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記憶喪失物語。#4

一瞬、動きがとまった。

大きな瞳を更に見開いて。

それまでバタバタと動き回っていたのが嘘のように大人しくなった。

「‥‥‥っえ?」

聞き慣れた声に確信はあるものの、確かめるのが怖い。

「てめえ、さっきからうるっせえ
んだよ!!朝っぱらから喚いてんじゃねえ、ボケ!!」

そんなつくしの気持ちなど知らない司は言いたい放題だ。


バァーン!!!!


何を言おうかと、つくしが頭を巡らせているとドアが壊れるんじゃないかというくらい大きな音をたてて
開いた。


「つっくっしっちゃ~~ん」

「おっ、お姉さ‥‥‥‥!」

ぎゅううううっ






とびきりの笑顔でつくしを抱き締めること数十秒

く、苦しいっ!!

し、死んでしまうっ!!!

「あらやだっ、ごめんなさい。また私ったらっ!」


つくしの体の力が抜けているのにきづき、椿は慌てて手を離す。


「い、いえ‥‥」

ゲホゴホ

「つくしちゃんっ!」

「はいっ!?」

「ごめんね、ごめんね。」

「?」

「あ、大丈夫ですよ!滋さんもおんなじ事するんで慣れてますからっ。」

つくしは、さっきの激しい抱擁だと思ってそう答えた。

「‥‥‥そう?」

「はいっ!」

何故か、本当に申し訳なさそうなお姉さん。

‥‥‥‥どうしちゃったの?

「お姉さん、あの、」

「そうと決まれば善は急げよっ!」

!!?

善ってなに!!

「おおお、おねっ」

「さっ、こっちよ。もうお姉さん夢みた~い」

体の次は右手首をむぎゅっと捕まれて、嵐のように現れた椿に、嵐に飲み込まれて行ったつくしであった。




















なにが、何だか‥‥‥

嵐の次の目的地はリムジンの中。

相変わらず人の話しを聞かない椿お姉さん。

リムジンの中には他にも人が居て、
なにやら真剣な話しをしている。

時折、ちょっと奇抜な格好をしているおばさんがちらちらこっちを見ているがつくしは気がつかない。

「ねえねえ、つくしちゃんは青い薔薇と赤い薔薇どっちが好き?」

「は、バラ‥‥ですか?」

「ええ!」

にっこりと満面の笑みで答える椿。

「うぅ~ん‥‥。」

「え、やだ、つくしちゃん薔薇嫌いだった!?」

「いえいえいえ、嫌いとかそういうことでは決して無いんですけれど。」

ぶんぶんぶんっと両手と頭を振る。

「‥‥けど?」

「~~何て言うんですかね。嫌いと言うよりは、ピンと来ないって言うか、、、馴染みがないと言うか。道明寺家のイメージなら凄くしっくりくるんですけどね~。」

「何だそんな事!」

「あのね、つくしちゃん。」

「はい?」

「人間なんか、所詮おんなじ様に生まれておんなじ様に死んで行くんだから、道明寺家に出来て他の人に出来ない事なんてないと思わない!?」

‥‥‥‥一杯、いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい、いっぱい、い~~っぱい、あると思います。お姉さん。

「はぁ‥‥‥」

しかし、口に出して言うことは叶わなかった。

「そりゃあ、私達みたいな家で育った人達は、生活面では苦労知らずで生きて来たかも知れない。」

「!」

心の中を読まれたのかと、ドキッとしてしまった。

「でもこれでも、この家柄だったからこそ大変だったこともあるのよ。」

いつかお姉さんが話してくれた小さな恋の悲しい結末。

そうだった。

羨ましいなんて思ったことはないけど、お金持ちの人にもそれなりの苦労はある。










道明寺にも。









あの魔女にさえも。




人間なんて所詮皆おんなじかもしれない。










「だからね、つくしちゃん。」


真面目な顔をしたお姉さんの美貌にうっかり見惚れてしまいそうだ。


「司を」


途端につくしの眉が不安気に動いた。


「もう一度」


目線が足元に落ちて、視線が泳ぐ。


「救ってやって欲しい。」


一瞬つくしと目があった椿はそれを見逃さず、目線をしっかりと合わせてそう言った。



*****




「あの、ここは‥‥?」




「うちの母が経営してるホテルなの。」


(そんな事は知っています‥‥)





リムジンが着いた先はメープルホテル。

こんなところでなにをしようと言うのか。

「あっ、もしかして母が何かするんじゃないかって思ってる?」

「いやいや、そうでなくてですね‥‥‥」

(ていうか、もうなにかされる理由もないし‥‥)

何かあったら、それはただのイジメだし。

親子二代に渡ってイジメられるあたしってどうよ?

まあ、どっちにも負けてやんないけど。

フッと鼻をならした。

「あの、お客様‥‥‥」

声をかけられて顔をあげると気まずそうなボーイさんが一名。

「椿さまがお部屋でお待ちです。」

「あっ、はいっ!」

いつの間にか1人でスタスタいってしまっていた椿をボーイさんに案内してもらって慌てて追いかけた 。

追いかけながら思った。



本当、何なんだろうあたしの人生。


よくもまあ、次から次へと。


神様まで、あたしにケンカうってんじゃないの?









「上等。」




クスっと不敵にわらって。



「あたしは誰にも負けない。」



挑発的な瞳で。


『お前は雑草だろ?』

西門さんに言われた台詞を思い出す。







そう、あたしは雑草。

踏まれても、蹴られても、春には芽を出すつよい雑草だもん。









つくしの目に、確かな光が戻った瞬間だった。
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