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記憶喪失物語。#29

ーーーーガラッ!


「牧野わりぃ、ちょっと遅くなっちま‥‥‥っ、」


「!?」


「お、おい!どうした!?」









総二郎からの着信があった俺は『病室で通話するな!』という牧野の言いつけ通り、外に出て話していた。


でも、いつまでも牧野を一人にさせられねえから、話を早々に切り上げて病室に戻って来たわけだ。


俺がここを離れてからは、せいぜい20分もしねえくらい。


なのに戻ってきて最初に見た牧野の表情は‥‥‥


ジッと手元を見て固まっていた。


「おい、牧野?」


俺に気づいてんのかどうかもわかんねえ牧野に声を掛ける。


目線はずっと下を向いたままな牧野が、口を開いた。


「‥‥‥ねえ、道明寺。」


なんだよ。気づいてんじゃねーか。


「あたし、あたしね‥‥‥。」


「今、人生で、一番幸せかもしれないよ。」





「‥‥‥‥‥はっ?」




何を言ってんだこの女は。

人生で、一番幸せだ?

それは‥‥俺が記憶戻ったからって事か?




ーーーーにしては、タイミングが遅すぎるよな。




「‥‥何が、幸せだって?」


意味が分からなくてストレートに聞いた俺。


牧野はベッドに腰かけたまま、こっち向いて綺麗に三つ折りされた紙をこちらに寄越した。

「なんだ?これ‥‥‥?」

静かな病室に、カサリと音がなる。











「‥‥‥っえ?」


あまりにも読みごたえの無い文章。

きっと1秒足らずで読み終わった。

でも、理解するのに数十秒はかかったと思う。

いや、今もまだ完全に理解出来ているのかどうかさえ自信がねえ。



たった、一行の文。



今までが今までなだけに、何か裏があるのではと疑ってしまうのも仕方がない事なんじゃないか?


書かれている内容にただただ呆気にとられて。

何が本当で、何が嘘なのか。

目の前のお人好しは疑う事を知らねーから、俺が守ってやんなきゃいけねえ。

でも、良かったなとかこれに騙されるなとか俺はどっちも言えずにいた。





目の前の牧野はずっと泣きながら嬉しそうに笑っていて。

嘘でも何でも、笑っていられるならそれでいいんじゃないか?

類の能天気が移ったみてーに、ぼんやりとそう思った。


「さっきね‥‥‥あんたのお母さんが来たよ。」

「‥‥ババァが?」

「うん。すぐ帰っちゃったけどね。」

「‥‥何かされたんか!?大丈夫かお前!?」


過去の嫌な思い出が一気に甦る。



ーーーークソッ!何で、よりにもよって俺の居ない時に!!





