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ライオン #9

「司は、どこに行ったのかしら?」

ここに居ない事を承知で、わざと秘書に問いかける。

「は、申し訳ありません。」

秘書は、静かに目をつぶって腰を折った。つまらない言い訳など言ったところで何の役にもたたない事を良く知っていたから、迅速かつ簡潔に、謝罪して見せたのだ。

「まぁ‥‥いいわ。そんなことより、仕事はきちんと片付けているんでしょうね?」

「はい。今日の分と、明日の昼頃までに必要な案件は、受理印された状態でデスクの上に置いてありました。」

そう言って、その書類を寄越せと指の動きひとつで命令した楓に、西田は淀みなく応えた。

「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」

楓が目を通している間、西田は複雑そうな顔をして見守っていた。

「‥‥‥?」

視線に気づいた楓が一端読むのを止め、西田を横目でチラリと見た。

「‥‥何か?」

「!」

「い、いや!大したことではないのですが‥‥。」

無意識に楓をジッと見つめていたことに気がついて動揺した西田だが、楓にジロリと睨まれてしまい仕方なく話し出す。

「司様‥‥いえ、副社長は、社長に良く似てらっしゃるな、と。」

「まぁ‥‥‥親子、ですからね。」

「いえ、もちろん容姿も大変似てらっしゃいますが、仕事ぶりといいますか‥‥。」

「私から見ますと、副社長と社長はすでに同じ視点でものを考えているようにみえます。」

「私、長い間社長のお側でお仕えさせて頂いておりましたが、その‥‥なんと言うか、時々、社長と間違えて呼んでしまいそうになるんです。」

「どういう、意味ですか?」

「いえ。もちろん司様はまだ若く、社長と比べるまでもないのですが‥‥‥。」

「正直、ここまでやると思っていた者は少ないでしょうね。実際この私も、才能溢れる仕事ぶりに嫉妬してしまいそうな位でした‥‥‥。」

「ふふっ、今はしてないみたいな言い方ね?」

「ええ。私がすべきことは嫉妬ではなく、叱咤だと直ぐに悟りましたから。」

「‥‥‥‥‥パーフェクトよ。西田。」

「恐れ入ります。」






「‥‥‥‥‥で、司の新しい秘書は?」

「はい。速水 あずみ で‥‥ほぼ、決定です。」

「そう。」

「彼女は、使えるかしら?」

「‥‥‥‥とても、優秀かと。」

「牧野つくしと、いいライバルになるかもしれないわね。」

「楽しみですね。」

「えぇ‥‥‥とても。」

楓と西田は、道明寺の明るい未来が見えたように晴れやかな顔をしていた。

その期待の大半は、牧野つくし 速水あずみ のふたりに懸かっているーーーー。




******



「おいこらブス。いつまでブスくれてんだよ。」

「ブスブス言うなッ!」

「ほんとのことだろ。」

「じゃあ、そのベタベタ触ってる手、離しなさいよ!」

「やだね。俺のだもん。」

「あたし‥‥まだ怒ってんだけど?」

「なんで。」

「なっ、何でって‥‥‥!」






ーーーー突然、邸に帰ってきたこいつは、バアアアンッ!!と、乱暴にあたしの部屋の扉を開けて乱入してきた。

『オイ牧野ッ!』

『ぎゃあッ!?勝手に入ってくんな、バカ!』

『うるせえな!お前が無視すっからだろ!!』

『だ、だだだだからって何も今入って来ることないでしょっ!?ちょっと、出てってよ!』

『ああ?出てけだあ?何言ってやがる!!』

『い、今着替え中なの!お風呂入るトコだったんだから!』







『‥‥‥‥‥‥‥‥‥ふろ?』



『そうよ!だから一回出てってって言ってるの!』

『‥‥‥‥‥‥‥‥俺も入る。』

『あぁそう。じゃ、お風呂上がったらね。』

『‥‥‥‥あぁ。』

『じゃっ!』

つくしは身体に巻いているバスタオルが落ちないよう、さらに胸元でぎゅっと手で持ち直す。すると、後ろでバサッという音がした。

