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記憶喪失物語。#1

「つーか、お前に話が‥‥」

次の言葉を待たずして、大きな音がなった。

"ビリッ"

強く握った手で勢いよく引っ張ったせいで、紙袋は破けてしまった。
心なしか、その拳は震えているように見えた。
いきなりの事に呆然として、その拳の持ち主を司は見上げる―――

「あんたがいらないならこっちで処分する」

「人がどんな思いでここまで来たか」

「あばよっ」





――――まただ。

またこの女、イカってやがる………。

突然の事にただただ意味も判らず、紙袋から落ちたぬいぐるみ、ネックレス、野球のボールをゆっくりと拾い上げる女を眺めていた。
すると、女が聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、口を
開いた。

「………あたし、だって」

「いらねーよ!こんなもんっ」

馬鹿でかい怒鳴り声と共に、硬式野球ボールが額に降って来て、俺は意識を失った―――。


****

(ここは……何処だ?)

突然失った意識に頭が付いていかず、意識を取り戻した俺は一瞬混乱した。
何処かって、この見慣れた天井は自分家に決まってる。

「司ッ!」

「みんな!司が目ぇ覚ましたぞー」

部屋のドアが開いて、あきらの声が聞こえた。
ゆっくりと俺は上半身を起こして
、続々と入ってくる顔馴染みの奴らと顔を合わせた。
俺が意識を
失うまで居たメンバーのままだ。
あきらに総二郎、滋に三条………。

あの女………以外は。




「何なんだよっ!あの女はッ!!」

思い出してイライラしてきた。

人が話しあるっつてんのに訳わかんねーこと喚き散らして怒鳴り散らして、おまけにこの俺様にボールまで投げつけて来やがった!!!

「司、やっぱり思い出さないの?」

類が口を開いた。

「あぁ!?」

イライラした感情のまま類に投げつけた。

「………そっか、まだ思い出さないんだね。」

「ボール当たったショックでもしかしたら、と思ったんだけど。」

顎に指を当てて、あっけらかんと言い放つ。

「あ~俺もちょっと思った!」

「俺も。そんなに上手くはいかねーか、やっぱり。」

「でもこれ以上のショックって難しいよねぇ~」

「いっそのこと、2人で一晩過ごして貰うって言うのはどうですか?」

「「おっ!桜子、い~じゃんかそれ~」」

あきらと総二郎がげらげら笑いながら三条に同意する。

…………っつーか。

さっきまで気ィ失ってた俺に労りの言葉1つくらいかけらんねぇのかっ!?

「オイッ!お前らっ!!」

全員が一斉にハッとした顔でこっちを見た。

「さっきから何訳わかんねーこと言ってんだよ!」

「わざわざ俺に関係ねー話するためにいるんなら帰れッ!!!!」





一瞬全員が静まりかえったかと思うと、みんなして俺を複雑そうな………いや、残念そうな………悲しそうな……?視線で見てた。








ーーーーーーああ、イライラする。


アイツらのさっきの視線もそうだが、刺されて目を覚ました瞬間からずっとこのイライラが治まらない。

生まれつきって言っていい程、ずっと付いて廻ったこの苛つき。

でも、記憶を失うまではこの感情は確かに忘れてたんだ。

記憶はないが、俺の細胞がそう叫んでる。


゛足りない。゛



゛早く思い出せ。゛


ーーーーーこのままじゃ、俺は駄目になる。

昔から何も変わらないはずなに、足りない〔何か〕があったのだと。

何なんだ、この焦燥感は。

何なんだ、この胸の奥の虚無感は。

何なんだ、このまるで血の通っていないような手足は。

ーーーーでも。

頭のなかにもやがかかって何も思い出せない。






いつもと変わらない日常なはずなのに、忘れた記憶以外の記憶が常に頭から離れない。

モノクロだった世界。

唯一彩る色は赤色。

どす黒い。まるでこの世界を表しているかのような、全部俺が吐き出させた血〔あか〕だ。

吐き出させてやるうちに、モノクロの世界は次第にどす黒い赤一色に染まった。

汚ねぇもの出してるうちに、俺自身がそれに包まれてしまった。

もう、何もかもがどうでもいい。

望めば何でも叶った。

つっまんねぇ毎日。

なぁ、お前らもそうなんだろ?

おもちゃを与えれば嬉々として飛びついて来やがって。

まるでハイエナだ。

ぎゃあぎゃあ喚くんじゃねぇよ。鬱陶しい。

いちいち泣くんじゃねえよ。虫酸が走る。

近づくな、触るな、喋りかけるなブスッ!

そんな、日常〔アタリマエ〕だったはずなのに。




確実に。






ゆっくりと。








一筋の光が差した。
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