「‥‥大丈夫だよ。なんにもされてないもん。」

「嘘つけ!あのババアのことだ、一旦油断させて何か企んでんだろ!?」

「大袈裟だよ‥‥。」

「それに、そんなこと言っちゃ道明寺のお母さんが可哀想だよ。」

「かわいそう!?あのババアがか!?」


「‥‥‥うん。」


「あのね、道明寺?」


首を傾げて静かに伺われた。

興奮しきってた俺は、淡々と話す牧野に調子が狂う。


「‥‥何だ。」

「やっぱり、血は争えないんだよ。」

「‥‥‥意味がわかんねえ。」

「ふふっ、ごめん。そうだよね。」

「‥‥‥でも、あたしから見たら、あんたとあの人は凄く良く似てるよ?」

「‥‥‥‥?」


ーーーー全然嬉しくねえ。


「プライドが高くて、素直じゃなくて、傲慢な所がね。」


「‥‥‥喧嘩うってんのか。」


「あとはね‥‥‥。」


ピキッと青筋立てた俺にはまるっきり無反応で、鈍い女は喋り続けた。



「きっと、不器用で。誰よりも純粋で一途。」


「純粋って、お前な‥‥‥。」


ババアが純粋なら世界中の人類みんな純粋じゃねーか。


あまりにもミスマッチで、想像すらつかない。


牧野の突拍子ない発想に思わず鼻で笑った。



「やり方は間違ったかもしれないけど、過去の事も‥‥‥ただ必死にあんたの事を。家を守りたかっただけなんだと思う。」

「あんたに恨まれずにやる方法なんて、いくらでもあったはずだよ?」


至って真剣な牧野の瞳に、喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。


「例えば‥‥、」

「あのまま、あたし達が付き合うのを放任して、別れるのを待つことだって出来た。」

「んなことあるわけ‥‥!!」

「‥‥例えばだよ。」

「それにわざわざ、あのタイミングで滋さんとお見合いさせても反発するのは分かりきってた事じゃない。」


そうだ、あれは牧野を紹介したすぐ後だった。


「わざわざ、憎まれ役を買って出てくれてたんじゃない?」

「道明寺財閥を背負って立つあんたに、傷をつけないように。」

「‥‥‥所詮、財閥の為だろ。」

「それも、もちろんあるだろうね。」

「でも、政略結婚が当たり前のあんた達の世界ではどうにもならないルール。」

「傷は浅い方が良いと思ってたのかもよ?」





「例え‥‥‥あんたに恨まれても。」








「‥‥‥あり得ねえだろ。」

「そうだね。これはあくまでもあたしの想像。」

「‥‥‥あんな目にあって、おめでた過ぎんだろ。お前。」

「あははっ、そうかもね!」



ーーーーニコッと笑った牧野。


絶対にあり得ねえとは思うのに。


そんな顔で言われたら本当にそうなんじゃないかって気になってくる。


ーーーーああ。


本当に俺はこいつにイカれてる。







「そういや電話、もう大丈夫なの?」


話はもう終わりだと言わんばかりに、話題を変えてきた牧野。


「‥‥あぁ。お前と居る時間削られちゃたまんねえから、さっさと終わらせて来た。」


しょうがねえから、俺も乗っかってやった。



「あのね‥‥‥‥‥そういう事、真顔で言わないでくれる?」

「本当のことだろ。へらへら笑って言えってーのか?」

「いや‥‥、それはそれで気持ち悪い。」

「気持ち悪い!?この男前捕まえてなに抜かす!」

「だから‥‥‥普通は自分でそうゆうことは言わないのよ!」

「ケッ、僻みかよ。」

「違うわ、ドアホ!!」




ーーーーいつものようにくだらない話。

こんな何気ないやりとりで、やっとこいつが俺の元に帰って来たんだと実感する。







「まぁでも、お前の妄想、案外間違いじゃねえかも。」



「‥‥‥どうゆう事??」

「俺も今さっき、総二郎から聞いたんだけどよ。」

「うん?」

「お前が刺された時、すぐ犯人捕まったんだよ。」

「へー。そうなんだ‥‥‥。」


だから何だと言いたそうな牧野の顔。

自分が刺された癖に、他人事みたいに聞きやがって。


「でもよ、あの場に俺たち以外居なかったよな?」

「なのに、何ですぐ捕まったと思う?」

「あっ、そう言えば‥‥」




ーーーー何で?って顔してる牧野。



‥‥‥‥‥せーぜー驚きやがれ。





「あれな‥‥ババアの仕業だった。」

「っええええ!?」


目ぇ見開いて驚いてる牧野。

そうだ、その顔が見たかったんだ。


「‥‥驚くだろ?」

「何であんたのお母さんが‥‥!」

「あっ、でもそうか!」

「あんたについてるSP居るもんね!」

「‥‥俺じゃねーよ。」


ーーーーこの俺が、黙ってSP張り付かせてる訳ねえだろ。


「へっ?じゃ、誰が‥‥。」

「お前付きのSPだよ。」

「んなわけないで‥‥!」






ーーーーガラッ!!!!




勢い良く開けられたドア。


会話は中断されて、二人は入り口に注目した。








「司‥‥‥‥酷くない?俺が気づいたのに。」
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