fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

ライオン #4

「ほんと、うまそーに食うよなあ。」

「‥‥‥ふん?」




結局、拉致るようにして牧野を部屋から連れ出した。

何年経っても、何でもかんでも旨そうに食う牧野。

その姿が可愛くて、ついいつも見惚れちまってたけど‥‥‥コレって、俺が美味いもの食わせてやってねえみてぇじゃねえ?

いや、でも可愛いからそのままでいいのか?

なんて俺がそんな事を一人で考えていると、視線に気がついた牧野と目が合う。

口の中がいっぱいで喋れないこいつは、目線で『何?』と訴えかけてくる。

ーーーー小首なんか傾げやがって。

ーーーーゼッテーわざとだろ。コイツ。

そう思いつつも、ハムスターみたいに食ってる姿がかわいくて仕方ない。

「ふぁ、ふぉうひえふぁふぁ!」

ハムスターは何かを思い出したように俺に視線を向けた。

「あ?ガキかお前は。何言ってっかわかんねーよ。口にもの詰め込んだまま喋んな。」

「!!」



"もぐもぐもぐもぐ‥‥"

"ごくんッ!"

俺に突っ込まれた牧野は顔を真っ赤にして、一生懸命口を動かして飲み込んだ。


ーーーーあ"あああああああッ!!


可愛すぎんだろ!!?


「えへへ。ごめんごめん。」

やっと普通に喋れるようになった牧野は、照れくさそうに頭を掻いた。

「‥‥‥反則だろ。」

「‥‥‥は?何言ってんのあんた?」

意味がわからないと言わんばかりにクエスチョンマークを飛ばす牧野。





ーーーーホント鈍いっつーか、自分をわかってないッつーか‥‥‥。

この気持ちの置き場がなくて、ため息とともに吐き出した。




「何でもねーよ。ただ‥‥‥」

「??」

「まだ、口についてんぞ。」

右手の親指で、向かい側に座る牧野の口についてたソースを拭ってやる。

「甘ぇーな‥‥コレ。」

カラメルの味がするそれを、そのままペロリと舐めあげた。



「‥‥‥っ、バカ!やらしい顔でそんな事しないで!!」

「は?どこがやらしーんだよ?普通だろ。」

「全部よ全部ッ!!」

何故かまた顔を真っ赤にした牧野。

今度は俺がクエスチョンマークを飛ばした。



******




「‥‥‥牧野様は、逸材かも知れませんね。」

「‥‥‥どうしてそう思うのかしら?」

「そう、思わざるを得ないというか‥‥」

「?」

「牧野様は‥‥‥失礼かとは思いますが、充分な教養や勉学を受けられる家庭環境でなかったはずです。」

「‥‥‥失礼もなにも、それが事実ね。」

「両親に強制的に押しきられたと言えど、そう簡単に日本屈指の英徳学園に入れるものではありませんよね
?」

「‥‥‥‥そうね。」

簡単に入れないからこその名門・英徳学園だ。英徳の生徒は、両親が資産家であり毎月一定の寄付金を納めることができる家庭の者が9割以上で、それ以外はよっぽど高い水準の偏差値を持ち合わせた者でなければならない。

そうでなければ、将来を担う若者がゴロゴロ通う英徳学園の生徒は守れないからだ。

そんななか、年に数名ポンっと入学してきては、卒業にまで至るのはさらに僅かだ。

やはり、世界観が違い過ぎてついて行けないのが大きな割合を占めているのだろう。

「そんな事より、西田。あの件は‥‥」

女はチラッと一瞥をくれた。

「はっ、滞りなく進んでおります。」

「ならいいわ。下がって頂戴。」

「失礼しました。」

"‥‥‥バタン。"

西田が出て行ったあと、社長と呼ばれる彼女はある資料を眺めながら珈琲を飲んでいた。

『新年度・新入社員の個人データ』

もちろんそこにはつくしの分も含めた、ありとあらゆるデータが一人一枚ずつ簡潔に綴られていた。

今年の合格者は10名。

前年度に比べて異様に少ない。

一枚一枚ゆっくりとページを捲っていた楓だが、最後の一枚に差し掛かり食い入るように見つめた。

「全く‥‥‥一体誰に似たのかしら、このお嬢さんは。」


ーーーーフッ、と笑った。







       牧野つくし



小・中学校と公立学校に通うも英徳学園高等部に首席で合格。

だが、入学時の挨拶は2番目の富岡商事の息子が行ったのでこのことはあまり誰にも知られていない。

その後、一度は就職活動するものの、高等部卒業後は内部の英徳大学にやはり首席合格。

入社試験もトップ合格。

面接官の印象は「非常にしっかりとしていて、常に笑顔で人当たりがとてつもなく良い。是非とも営業部に欲しい。」

「最近の若者にしては、自分の考えをぶれる事なく表現できる人間。かといって押し付けがましいわけではなく、柔軟性も持ち合わせている。あの明るい性格を生かす為に宿泊部門に欲しいが、彼女ならどこでもやって行けると思う。」

