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ライオン #10

「‥‥‥‥大したもんだな。」

司の目線の先には、カッチリとスーツを着こなした女が居る。

「ええ。先刻まで、あんなに嫌がっていた人と同一人物だなんて誰も思わないでしょうね。」

感心して素直に褒める司に対し、西田は苦笑気味だ。

「‥‥‥‥バーカ。それがいいんだろ。」

決めるときは決める。

それが、俺の惚れた女だ。

「ところで、副社長‥‥‥」

「‥‥‥あ?」

挨拶を続けるつくしに見とれていた司は、一瞬遅れて、面倒臭そうに反応した。

「来月からの、私の後任が決定しました。」

「は?降任?」

「‥‥‥‥。」

西田は無表情で呆れ、言葉を変えて再度言い直す。

「私、西田に代わり、副社長の秘書を勤めるものが決定致しました。」

「‥‥‥‥女か?」

「はい。」

「‥‥‥‥牧野か?」

「いいえ。」

「!!?」

「残念ながら。牧野様がいくら優秀でも、新入社員が一年目で副社長づきになることはあり得ません。」

「‥‥‥‥‥チッ、」

「まぁ‥‥‥それはいい。でも、なんで、女なんだ!?」

「重役会での決定ですので、私にはわかりかねます。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥ババアか?」

「私には、なんとも‥‥‥。」

「下らねーこと、企んでんじゃねーだろうな‥‥。俺が牧野以外の女を受け付けねーの知ってんだろ‥‥。」

苦々しい顔をした司。

「司様‥‥‥。」

「‥‥‥ま、いいや。」

「どーせ、その女ロクにもたねえだろ。それまでの我慢だな。」

「は‥‥‥。」

西田は驚いていた。

リアクションこそ少なかったが、数年前の司と比べるまでもなく、精神的に大人になったのだと納得せざるを得ないほどに、成長した姿がそこにあった。




「それに‥‥‥」


「?」


「そのあとの秘書は、ぜってぇ牧野にしてやっからな。」




「‥‥‥‥‥。」




(坊っちゃん‥‥‥‥‥‥。)



ギラリと瞳を輝いているのを見て"やっぱり、気のせいだったか。"と、西田が肩を落としたのは言うまでもない。








******



「ーーーー以上、非常に簡単ではございますが、新入社員を代表して、ご挨拶の言葉とさせて頂きます。」



つくしが著しく深くお辞儀をすると、周りからの、暖かい拍手が沸き起こる。

その音で、力が入っていた身体から緊張感が溶けた。







「ーーーー牧野さん、こっち!」


「‥‥‥はいっ!」


司会者に小声で促され、舞台袖に引っ込むと、ペットボトルの水を手渡された。










ーーーーやっと、終わった‥‥‥。



ーーーー緊張で喉がカラカラだよ、もう。




ペットボトルの蓋を直ぐに開け、そのまま一気に乾いた喉に流し込む。


と。





「やるじゃん。」


パコッと、背後からつくしの頭を上から軽く押さえる手。

「ブハッ!!」

「おわぁ‥‥っ!?」

突然降ってきた手に、水を口に含んだままだったつくしは、勢いよく正面に居た男性スタッフに吹き出した。

「きゃあっ!ご、ごめんなさいッ!」

あわててポケットからハンカチを取りだし、水がかかってしまった服を拭きだした。

「やだ、あたしったら!ほんっとーに、ごめんなさい!」

「大丈夫ですか?」

「い‥‥‥‥いえ‥‥。」

服を拭いている為、自然と上目遣いに男性スタッフに謝罪するつくし。

至近距離で大きな瞳で覗き込まれているためか、男性スタッフは ポッ と顔が赤くなった。






そんな中、低い音が木霊するように響き渡る。


「オイ。」


ーーーービクゥッ!!


側にいた、半径25メートル以内の人々の時が止まる。


「うわっ、びっくりしたー!!何よもう、いきなり驚かさないでよね!」

「あんたのせいで、吹き出しちゃったじゃん!」

「‥‥‥‥‥‥‥いつまで、くっついてる気だ?」

いつものように怒るつくしに対し、背後にブリザードが吹いている司。

「‥‥‥‥は?」


ーーーー何を、おっしゃっているのやら?


直ぐに理解出来なかったつくしは、そのまま固まった。


「いい加減離さねーと、そいつクビにすんぞ。」


口角を上げ、皮肉めいた微笑。


ーーーー目が、笑ってませんよ。副社長。


「あっ!?あ、あわわわわ‥‥!」


無意識に掴んだままだった男性スタッフの服を慌てて離した。




「‥‥‥あと5秒遅かったら、そいつブッ殺してたぜ。」

「ばっ、馬鹿なことい言わないの!そもそもアタシが水かけちゃっただけなんだからッ!あの人は悪くないの!」

「そうだ。おまえはいっつもきょときょとしやがって。」

「なんっ‥‥‥!?あああ、アンタがあたしの頭叩いたからでしょーー!?」

「‥‥‥‥うるせえ奴だな。式の最中だぞ。」


ーーーーはっ!!


としたつくしが周囲を見渡すと、目を見開いて、呆気にとられている皆さん。

よく見ると、さっきの司会者までいて‥‥‥‥‥。





式は中断された模様だ。





「‥‥‥‥‥道明寺。」

「あ?」

「あたし、やっちゃった?」

「ああ、‥‥‥やってくれたな。」


言葉とは裏腹に、何故か嬉しそうな道明寺。






入社早々、副社長と言い争った伝説の新入社員。

牧野つくし。


そう遠くない未来、この名が、世界中の道明寺グループ全体に知れ渡る事になろうとは、まだ誰も知らない。








******




"コンコン。"


「‥‥‥‥‥どうぞ。」

「失礼いたします。」


促され、"キィッ‥‥"と静かにドアが開いた。












「お久しぶりです。おばさま。」





「‥‥‥本気なの?」

「ーーー!」

「‥‥‥ええ。冗談でこんなことしませんわ。」

単刀直入に聞く楓に一瞬驚いたが、直ぐに笑顔へともどった。


「あの子は‥‥‥手強いわよ?」


挑戦的な、楓の瞳。


「あら?それは‥‥、司様?」


「それとも‥‥‥この、とっても優秀な彼女のことでしょうか?」


ピラッと、楓の目の前に差し出されたのは、A4サイズの大きな写真。


「ーーー!!」


「‥‥ふふっ♪楓様のそんな顔が見られるなんて、苦労して手に入れた甲斐がありましたわ。」

「‥‥‥一体、どこで手に入れたのか知らないけれど、こんなものなんの役にもたたないわ。」

「‥‥‥知っております。」

女は、スカートのポケットからおもむろに、ジッポを取りだした。

"ボッ!"

「!?何を‥‥!」

火を着けたところで、さすがの楓も戸惑った。

「大丈夫です。この人の部分燃やすだけですから。」

「~~~~~あなたって人はッ!」

「だって、キライなんですもの。」

メラメラと燃える紙。

呆れたように掌で顔を隠し、ソファにドカッと座り直した楓。

そのうち、灰へと変わり果てた紙は、彼女が開けた窓ガラスの外へと舞っていった。




「じゃ、これから司様の秘書としてがんばりますので、よろしくお願いいたしますね♪」

「‥‥‥‥‥ええ。しっかりやって頂戴。あずみさん。」

くるっと振り返ったにこやかな速水あずみの笑顔。

彼女の瞳は、希望で溢れていた。
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