『待て。俺も入るっつってんだろ。』

『こんな‥‥‥誘うような真似しやがって。どこで覚えてくんだよ。』

『ったく、素直になれよな。』

『ーーーーはあっ!?』

するりとネクタイを抜き取る音がしたあと、あっという間に下着姿になった男にひょいっと身体ごと持ち上げられ、宙に浮いた。

『ばっ、ばか!なに脱いでんの!なに一緒に入ろうとしてんのよっ!』

『あ?アホかお前。服着たままで入れってのか。』

『それに、一緒に入るに決まってんだろ。』

『きききき、きまってない!決まってないッ!アンタ一体なに考えて‥‥!』

『うるせーな。今さらだろ。』

『今さらじゃないッ!離して、はなして!はーなーせーばかっ!!』

『うわッ!るせっ!耳元で叫ぶな!』

『はーなーせぇーッ!!』


ーーーーつくしは司の腕の中で、散々暴れ回った。



『‥‥‥‥わかった。離してやる。』

『あ、そう‥‥‥‥。』

ーーーー司があきらめた。そう思いホッとして、力が抜けたのも束の間。

『‥‥‥んなわけねーだろ。』

力が抜けたのを良いことに、ガキみたいな顔した馬鹿にあっという間にバスルームへと連れていかれた。







その後は、というと‥‥‥


まあ、なんだ‥‥‥その‥‥

無理矢理お風呂浸からされて‥‥‥。

そのままベッドに引きずり込まれて、なし崩しにというか‥‥‥。


うん‥‥‥‥そんな感じだ。







「で。その持って来そびれた写真、そんな大事なもんだったのかよ?どんな写真だったんだ?」

つくしの長い黒髪を弄びながら、司が尋ねる。

「‥‥‥‥べつに。」

「別に、って‥‥‥あっ!」

「お前まさか、類やほかの男の写真持ってたんじゃねえだろうな!?」

「‥‥‥‥‥は?何言ってんの?」

ーーーーベッドから上半身をガバッと起き上がった司の突拍子もない発想に、つくしは呆気にとられた。

「ったく、油断も隙もありゃしねえ。いつまで経ってもお前は、あっちにフラフラこっちにフラフラ‥‥」

「ちょ、ちょっと!人聞きの悪い事言うんじゃないっ!あたしがいつッ!!」

ーーーーはあ~っと息を吐きながら呆れる司に、慌てたつくしは止めに入る。

「‥‥‥違うのか?」

「当たり前でしょッ!」

もはや怒りに変わりつつある感情をそのままに、返した。

「じゃ、何をそんなに拘ってた?何をそんな怒って、俺をシカトしてたんだよ?」

「そ、それは‥‥‥。」


ーーーー言葉に、詰まる。






だって‥‥‥言えるわけないじゃないか。

持って来そびれた写真は、高校時代に撮った あの アパートの階段での写真だなんて。

二人で撮った最初で最後の写真は、失敗作で‥‥顔なんて全然写ってなくて、ほんの少し髪がみえてるだけのものなんだけど。

それでも、遠恋中で辛かった時に見ると少し笑えて、癒された。

あんなに会いたかった道明寺は今、目の前に居るのに。

馬鹿げた事だともわかってはいるんだけど、いざ無くなると、ショックだったんだ。

あの頃のあたしを否定されたようで‥‥‥。








「‥‥‥‥そっか。」

脈絡なしに、ぎゅっと抱き締められた。

「え?なに!?」

「ごめんな。」

さらにぎゅうううっと抱き締められた。

「‥‥‥え?何が?ごめん???」

「‥‥‥さっきから、全部しゃべってんだよ。お前。」

「‥‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥まじ?」

「マジ。」

「いっ、いいいい‥‥‥ッ!!!!」

「‥‥‥‥いいい??」





「いぃぃやあぁぁあ~~ッ!!!」

「あっははははは!ほんとアホだな、お前!!」



真っ赤になって叫ぶつくしに、大爆笑の司。


幸せな時間を余所に、いつのまにか入社式は目前まで迫って来ているーーーー。
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