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記憶喪失物語。#2

それから数日後、英徳学園に復学する事となった司はF2に半ば強引に学園に連れて来られていた。

「あ~だっりぃ。わざわざ朝から人を叩き起こしやがって。」

「ま、ま、そー言うなって!司。」

「そーそー。今日は何か良い事があるかも知れねーじゃん。」

「それに、朝からッつったって、12時過ぎだべ。」

「ウッセー。俺様にとっては朝なんだよッ!寝てる人間を起こすなっ!」

「……寝てたか?起きてただろアレ。」

「ぐっ」

「うん、起きてたな。無理矢理二度寝しようとしてたけどな。」

「おっ!お前ら見てたのか!?」

「誰が男の寝てる姿なんかみるか。お前の場合、すべてが顔に出てるんだよ。」

「だよなあ~。嘘が下手とかそういうレベルじゃないよな~」

そう言って、2人はギャハハといって笑った。
もちろん、5秒後には司の報復が待っていたが。


確かに俺は起きてた。学園来るのなんて暇つぶし程度なのに、まるで学園に来るためかのように体が勝手に早い時間に起き出してた。(それでも一般の生徒よりだいぶ遅い時間だが。)
それも昨日今日の話じゃない。刺されて目を覚ました翌日からずっとそうなんだ。

まるでジジイかババアじゃねーか。わけわかんねー。






それは、記憶をなくす以前に、つくしに会いたいがために繰り返された行為の賜物だったのだが、前よりずっと規則正しい生活習慣が自身に身に付いた理由など、今の司には知るよしもなかった。

「「牧野発見!!」」

唐突に2人が声を揃えて叫んだ。

「げっ!」

牧野と呼ばれた女は、振り返ってこちらをみると嫌そうな顔になって逃げ出した。

「ちょ、あきら捕まえろっ」

「なんで俺なんだよっ!」

そう言いながらも人が良いあきらは運動神経を生かしてあっというまに女を引きずってこちらに連れて来た。

「美作さんっ!離してよっ」

「いやぁ、それが俺の腕が牧野から離れたくないって言って俺も困ってんだわ。」

「困ってるならあたしが殴って助けてあげるわよっ」

「つくしちゃーん、ご機嫌いかが?」

「最悪だよっ!」

それまでぼんやりとそのやりとりを俺は黙って見ていた。






………何なんだ。あきらも総二郎も。

ガキみたいにげらげら笑って、つまんねー事でなんでそんなにうぜぇくらいのテンションになれんだ?

お前ら、そんなんだったっけ?

っつーか、こいつ………!!!

「オイッお前!!」

お前は俺様にボール投げ付けたやつだろ!?

俺は忌々しいクソ女に怒鳴り付けた。

「………なんですか。」

女はゆーっくり振り向くと、眉間に皺を寄せて睨みながら俺の方をみた。

「なんですかじゃねえ!!人にボール投げ付けておいて良い度胸してんじゃねーか!?」

「あら。お褒めの言葉、ありがとう。」

「はあっ!?」

「じゃ、あたしはこれで。」

にっこり笑みを作ってそう言うと、牧野とかいう女はぺこりと頭をさげて、スタスタと歩いて行った。

何が起きたのかわからなくて、暫しボーゼンとその後ろ姿を見送った。











「……ってテメェ、ごるあぁぁあぁぁ!!!!!!!」









司の怒号が学園中に響き渡った。


遥かとおくの豆粒みたいな女は後ろ手に手を振っていた。


****


「「「牧野、サイコー!!」」」

F3に声を揃えてそう言われた。

3人はお腹を抱えて涙流して笑ってる。

「ちょっと!いつまで笑ってんのよっ!!」

真っ赤になって牧野が怒ってる。

F3はひとしきり笑うと、静かに顔を上げた。

「つーかさ、お前まじで司の事諦めるつもり?」

さっきまで爆笑してた西門さんが真面目な顔して言った。

「あ、諦めるも何もっ、あたしあいつにとっくに振られてんだけどっ。」

あいつの名前を聞くだけで、胸が苦しい。

思わずそっぽを向いて答えてしまう。

「……お前が、いつ、振られたんだ?」

怪訝そうな顔をして言う美作さん。


「…………。」

「牧野?」

「………あんた達にはわからないかもしれないけど、彼氏だった男に無視されて、新しい彼女まで作られたら世間一般では振られたっていうのよ!!!!」

もうヤダ!!なんでこんな情けない事話さなきゃなんないのっ!?

なんだか訳がわからなくなって泣きたくないのに、目頭が熱くなって、視界がぼやけてきた。

「「「…………!!」」」

つくしの傷ついた表情を見て、3人は少し驚いて言葉を失った。

それと同時に、海と司に対する怒りが沸々と沸き上がってくる。

つくしはというと尚も目に溜まった涙を流すまいと、大きな瞳を見開いて、唇を噛みしめてただひたすら堪えていた。

そのとき。

少しひんやりした大きな手が、つくしの後頭部に触れた。

「………今度は俺が支えるって言っただろ?」

目の前に居たのは花沢類。

正面から左腕を伸ばして優しく頭を撫でてくれた。

「やめてよ……」

つくしらしくない力のない声。

類を真っ直ぐみつめる事が出来ない瞳は戸惑いを隠せていない。

「ごめんな。嫌なこと言わせたな。」

左隣には美作さん。

あたしが顔をみられたくないのを悟ったのか、正面を向いたまま右手で背中を擦ってくれた。

「大丈夫だ。おまえは雑草だろ?」

そう言って、西門さんに背後から両手で目をふさがれた。

「ちょっ、なに………!!」

目を隠されながら頭をぐるんぐるん揺さぶられる。

「ギャ~~!やめなさいってば!!に・し・か・ど~~~!!」

相変わらずふざけてばっかの西門さん。

でも、すごく心配してくれてるのが3人の体温から伝わって来た。

心配掛けてるんだなって申し訳なくなった。

でも。

すごくすごく嬉しかった。

皆の気持ちがめちゃめちゃ暖かくって、なんだか胸が一杯になって息をするのも苦しくなっちゃって。

こぼれないように頑張って目、開けてたのに。

西門さんが目を覆った瞬間から緊張感が解けちゃって。

一筋のソレが頬を伝った後。

悲しいだとか悔しいだとか苦しいだとか辛いだとか。

花沢類の手は相変わらず冷たいとか。

美作さんの背中の手がすごく優しいなとか。

西門さんは素直になれないあたしの為に上手く隠してくれたのかなとか。




















一番体温の高いあの人の手が恋しいなぁとか。












一杯いっぱいになっちゃって。










あたしの涙腺とココロのダムが崩壊した。
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