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記憶喪失物語。#20

~数日後~


「あ、牧野。」

「おはよう、花沢類。」

ここは非常階段。あたし達の憩いの場。

次の授業が自習だって言うから、一休みしに来た。




「‥‥‥大変そうだね、色々。」

「‥‥‥ははは。」

そんなことないって、即答出来なかった。

その元凶は、やっぱり‥‥‥

"バアァン"

ーーーー後ろからドアを激しく蹴破る音。

「おいっ!牧野!!」

「‥‥‥何よもう。うるさいなぁ。」

あたしはジト目で道明寺を見た。

「お前、彼氏に向かってうるさいじゃねーよ!」

「っつーか、なんでケータイ出ねんだよ!さっきから鳴らしてんのに!」

「‥‥‥あ。さっきまで授業中だったからマナーモードのままだ。」

慌ててスカートのポッケに手を入れて出した携帯を確認する

「ふざけんな!!」

「下らねえじじいの授業と俺との連絡どっちが大事だよ!」

「‥‥‥授業?」

「てめぇ‥‥‥」

即答したつくしに司が青筋を立てていると。

「あ、牧野。」

空気が読めないのか読まないのか、よくわからない類が何かをつくしに差し出した。

「何?これ。」

「弁当箱。遅くなった。」

「あっ、そうか!お弁当箱ね!」

「ちゃんと全部食べた??」

「食ったよ。珍しいもんばっかだったけど。」

「失礼ね!フツーの物しか入れてないっつの!」

「‥‥‥あぁっ!?」

俺を無視して、わからない事を話し出す牧野と類。

‥‥‥っつーか、弁当って何だ!?

俺だってまだ食った事ねえってのに!!

「おいコラ!何だ弁当って!」

「かか、彼氏の俺様が貰ってねえのに、なんで類、お前が貰ってんだ!!」






「‥‥‥えっ?」

「‥‥‥。」

急にびっくりした顔の牧野と類。

「‥‥‥な、何だよ。」

俺まで調子が狂ってしまった。

「あ~‥‥そ、そうね!ごめんごめん、今度はあんたの分も作ってきてあげるから!」

「?」

「‥‥‥お前、どうしたんだよ。なんか変じゃね?」

牧野は俯いたまま、こっち見ようとしねえ。

いつもなら『そんなことで怒るんじゃない!』って怒鳴りそうな所なのに‥‥‥。

「ななな、何でもないよ!」

「ちょっと目にゴミが入っちゃったみたい!」

「‥‥‥司も貰ってるはずだよ。」

「は?」

「俺が弁当貰ったあの日、牧野はそのままお前の見舞い行ってたから。」

「‥‥‥そうだよね?牧野。」

「‥‥‥。」

牧野は視線を左右に動かして、迷った後、ゆっくりと、頷いた。

「‥‥‥そうなのか?でも俺貰ってねぇ‥‥?」


ーーーーあ。


ーーーーあれか?



ふ、と1つの心辺りに辿り着く。


「‥‥枕元に置いてたやつか?‥‥あれ、お前だったんか?」

「‥‥‥。」

静かに頷く牧野。



「‥‥‥そうか。」



やっぱり俺の直感は正しかった。

懐かしい味。

俺の細胞がコレだと叫んでた。



「直ぐに気づいてやれなくて‥‥‥ごめんな。」


牧野から水滴が次々と溢れ出して、床に落ちて行った。


"ぎゅう。"


