を耳ざとく聞きつけ、そこに割り込んだ女性社員が1人。
 街中で芸能人を見つけた時の様などこにでもある光景だが、ここ道明寺HDに就職するだけでもどれほどの学力と生まれ持った美貌、さらには運が必要なのかは今更語るべくもない。
 そんな、いわゆるエリートと呼ばれる彼らが挨拶を返されただけで思わず浮足立ってしまうのは、彼らが未熟だからではなく、当の本人よりも倍ほどの年齢を重ねていても同じ反応をしてしまう者がほとんどなのだから、これは許容範囲内なのかもしれなかった。

「前ならぶっ飛ばしてたかもしんねーけど」

 きゃあきゃあと、控えめではあるが出社してきた副社長・道明寺 司に誰もが一挙一動を見逃さんと注目を集めている中、お綺麗な顔に似合わない暴言を斜め後ろからしっかり聞き取ってしまった。

「まあまあ。嫌われるよりはいいじゃないですか」

「……わかってるよ」

 それでも彼は騒がれるのは好きではないらしく、怒鳴り散らしはしないものの、いつものポーカーフェイスよりほんの少し不機嫌になっていた。

「コーヒー淹れますね」

「ん」

 最上階にある執務室に到着すると、席に着くなり仕事のスイッチが入ったのか、返事は聞こえてくるけれど絶え間なくキーを叩く音が聞こえてくる。
 副社長はふざけている時も多いけれど、こんな風に集中力が高まっている時は絶対に邪魔しちゃいけない。西田さんからの引継ぎ事項にもあったけど、こういう時が一番良いインスピレーションを感じやすいのだそうだ。

「……牧野。豊川自動車の今期の業績とLAでの販売実績の資料頼めるか?」

「! はいっ」

 提携先の資料をすべて用意しておいてよかった。
 これも西田さん仕込みで、言われた時は100や200にきかない資料整理に唖然としたものだけど、「なにがきっかけでいつ副社長が必要とするかわからないから」と毎日地道な作業をこなした甲斐があった。
 資料を5分ほどで手渡すと少しびっくりしていたようだから、少しは使える人間だと思って貰えたかもしれない。
 ……もし、過去の女の人みたいに必要とされなくなってしまっても、仕事とプライベートは完全にわける人だから傍に置いてもらえるかも。

 いまだに昨日のあの人の事が聞けないのに、仕事の時だけでもと保険をかけているあたしはずるい女になったと思う。
 でも、どうしても副社長の隣を手放したくない。
 ずるくても、したたかでも、愚かな女だと言われても、もう引き返せそうにない。

「っと、もうこんな時間か」

「あ、すみません! お昼行きましょうか? それともここでとります?」

 気付けば時計はお昼過ぎを示していた。今日は会議や外回りがないからといって作業に集中しすぎてしまったようだ。

「いや、ここで摂る。それよかお前……」

「え?」

 立ちあがって近付いてきた副社長がこちらに近付いてくる。
 嫌味なくらい長い脚のせいかあっという間にあたしが座っているデスクの横に来て、あたしを囲むようにデスクに両手をついた。

「さっきから眉間にシワ。痕ついちまいそー」

「!」

 くるりと椅子ごと回転させられ、クッ、と笑って眉間の皺を伸ばしてくる。
 見上げた先にあったのは愛おしくてたまらないというような笑みで、胸がぎゅうっと鷲掴みにされてしまう。
 ほら、こんなに痛いほどの幸せを知った後ではもう手放せるはずがないんだ。

「は? お前何泣いてんだよっ」

「……抱きしめて下さい」

「…………あ?」

 知らないうちに零れていた涙と一緒に、気付けばそんなことを口にしていた。
 司は先に落ちた涙に慌てていたが、続けて出てきた言葉に目を瞠り固まってしまった。

 「だめ、ですか?」

 「なわけあるかっ」

 ガシャン! とやや乱暴に抱きしめられたせいで、回転式の椅子が軋む音がした。
 押し付けられた広い胸からは予想以上に速い鼓動が伝わってきて、どんな愛の言葉にも勝るその振動はあたしが一番欲しいものをくれる。

「クソッ、人の気もしらねーで……」

 副社長が頭上で何かを呟いていたいたけど、少なくとも今だけは同じ気持ちなんだと幸せを噛みしめていた。


****


「今日も泊まってけ」

「わっ」

 珍しく定時で仕事を終えると、晩御飯へ行こうと副社長に誘われた。
 ここ数日は毎食、というか24時間一緒にいて昨日も副社長名義のマンションに泊まったばかりだ。
 休日だけならともかく、着替えの事もあるし、平日までご厄介になるわけにはと遠慮したかったのだけれどなんとも強引な副社長の手腕(?)で連日お泊りになっていた。
 税金対策だとかで購入したらしいマンションのカード―キーを今日も乱雑に投げ渡され、床に落としそうになって慌てて受け取った。

「ぷっ、どんくせーな」

「こんな価値のよくわからないものをほいほい投げないでくださいよ!」

「お前がいちいち毎朝寄越してくるからだろーが。嫌なら肌身離さず持っとけよ」

「それであたしが失くしちゃったらどうするんですか! 考えただけでもおそろしいっ」

 別にどうもしねーよ、と愉快そうに笑う副社長が恨めしい。
 副社長は失くしても鍵を替えるだけだとか考えているかもしれないけど、いわゆる億ションと呼ばれる部屋の扉の鍵交換なんて庶民の鍵交換と一緒なわけがない。そもそもホテルでもないのにカードキーの自宅なんかそうそうないだろう。
 価値観の違いって侮れない、と一人で考えていると、その数秒後に新たな爆弾が落とされた。

「あ、そうだ。お前の部屋の荷物、昼のうちに全部持って来させたから」

「……はいっ!?」

「お前、いっつも着替えがなんだとかって家に帰りたいって言うだろ?」

 気の利く俺に感謝しろよと言わんばかりのどや顔でこちらを見ている副社長を思わず2度見、いや5度見くらいした。

「な、なんでっ。いやそれよりも部屋の鍵はどうしたんですか!?」

 ひとり暮らしのあたしの家の鍵なんて、今自分で持ってるのと万が一のために実家に1本置いているものしかないはずだ。
 ……じょ、冗談だよね? お願いだから誰か嘘だと言って!!

「ん? SPに頼んで行かせたら、丁度お前んちのかーちゃんが来てたらしいぞ?」

 その場であたしはズルッと盛大にこけた。


 大家に頼んで無理ならマンションごと買取を考えていたと平然と言うこの男は本当に同じ人間なのか?
 っていうかママ! 年頃の娘の家の鍵をあっさり見ず知らずの人間に渡してんじゃないわよおおおお~~っ!!

「これで毎日一緒にいられるな?」

「~~もうっ、ほんと信じらんない!」

 人の知らないうちに勝手に引っ越しを終える上司兼恋人(?)も、娘の部屋の鍵を渡しちゃう非常識な母親も。
 でも一番信じられないのは、この男の無邪気な笑顔だけで全てを許せてしまう単純なあたし自身だ。

「……責任は取ってもらいますからね?」

「ああ、いくらでも」

 これですぐに別れたいなんて言われたら、訴えてやるんだから!
 戸惑いだとか躊躇いを置き去りにして、ある意味開き直ったあたしと副社長二人きりの生活はこうして始まった。



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終わってませんよ! もう少し続きますので!


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