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記憶喪失物語。#26

「なんで‥‥‥?」

「何で先輩ばっかりこんな目にあうのよぉっ!!」


ーーーー桜子の悲鳴が響き渡る。


「つくしぃ‥‥‥っ」


ーーーー泣き崩れた桜子を抱きしめた滋。

普段とは正反対に感情を露にする桜子と、目に一杯の涙を浮かべて静かに泣き続ける滋。

いつも両極端な二人だが、そのどちらにも牧野への痛いくらいの愛情が伝わって来た。





「‥‥‥‥桜子、滋。」

「お前らあんま寝てねぇだろ。俺らが見てっからちょっと休め。」






「あきら‥‥‥‥。」


俺の言葉に反応したのは滋だけだった。

「‥‥‥ほら、桜子も。」

泣き続けたせいで、憔悴しきってる桜子。

ようやく泣き止んだものの、目が虚ろで。まるで病人だ。

「牧野なら、大丈夫だ。」

頭を撫でてやりながら声をかけた。






「わたし‥‥‥」

「ん?」

「牧野先輩に、まだ、ちゃんとありがとうって言えて無いんです‥‥‥」


ぽつりぽつりと消え入りそうな声の桜子。

俺は頭を撫でながら耳を傾ける。



「いつも照れ臭くて言えなかった‥‥‥」

「いつもいつも優しい先輩に甘えちゃって、いつか言おう‥‥いつか言おうってずっと思ってるだけで‥‥‥。」



「桜子‥‥‥。」



「友達も居なかった私に、初めて手をさしのべてくれた人なんです。」


「全てを赦して、叱って、暖かくて大きい器にすっぽりとこんな私を笑って受け入れてくれたの。」




「先輩が、いなくなっちゃったら私、どうしたら‥‥‥っ!!!!」




「せんぱ‥‥‥‥っ!!」





ーーーーそれ以上は、声にならなかった。





桜子の、普段はあまり表にでる事のない牧野への想い。




桜子が、牧野を慕ってるのは俺たち皆知ってた。




でも、こんなに深い想いだなんて知らなかった。




牧野本人も、きっと‥‥‥。














牧野。



お前はやっぱりすげえ奴だよ。




世の中に絶望すら抱いていた俺たちをこんなにも見事に変えちまった。




お前は、





皆に愛されてる。






だから早く、俺たちにまたあの笑顔を見せてくれーーーー。









******



ベンチに座る俺に忙しない足音が近づいて来た。


「悪い!遅くなった!」

「総二郎‥‥‥。」

「牧野は!?どうなってんだ
!?」


声を荒げ気味に、俺に問いただす総二郎。




「‥‥‥‥‥。」


「おい?あきら!?」


「‥‥‥刺された傷は、そんなに深くはなかったみてーなんだけど‥‥‥。」


「手術も一応成功して、牧野はまだ眠ってる。」


「‥‥‥‥そうか。」


ホッと一息ついた総二郎の息づかいが聞こえる。




ーーーーこの先を、言うのが辛い。



「でも。」

「でも‥‥‥?」


俺だって、まだ整理できてないんだ。



「今日、目を覚まさなかったら‥‥。」


「一生、目を覚まさない可能性もあるんだと。」


そこまで一気に話した俺は、怖くて総二郎の顔が見れない。



「そん、な‥‥‥。」



顔を見なくても声が強張っているのがわかる。






「‥‥‥‥‥。」


「‥‥‥‥‥。」






沈黙が、暫く続いた。


「‥‥‥司は?」

「‥‥‥あいつ、すげえな。」

「?」

「病室には家族しか入れねえって言ってんのに、『俺はこいつの婚約者だ!』っつって無理矢理入ってった。」

「‥‥‥アイツらしいな。」

「牧野が聞いたら卒倒しそうだな。」

「あぁ、きっとパンチ喰らうだろーな。」


軽口を叩きながらも、心配で心配でで仕方なかった。







「ーーーー牧野なら、きっと大丈夫だよ。」



辛気臭い顔をしてるであろう、俺らに声が掛かる。


「「類っ!」」

「おっまえ、何処に行ってたんだよ!」

「ちょっとね。確認したい事があって。」

「‥‥‥三条と大河原は?」

「泣き疲れて、ここの看護師が用意してくれた部屋で二人で丸まって寝てる。」

「そう、‥‥‥良かった。」

「‥‥‥何が、良かったんだ?」

「三条はともかく、大河原は嘘が苦手そうだからね。」

「?嘘?」

「二人とも、協力してよね。」

「「?????」」

相変わらず理解に苦しむ類の発言。

でも、



『牧野は大丈夫。』



自分達の頭の中で、何度も繰り返した台詞。


繰り返せば繰り返すほど、不安に駆られた台詞。



なのに類の『大丈夫』は、絶大なる安心感を俺たちに与えた。














******



ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、





ーーーー規則正しく、機械音が鳴り響く。




やっと安定してきた牧野の呼吸と心拍数。


でも安心したのはつかの間で、今度は目を覚まさない牧野にどうしようもなく不安が募る。


唯一、俺のつぶれそうな心を支えていたのは、僅かに温かい牧野の左手の体温だった。








死にそうになっていると、ただ、生きていてくれと願う。


生きていても、目を覚ましてくれと願う。



目を覚ましても、俺を見て、笑ってくれと願う。



俺を見て笑ってくれても、きっと、牧野の全てを俺のものにしたくなるんだ。



どこまで、望めば気が済むんだ。



俺も所詮、一番嫌っていた人間と何らかわりない強欲な人種なのか。








ーーーーガララ‥‥。


「司‥‥‥。」


誰かが、病室のドアを遠慮がちに開けた。

後ろから届いた声には振り向かずに、黙って次の言葉を待つ。


「こんな事になるなんて‥‥‥。」


鼻の詰まったような喋り声に、後ろを振り向かなくとも表情は見なくてもわかる。


「姉ちゃん‥‥‥今は、二人にさせてくんねーか‥‥。」


「えぇ‥‥‥。用が終わったらすぐに出て行くわ。」


「‥‥‥今、しないといけねーことなんか?」


「‥‥‥そうよ。つくしちゃんが起きたら一番に見せてあげて欲しいの。」


「見たらわかると思うけど、牧野は今そんな状況じゃ‥‥‥」


「わかってるわ。」


「でも、これは一番つくしちゃんが欲しかったものだと思うの。」


「!?」


ーーーーやっと、後ろを振り返った司。


椿の右手には白い封筒が握られていた。


「‥‥‥‥‥なんて、わたしの勝手な希望かもしれないわね‥‥。」


自重気味に笑った。


「‥‥‥‥‥そこ、置いといて。」


「お願いね‥‥‥‥。」


椿はテーブルの上に封筒をそっと置くと、病室を後にした。
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