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ライオン #2

(次期)新入社員のあたし達4人は、副社長の鋭い目をみて、蛇ににらまれたカエルのように固まってしまった。

‥‥‥‥まぁ、あたしだけは他の3人とは少し違う意味で固まっているんだけど、それは内緒だ。

正解に言うと、あたしのせいで皆が巻き添えくってます。

ごめんなさい。

っつーか、あたしも何にも悪くないんだけどね‥‥‥。

しかし、そこは思い込んだら一直線。

本能のままに生きる彼には、悲しい程あたしの意見なんて通った試しが無い。

そう、例えば。

大学の授業で、たまたまあたしの周りの席に前後左右に男が座れば

突然居合わせた彼に。

『他の男といちゃいちゃしてんじゃねぇ!!』

と怒鳴られた。

もう意味がわからない。

だって、知り合いならいざ知らず、全員顔も覚えてない赤の他人だよ!?

そりゃ大学は高校と違って一般市民の生徒も多いから友達は少し出来たけどさ。

それでもあんたの言い付けによって、

『SP 並みに終始張り付いてるF3のせいで、F3以外男の知り合いすら居ないのに何を心配するのよッ!!』

って叫んだけど、やっぱり通じなくって。

しまいには、その男子生徒数名の学年をかえるとか言い出して(季節外れの留年?)頑張って機嫌とって必死で止めさせた。

そのお陰で、これ幸いとばかりに恥ずかしいこともいっぱい言わされてしまったけど‥‥‥‥。

それ以来、あたしの指定席は囲まれる心配のない一番後ろの端っこだ。

まぁ、退学させられそうになった過去を思い出すとこれでもマシになったのだろうか?




『‥‥‥さい。まきのさん。』

いつの間にやらそんな懐かしい思い出にふけっていたあたし。

全然聞いてなかったけど、確かに誰かに呼ばれた。

いけない。

今はミーティング中だった!

「はっ、はいいいぃっ」


"ガッターン!!!!"



(ヤバい、怒られるっ!?)


びくっとして動揺してしまったあたしは大きな声と共に思わず立ち上がり、勢いよく立ち上がったせいで椅子も勢いよくこけた。


ぎゅっと目を瞑ってお叱りを待っていたのだけれど、






「‥‥‥‥‥‥?」


(‥‥‥‥‥あれ?何も言われない?)

そろ~っと片目を開けて様子を伺うと、皆あたしの方なんか見ちゃいない。

皆は何故か呆けた顔をしていて。

静まりかえった会議室で冷静になると何だか自分の行動が恥ずかしくなってきて。

あれ?でも確かに呼ばれたよね?

なんて、1人で赤くなったり青くなったり頭をひねってみたりしてると、聞き慣れた声がエコー付きで会議室に響き渡った。

『繰り返す。そこで1人百面相をしている女。直ちに、副社長室に来い。秘書を迎えにやるから急いで来い。』


"ブチッ"


"ぴんぽんぱんぽん♪♪"







館内放送が、恐らくビル中に響き渡ったあと。

乱暴に切られたマイクの音と、軽快な機械音で締め括られた。



*******


痛い。


痛い痛い痛い痛い痛い!!





さっきから視線が痛いんだよバカヤロー!!

呆然とした会議室で『牧野さん。』とやらは誰なんだと、皆が当てもなく『牧野さん。』とぶつぶつ言いながらきょろきょろと探し出した。

ーーーーヤバい!

なんてったって、今日のあたし(次期新入社員)には、デカでかと名前が彫られたネームプレートが左襟についている。

咄嗟に、皆の視線から逃れるように背中を向けた。

まだ会議室は混乱していたから、この隙に一時避難しようとドアに自然に近づいていった。

(と、取りあえずお手洗いに行くふりでもして‥‥‥‥)



"コンコン、ガチャリ。"


ーーーーノックの意味、ありますか?


そのくらい早く、あともう少しというところで、あたしが開けるハズのドアがひとりでに開いた。

‥‥‥‥‥‥のではなく。

「おや、牧野様。すいません、私としたことが。これでも早くお迎えに上がったつもりでしたが。」


「‥‥‥‥そんなに待ちきれなかったのですね?」


冗談が似合わない秘書、西田が。


とっても似合う皮肉混じりのジョークをこれまた似合わないとびきりの笑顔でそう言った。





そんなこんなで、今に至る。

誰もが知る副社長の秘書、西田に連れられて、会議室から最上階の副社長室まで居合わせた全ての社員の好奇の目に晒された。

むしろ、廊下を覗いている人も居た。


(仕事しろっ!仕事!!)


まだ見ぬ先輩社員に心の中で毒づきながら、ようやくたどり着いた副社長室。

"コン、コン。"

西田さんが2回ノックをしてから、一拍置いて。


ーーーーなんだ、ノックの仕方知ってるんじゃないですか。


「副社長。牧野様をお連れしました。」

「入れ。」

簡潔な返事が返ってきて、促された。


そして、



足を踏み入れたは‥‥‥副社長室。







******







何であたし、ここにいるんだっけ?



思わず首を捻って考える。

腰には男の腕が巻き付いて‥‥‥

目の前には西田さんが無表情で今日のスケジュールを読み上げている。

ついでに目線を下げれば書類の山。

そしてここは副社長室。

いつからあたしは副社長になったんだっけ?




じゃなくてっ‥‥‥‥!!!!









「道明寺ッ!!」

「あ?」

「『あ?』じゃない!この腕!!放しなさいっての!」

「なんで。」

「恥ずかしいでしょ!早く放して!」

「やだね。」

「やだじゃないっ!あたしのがイヤだ!」

「おい!暴れんなって。」

何故か、副社長室の椅子on道明寺‥‥‥の、膝onのあたし。

つまり‥‥‥椅子に座った道明寺に抱っこされている状態だ。

しかもそれを人に見られるなんてっ!

ぅう‥‥‥っ、恥ずかしすぎて死ねるッ!!



あたしと道明寺は暴れに暴れて、高そうな椅子はくるくると回っている。

そのうち目が回って来たあたし達。

「強情な女め‥‥」

ハァッ、ハァッ‥‥

「あんたが恥ずかしいことするからでしょっ!」

はぁっ、はあっ‥‥‥

精一杯暴れたあたしに、道明寺が根負けした。







"ブハッ"

吹き出した音に反射的にその方向を向くと、無表情男の背中。

‥‥‥しかもなんかちょっと震えてるし。

「副社長。この後は15時より会食が入っておりますので、それまでにお戻り下さい。」

震えた背中を向けたまま、声は至って普通で。

「ぉお。」

副社長様の返事を聞くなり、最後はこちらをむいて、ぺこりとお辞儀して出ていった。



ってか‥‥‥!!

「あたし、ミーティングの途中!」

「気にすんな。」

「するわっ!」

「ん?今から戻れんのか?」

(うう"っ)

にやにやしてる道明寺。

(こいつ、最初からわかってて‥‥!)

「ちくしょう~」

してやられたあたしは悔しくて悔しくて、顔を真っ赤にして涙目でギリギリと道明寺を睨み付けてやった。

のに。

「おまっ、んな可愛い顔ここですんな!」

ボフッ

「ぎゃっ!!」

何故か顔を真っ赤にした道明寺に、ソファーにあったクッションを投げつけられた。
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