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ライオン #6

「では次、‥‥‥牧野さん。」

「当社の志望動機は何ですか?」

「はい、私は‥‥‥











あたしが道明寺グループを受けると知ったら皆にびっくりされた。



「あ。あたし、このあと面接あるんだ。」

英徳大学のカフェテリア。高校生の分際で通い続けたこの場所は、大学生と社会人になった今でもたまに、あたし達の溜まり場のひとつとなっている。

「これ、あたしの分ね。」

「おいおい‥‥‥最近、毎週面接受けてねえ?お前。」

「4回になったんだから、去年より多少の余裕はあるはずだろ?なんでそんな忙しないんだお前は。」

「牧野‥‥‥そんなに面接落ちてるなら、花沢で雇ってあげようか?」

普段なら嬉しいはずの、類の気遣い。

だが今日この時ばかりは、ちっとも嬉しくなかった。

「あのね‥‥‥‥悪いけど、世間一般の大学生4回生は講義が少なくなるぶん就職活動で忙しいし、まだ心配されるほど面接も落ちてないから大丈夫よっ。」

「「「‥‥へぇ~。勉強になった。」」」





棒読み。


ーーーーほんとに思ってんのかよ?


「‥‥‥‥ん?落ちてないのは嘘だろ?この間も面接いってなかったっけか。」

「チ・ガ・ウ!この間のは筆記試験よっ!」

「そっか。何回かあるんだな。」

納得したように頷いた美作さん。

「まっ、家業継ぐあんた達は知らなくても無理はないわよね。」

ーーーー血の繋がった子供に面接は不必要極まりない。

ましてやこのお坊っちゃま軍団に限っては、万が一面接する側になることはあっても、される事は一生無いんだろう。


「でも、落ちてないんなら相当長いよな。その試験。」

「2、3ヶ月はやってるだろ。ソコ、よっぽどデカイ会社なのか?」

「う~ん。確かにでかいね。日本一かも。」

「‥‥‥日本一?ばかかお前、道明寺よりでかい会社なんてあるわけねーだろ。彼氏の家忘れんな。司が怒り狂うぞ。」

「なんであたしがアイツに怒られなきゃなんないのよ!」

「ってか‥‥その日本一だって言ってんじゃないっ!さっきから!」

「「‥‥はっ?」」

「~~~だから!あたしは道明寺受けてる最中なのよっ!!」

「‥‥‥まぁどうせ落ちちゃうと思うんだけど、やっぱりやれるところまでやってみたいしさ。」

「‥‥‥ん?あははっ!皆して同じ顔してるよ!」




「「「‥‥‥‥‥‥‥‥。」」」





沈黙。








「「っはああああああ~~!?」」



ーーーー我にかえった二人分のハモリと。









「牧野。」



ーーーージッと見つめてくる類。



「司に、マインドコントロールでもされたの?」




ーーーー心配そうな焦げ茶の瞳。


(この、テレビっ子めっ!!)


いつもなら嬉しいはずの、類の気遣い。

だが今日この時‥‥(以下略。)











******



「こっち向けよ。」

「‥‥‥‥‥‥。」


無視


「いい加減、機嫌治せって。もうどうしようもねーだろ?」

「‥‥‥そんなの、聞いてないもん。そんなこと、知らなかったもん。」

「俺だって知らんかったっつーの。」

「そそ、それにだな、どうせお前は遅かれ早かれ邸に‥‥‥」

ごにょごにょごにょ‥‥。



ーーーー司の頬がポッと赤く染まった。

「‥‥えっ?なに?聞こえないッ!」

「‥‥‥っ!取り合えずもう決定事項なんだよ!腹括れ!」

「だって‥‥‥‥‥無理だもん。」

「無理もクソもあるかっ!これは俺の個人的なもんじゃなくて、会社の方針なんだよっ!」

(まぁ、俺個人としても、願ったり叶ったりなんだけど‥‥。)

「そんな無茶苦茶な方針聞いた事ないわよっ!」

「それにあたし、4月から独り暮らしするんだもん!」

「!?」

「ちょっと待て。俺、それ聞いてねえぞ!?」

ーーーーいきなり何を言い出すこの女ッ!!