「間違いなく天才です。採って損は無いと思います。こんな人間が欲しかった。」

悪いことは1つも書かれていない。それ以降も大絶賛の嵐だ。


「あら‥‥‥?」


よく見ると、右下に手書きの文字が添えられていて目を凝らして見た。


(以前目を通した時には無かったような‥‥。)


「秘書課希望。」


「!!」


そこには本当にその一言だけ添えられていて。

イタズラのように書かれたそれは、署名もなかった。







誰が、書いたかなんて分かりきっている。

ただ、トップシークレットのこの資料をいつ見たのか?

普段は厳重に保管されているはずだし、そもそも採用者が決まったのは最近で。コレが書かれた時には受かるかどうかもわからないはずなのに。

「秘書課希望。」

再び手書きの文字を見る。

「‥‥‥‥。」

(そう言うこと‥‥‥?)

自然と頬が緩んだ。

「あの子が、自分の傍に居ることを信じて疑わないのね‥‥?」

合格者が決まっていなくても、当然のように受かることを前提とした言葉。

合格させてくれでもなく、合格したら自分の元に来て欲しいと、短冊のように書かれたささやかな願い。

配属先は、本人の希望と社長の独断によって決定される。

口で言えば良いものを、見るかどうか分からないものに書いて。

彼女の意志を尊重したいのと、自分の欲求がぶつかりあった結果がコレなのだろうか?

まるで子供の賭け事のような。

「‥‥‥らしくないことするわ。」

いつまで経っても我を貫き通す我が儘な子供だと思っていた。

彼女の意志をほんの少し尊重しているあたり、本人も少しばかりは成長したのだろうか。

息子のビジネス以外の成長を見てとった楓は、嬉しさと寂しさがないまぜになった複雑な感情を抱いた。



******




「‥‥と、いうことだ。」

「あああ、あの?もっかい言ってくれない?」

道明寺が言った言葉が信じられなくてもう一回頼んだ。

「‥‥‥‥これでもう3回目だぜ?」

はあああ~~~~っと大きくため息をついた道明寺。

「~~~~だってッ!!!!」

「いきなり新入社員の挨拶しろとか言われても出来る訳ないじゃんッ!」

「いきなりじゃねぇよ。入社式にすんだからまだ時間はたっぷりあんだろ。」

「それにそんな嫌なら、手加減して受ければよかったんだ。」

ーーーーそんな、そんなこと言われてもさあっ!

「手加減したら落ちちゃうじゃん!」

「‥‥‥‥お前は、ほんとアホだな。」

呆れたようにあたしを見た道明寺。そのあとわざとらしく頭を垂れた。

「溜め息つくなッ!」

「‥‥‥‥‥‥いいか?」

頭をあげた道明寺が、真剣な瞳でこっちを見る。

やっぱり、いつになってもその視線にドキドキしてしまう。

「‥‥‥‥‥良くない。」

「いい加減諦めろ。入社試験で一番良い成績取っちまったお前はそーゆー運命だ。」

「ぜえったい嘘だ!皆してあたしを騙そうったってそうは行かないんだから!ドッキリ仕掛けてるんでしょ!」

「あのなぁ‥‥‥。」

「まぁ、新入社員は10人でも道明寺グループ全体集めての壮大な式だからな。お前みたいなパンピーは緊張感しちまうわな。」

ハンッ、と笑い飛ばした道明寺。

「そうよッ!あんたみたいなバカは緊張しないかもだけど、普通の人は億単位の人間集められたらガチガチに緊張してどうしようもなくなっちゃうんだからね!!」

「‥‥‥おいこら、どさくさに紛れてなんつった?」

「え?バカ?」

つくしはなんの躊躇いもなく復唱した。すると案の定、司はピキッと青筋を立てた。

「てっめぇ‥‥‥。あんまり調子乗ってっと本社の前で濃い~キスしてやっからな。」

「なっ、なに考えてんのよあんたは!」

「ん?それか、入社式で俺の婚約者だって紹介したほうがいいか?」

「お前も緊張とやらをしなくて済むし、他の男への牽制になるから俺にはちょうど良いしな。」



ーーーーにやにや笑って言ってるけど、この目は本気だ。


ーーーーこの男はやる。


ーーーー絶っ対、やる。





「‥‥‥‥‥‥新入社員の挨拶、喜んでお引き受けいたします。」

「よろしい。」

ぺこりと頭を下げたつくしに司は満足そうに頷く。

珍しく、司がつくしに勝った瞬間だった。
スポンサーサイト



2 comments

非公開コメント

0 trackbacks

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)