そんな牧野を見ていると、たまらねぇ気持ちになって気づいた時には抱き締めてた。

自分からは決して言い出さなかった牧野。

気づけなかったバカな俺を責めることもしねーで。

今だって類が言わなきゃ、ずっと言わないつもりだったんだろう。

「早く言えよ。バカ女。」

そうしたら、黙って殴られてやったのに。

「い、言える訳ないじゃん!」

「あんた海ちゃんに骨抜きだったし、あたしの話ロクに聞こうともしなかったんだから!!」

やっと元気を取り戻した牧野に安堵しながら頭を撫でると、珍しく素直に俺の胸にすり寄ってくる。

「‥‥うん、ごめんな。」

そんな牧野が可愛いくて愛しくて、更にぎゅっと抱き締めて首筋に顔を埋めた。

「‥‥‥本当だよ。」

「今度浮気したら別れてやるんだから。」

「!?」

俺に抱きつきながら洒落になんねー事を言い出した牧野。

「じょっ、冗談じゃねえ!誰が浮気なんかするか!!」

びっくりし過ぎて俺は牧野から身体を離した。

「‥‥‥よくゆーよ。海ちゃんといちゃいちゃしてたくせに。」

ちっせぇ声でブスッと膨れた牧野。

「どこがだ!あんなん弁当作ったって言ってたからちょっと相手してただけだろ!」

「‥‥‥ふん。どーだか?」

「まだ言うか、このっ!」

懲りない二人が喧嘩を始めようとしたそのとき。

「‥‥‥牧野、やきもち妬いてるんだよ。」

二人の少し上から、今まで静かにしていた男が口を開いた。


「「‥‥は?」」


すっかり存在を忘れられていた類。とたんに牧野の顔が真っ赤に染まった。

「なっ‥‥!?なんであたしが‥‥!!」

図星をつかれたつくしは必死になって否定するが。



‥‥‥時、既に遅し。



「‥‥‥そーかそーか。そんなに俺が好きでたまらないんだな。」

うざい位にニヤニヤしてる道明寺。

「‥‥‥そこまで言ってないっ!調子に乗るなっ!」

「わかったわかった。そんなに照れてんじゃねーよ。」

「全然わかってなーーーい!!」

「わかった、わかった♪」

「だ~か~ら~!!」

全然人の話を聞かない道明寺。そのままあたしは引っ張られて、非常階段の出口まで来て、



「‥‥‥お前、ちょっと待ってろ。」



ーーーーポイッ。



あたしだけ追い出された。





******


牧野を追い出した俺は類と向かい合った。

「‥‥‥どうしたの。」

類は、まだ立ち去らない俺に一体どうしたのかと聞いてくる。

「‥‥‥類。俺に忘れもんあんだろ。」

「?」

「ないよ。」

「~~~いいから!あんだろって!」



ーーーー分かれよ!!



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ。そういやあったね。」

「だろ。早く済ませろ。」

「‥‥‥えらそうに。」

「歯、食いしばってね。」

コキコキっと、普段運動もしないヤツがウデを鳴らす。

言葉道理に俺は、目をつぶって歯をくいしばった。


「‥‥‥じゃ、いくよ。」

「あぁ。」





ーーーーヒュッ!







風が、空を切る。



その様子が肌で感じられた。



ーーーー来た!!



それなりの覚悟をして類の拳を待った。









ーーーーポコン。








「‥‥‥‥‥‥‥あ?」


なのに俺に与えられた衝撃は、衝撃とも言えないものだった。

しかも、なぜか手じゃないモノで軽く小突かれた程度。

「おい、類っ!ふざけてんじゃねえぞ!?」

「もう、いーよ。」

ーーーー退屈そうに言う類。

「何が良いんだ!こんなんじゃちっともスッキリしねーだろーが!!」

「‥‥司がスッキリしたいだけでしょ。」

「そんなにスッキリしたいならその辺の壁にでも頭ぶつけて来なよ。」

「殴ったら手痛くなるし。俺は、やだ。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥こンのっ!!」

ふざけた事を抜かす類に一瞬にして頭が沸騰しそうになるが、欠伸した類を見ていると何だかどうでもよくなってきた。

「‥‥‥‥ま、いいや。俺行くわ。」

「引き止めて、悪かったな。」


それだけ言って、待たせてる奴の所に向かおうと類に背を向けた。


「‥‥‥今度泣かせたら、獲っちゃうからね。」


背中越しに聞こえてきた声。


(‥‥‥何だよ。言いたい事あんじゃねーか。)


なんか、おかしくなって口元が緩んだ。


「‥‥‥‥獲れるもんならとってみな。」

顔だけ振りかえって笑ってそう言ってやった。

「‥‥‥‥‥‥‥楽勝かもよ?」

負けじとニヤっと笑って返してきた。

「!!」

「‥‥んだとっ!」

「嘘、うそ。」

軽ーく言ってのける類にまた力が抜ける。

「はい、本当の忘れ物。」


類が俺に何かを投げてきた。


ブンっと放物線を描いたそれは、俺の手中に収められる。


「何だ、これ‥‥‥?」

「雑誌?」

おそらく、さっき類が俺を小突いたモノ。

類が寄越した雑誌を表紙も見ずに、適当に数ページめくるとあるものを発見した。


「!!」


「‥‥‥‥俺は、牧野のそういう顔が見たいだけだから。」


「‥‥‥‥。」


「司にしか出来ないんだから、しっかりやってよね。」










「‥‥‥‥‥これから、お前が見飽きる位いくらでも見せてやるよ。」








「‥‥‥‥‥期待してる。」










後ろ姿でVサインを作って、俺は今度こそ牧野の元に向かった。
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