司は初めて聞かされた衝撃の事実にこれ以上ないくらい驚いた。

「何でそんな大事なこと、俺に言わねんだッ!!」




ーーーー司の一喝で、一瞬でピリリとした空気が走る。






「‥‥‥‥‥‥‥だって、だってさ。」

「あんたに言ったら絶対反対するじゃん。」

「‥‥‥‥。」

「だからあたし、早く決めちゃってから言おうと思ってて‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」

「あんたが、心配してくれてるのはわかってる。でもあたしは、あんたが居なくちゃ‥‥‥あんたに聞かなきゃ何も決められない女にはなりたくないの。」

「‥‥‥‥。」



項垂れた、頭。



ーーーー牧野の膝に置いてある握りしめた小さな拳が、微かに震えているのが見えた。










「もう、決まったんか?」

「‥‥‥‥えっ?」

身体を強張らせていたつくしの頭が、弾かれたように司を見上げた。

「もう部屋は決まったのかって聞いてんだよ。」

「え?‥‥‥あ、部屋?」

「え、えっと‥‥‥、探してる最中なんだけど、実はまだ決まってなくて‥‥。」

「そっか。」

「‥‥‥‥‥‥あの、道明寺?」

「‥‥‥んだよ。」

「‥‥‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥‥‥。」

沈黙。

「怒らないの?」

「怒って欲しいならそーすっけど。」

「い、いや、いいっす。」

司の横顔の口元がにやっと笑ったのが見え、青ざめたつくしは直ぐ様拒否した。


が。



ーーーーって、あれっ?


‥‥‥‥‥あれれれれ?


これって‥‥‥‥?



「い、いいの?独り暮らしして。」

「止めろ、つったらやめんのか。」

「‥‥‥‥‥やめない。」

「じゃあ聞くんじゃねえよ。」

「‥‥‥‥‥‥‥うん。ごめん。」


前を見据えて、こっちを向かない道明寺。




意外にあっさりとした答えと態度で、アレほどびくびく構えてたのが馬鹿みたいに思えてきた。





「‥‥‥なんか、変わったね。」

心の底から素直に出てきた。

「は?何が?」

こっちを振り向いた道明寺は、眉間に皺をよせている。

「ううん、なんでも。」

どんどんイイ男になる道明寺が嬉しくて、誇らしくて。

「何笑ってんだよ、気持ちわりぃ奴っ!」

自然に笑顔になった。

「‥‥‥ちょっとね♪」

「??‥‥ますます意味がわかんねーよ。」

「気にしない、気にしない!」





「‥‥‥なぁ、今日ウチに来いよ。」

「え?うん、わかった。」

「‥‥‥‥今日は、やたら素直じゃねーか。」

「そう?」

「おう。」





「‥‥‥すっげえ、可愛い。」

「!!」



溶けてしまいそうな優しい微笑み。この極上の笑顔を向けられて、恋に落ちない女性が居たら是非ともお目にかかりたい。



「なっ、何言って‥‥!」

「いちいち照れんな。ゆでダコ。」

「うっ、うるさいなあッ!」

"バコッ!"

「イテッ!いちいち殴んなッ!」

「アンタがそうさせてんのよッ!」


"ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ"


いつも賑やかな車内。


"パシッ!"


ーーーー尚も暴れ続けるつくしの腕を捕まえた。

「きゃ‥‥!」

そのまま自分の方に腕ごと引き寄せる。

「なあ。」

「ちょっ、と!何すん‥‥!」

逃れようと精一杯暴れるが、ついに長い腕に抱き込まれてしまう。




「‥‥‥‥‥今晩、泊まってけよ。」


悪魔の囁きが、きこえた。
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