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記憶喪失物語。#28

「‥‥‥ごめんな。守ってやれなかった。」

ぎゅっと抱き締められたまま、本当にすまなそうに言う道明寺。

「なっ、なに言ってんの!あれはあたしが勝手に飛び出しただけで‥‥!」

いつもと違って殊勝な道明寺に慌てて返したあたし。

「それと‥‥‥ひでー事言ったよな、俺。」

「なっ、なに言ってんの!」

「あんたが口悪いのなんて今に始まったことじゃ‥‥‥!」

「それはお前には言われたくねえ。」

「なんだって!?」

「‥‥‥って違げぇ、そうじゃなくてだな。」

「‥‥‥あんたはさっきからなに言ってんの?」





ーーーーそこから、道明寺はあたしから身体を離した。







真っ直ぐ向けられた視線。


真剣な瞳。


怖いくらいに静まりかえった病室。


繋がれたままの両手。






一体、何を言われるんだろうとどきどきした。










「‥‥‥思い出した。全部。」










「えっ?思い出したって‥‥‥。」


一体、どういう事なんだろう?


「お前の事、思い出した。」

「本当にごめんな。俺も、なんで忘れたのか良くわかんねえんだけど‥‥‥。」

「あ、あたしの事、思い出したの?」

「あぁ。」

「ぜ、全部?」

「さっきからそう言ってんだろ。」

「なっ、なんで?」

「なんで、って‥‥‥‥‥。」


呆れたような顔した道明寺。

一回息を吐き、長い睫毛を臥せて話し出した。


「‥‥‥‥お前が、刺されて。」

「血まみれの自分の手見て、地面にも血が拡がってて。」

「もう頭ん中パニックでお前のこ
としか考えられなくなって、さっきまで俺の隣で笑ってたのにどこ行ったんだとか夢であって欲しいとか考えてたらスゲー頭痛くなって。」


「‥‥‥‥‥うん。」


「なんでいつも俺たちは誰かに邪魔ばっかされなきゃなんねえんだ、今度こそ幸せになれると思ったのにって。」


「‥‥‥‥‥。」








本当に悔しそうに言う道明寺。痛くはないけど、手にぎゅっと力が加わってその気持ちがダイレクトに伝わってきた。






「‥‥‥‥それで、気付いた。」

「いつもって何だ、今度こそって何だ‥‥‥って考えてたら、あぁ。そうだったなって。」

「俺の隣にはいつもお前が怒ってたり泣いてたり笑ってたんだって。」

「こんなことにならなきゃ思い出せねえ自分にすげえ腹立つし、すげえ情けねえけど‥‥」


ーーーーグッと、道明寺の手にさらに力が入った。


「思い出せて、本当に良かった。」


「記憶なくなって、お前が俺の中から消えちまって、頭も心も空っぽで。」

「でもお前に触れたり、近くにいるとすげえ満たされた。」

「こんな‥‥‥バカな俺をもう一度選んでくれてすげえ嬉しかった。」

「記憶はなくなってたけど、俺はもう一度お前に惚れたんだ。」




「‥‥‥本当に、ごめんな。」














「それから‥‥‥」














「愛してる。」













ーーーー今度こそ、あたしの涙腺は壊れたんじゃないかってくらいに泣いた。







あたしたちはそれから、ずっと抱き合っていた。

涙が止まらなくて、ずっとあたしをあやすように抱いていた道明寺のシャツがあたしの涙でべしょべしょになってしまった。

「泣き虫め。」

なんて、後から言われてしまったけど

「うっさい!あれは鼻水っつってんでしょっ!」


"ドカッ!"


しっかりパンチを一発入れてやったけど。












ーーーーあたしを抱き締めてた身体が僅かに震えてたことは、知らない振りをしてあげるね。









******











ーーーーコンコン。


それからまもなく、病室のドアがノックされた。


「あ。どーぞー。」


(看護師さんかな‥‥‥??)


司は今この場におらず、起きていたつくしが反応した。


ーーーーガラララ。


「失礼。」


乱暴にでも遠慮がちにでもなく、ただ普通に音をならしてドアが開く。

「‥‥‥!!」

あたしはその人物にびっくりして固まってしまった。



「道明寺のお母さん‥‥‥。」



独り言のように呟いたあたし。



「‥‥‥お久し振りね。」



何で、こんな所に居るんだろう。

まさか又、なにかしに来たの‥‥‥?




ーーーーすると、楓がフッと笑みをこぼした。


「そんな顔なさらなくても、別にあなたに用があって来たわけではありません。」


そう言われて始めて、自分のひきつった表情に気付いた。


「ここ、あたしの病室ですけど‥‥‥?」


でも、気付いたところですぐに治せるものでもない。


「あなたに用は無いのですが、あなたからじゃ話を聞かないバカな息子のせいでね。」


「道明寺‥‥ですか?」


一体、何の話‥‥‥‥?


「‥‥‥‥刺されたんですって?」


楓はベッドに横たわるつくしにチラッと目を向ける。


「何で、その事を‥‥‥。」

「それはあなたは知らなくていいことよ。」

「‥‥‥‥‥はぁ。」

何が言いたいんだろうか?

つくしは楓の要領を得ない会話に困惑した。



「記者会見は中止になりました。」

「‥‥‥きしゃっ??」

「本当は、あの日にすべて公にする覚悟でいたのですけれど、こんなことになってはそれどころでは無いですから。」

「あ、あのう?さっきから何の話を‥‥‥??」


左手を額に当てた楓はわざとらしくため息をつく。


「‥‥‥本当に、頭の悪い人ね。」

「まあ、記者会見は今回は中止になりましたが、数年後には必ず行いますのであなたもそれなりの覚悟と準備をしておくことね。」


「‥‥‥‥‥。」


「それを、バカな息子にも伝えて頂けると助かるわ。」



「ーーーーそれでは。」




一方的に、自分の言いたい事だけを言って病室を後にしようとする楓。


「‥‥まっ、待って下さい!」


頭の中が混乱しながらも、つくしはすんでの所で楓を引き留めた。




ーーーー意味は良くわからないけど、これだけは聞きたい。




「‥‥それはっ、あたし達二人の事を認めてくださると言うことですかっ!?」






必死だった。



簡単にYES が返って来るなんて思っちゃいないけど、僅かな期待を乗せた言葉を、夢中で発した。






「‥‥‥‥‥。」


「‥‥‥‥‥。」


流れる沈黙の時。


歩みは止めたらものの、振り返ってはくれない楓。





「私の、意思は‥‥‥」




楓は、つくしに背を向けたまま静かに話出す。







"ごくり"





思わず唾をのむつくし。










「そこのテーブルに置いてあるものと同じです。」










あっさりそう言うと、本当に一度も振り返らないまま楓は病室を静かに出て行った。








ーーーー白い封筒には、たった一枚の手紙が入っていた。









"司を宜しくお願いします。"





            道明寺。










その一言だけ書いて。
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