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ライオン #21

「ふうっ。これで終わり、っと!」

コピーをとり終えたつくしはバラバラになっている紙をトントンっと揃え、そのまま脇に挟んだ。

「ええ~っと……。」

「営業部、営業部は何処だったっけ?」

営業部を探し、そのままキョロキョロふらふらと廊下を歩いていると、向かい側から見知った顔が歩いて来る。


「 …………牧野さん。」

「! あなたは……。」


向こう側から声を掛けてくるなど思ってもいなかったつくしは、困惑した。そのまま通りすぎてもよかったが、一つ気になる事があったので尋ねてみることにする。


「あの……。」

「何よ?」

「道明……副社長の、秘書さんですよね?」

「当たり前でしょ。」

「じゃ、なんでここに……。」

つくしが言いたいことは、何故日本に居るのか。司の秘書である彼女が香港に行っている司に同行しないのか。ということだった。

「…………元気そうね。」

「はっ?」

「せっかく、邪魔者がいなくなると思ったのに。」

「!?」

ーーーーこの人は、何を言ってるの?

つくしは自分の耳を疑った。

「あの男も、案外使えなくてガッカリだわ。」

嘲る様に笑う彼女の声が耳に貼りつき、次第に、つくしの思考はある一つの事しか考えられなくなる。


まさか


まさか


「 …………さっきから、何を言ってるんですか?」

「 …………。」


さっきから、自分に対する悪意だけはひしひしと伝わって来る。

だから、余計に。

そうなのかもしれないと。









「…………殺されかけたのに、呑気なものね。」

「ちょっ……!?」

「まぁ、いいわ。駅のホームなんかであなたも人生の最期を飾るなんて嫌よね?」

「 ! 」

「まさか、あなたが駅で…………。」


あの瞬間、肩が押されたのはやはり勘違いではなかったのか? 嫌な汗がつくしの額を伝い、握り締めた拳がワナワナと震えだした。

すると、彼女のクスクスと愉快そうに笑う声が恐ろしくなり、つくしの鼓動がさらに早くなっていく。

「何が面白いのよ!?」

「だって、おかしくて。」

「本当に、何も気づかなかったの? 鈍い人ね。」

「冗談なら、今のうちに訂正して。」

「冗談?」

「あ、あの事で、巻き込まれた人だって居るんだから。冗談じゃなきゃ、あたしは貴方を許しませんよ。」

「……許さない? 貴方が許してくれた所で何かがかわるの?」

「かわる、変わらないの話じゃないッ!!」

「いくらあたしのことが邪魔だからって、していいことと悪いことがあるでしょう!?」

「ないわ。」

「アンタ、いい加減に目を覚ましなさいよっ! 頭おかしいんじゃないの!?」









     パァンッ!!






ーーーー強烈な痛みが頬を襲う。




「!?」


「目なら、とっくの昔に覚めてる。」

「頭なんて、あの頃からとっくに狂ってるのよ。」




******





~ in香港 ~




ーーーーああ、かったりぃ。


早く終わんねえかな。







香港に着いた日の夜、早速殺人的に仕事が詰まったスケジュールをなんとかこなしながら、やっとまともに取れた夕食の時間。







だと、思ったのに。





「司ッ!」

「……あ?なんだよ。」

「なんだよじゃねーっつの!今、仕事中だろっ!?」

誰がやったのか知らねーけど、もともと予定にねー会食をねじ込みやがって……。

「いんだよ。そんなのどーでも。」

優先されていない時点で、大したことない人物なんだからよ。

「あのなぁ……。気が進まねーのはわかる。でもな、飯食うだけだろ?何もニタニタ笑いながら食えって言ってねーだろが!」

「……腹、減ってねえ。」

「嘘つけっ!お前、昼も飯抜いただろ。ちゃんと食えよ!」

「まじーもん。……つーか、おまえは俺の母親かよ。」

「お前のためにいってんだろっ!」

バタン。

「ごめんなさい。お食事中失礼しました。取引先から急ぎの用があったもので……。」

「いえいえ。構いませんよ。柴崎さん。」

「…………。」






ーーーーんっとに、くだんねえ。

会食中に席をはずしてた女が戻って来たところを、あきらがウェイターが椅子を引く前に自ら引いてやってた。

無駄な労力遣いやがって。どーなっても知らねーぞ……。







……ほらみろ。あきらが余計な事すっから、あの女勘違いして頬染めて浮かれてやがる。

それに、好きあらば俺にもチラチラ目線寄越して、取り入ろうとしてんの丸わかりだしよ。こういう女はマジで無理……。







もし




これが牧野なら。








大口で明るく笑って。

『ねぇねぇ!あのね!?あたし、こないだバーゲン行ったんだけどさ!』

バーゲンの何が嬉しいのかはよくわかんねーけど、めっちゃ可愛い笑顔を俺に向けて夢中で弾丸喋りまくって。

『ほら、これみて!!今着てるこれなんだけどね、なんと……3割引き!凄くない!?しかもわりと新作なんだよ!』

『……ふーん?』

『雑誌に載っててさー!ずっと欲しかったんだけど、人気でどこも売り切れでね。諦めてたんだけど、偶々残ってたみたいで店のお姉さんが出してくれたの!』


喋り過ぎて、そのうち咳込んで喋れなくなって……。


『なんで残ってたのかはわかんないんだけど、ラッキーだったね~って優紀と話してて。でねっ、このスカート優紀はもう持ってるから、おそろ、ひにっ!………ゲホッ!!』

『ゴッホ、ゲホッ!ごっ、ごめ……っ!』

『おい!大丈夫かっ!?』





くだらねー話しながらコロコロ表情変えて、その後ごめんって、照れ臭そうにまた笑うんだ。


どうせなら、牧野のくだらねー話が聞きたい。





******




「会長、×日 香港のパーティにはご出席されますか?」


晴れて、副社長のお守から解放された西田は、新たな重役の秘書を勤めていた。


「ん?」

「前回お伺いしたところ、不参加との事でしたが……。」

「あ、そうだっけ?」

「……ご参加で?」

「うん。そうして。」

「かしこまりました。」

「あ、西田。」

「なんでございましょう?」

「それって、あの面白い子来るのかな?」

「それは……牧野様のこと、でしょうか?」

「そうそう。」

「……今回は、おそらく。」

「今回は?」

「ええ。いつも司様は、決まったお相手をお連れになりませんので。」

「そっかー、来るのか。ちょっと楽しみだなあ。」

「……!」

「? どうした?そんなに目を開けて。」

「いえ、何でもございません。失礼しました。」

「そぉ?」

「……司様の記事、どうして対処なさらなかったんですか?」

「……バレてた?」

「はい。」


ーーーーバレるも何も、世界一早く情報を得ることが出来るのは貴方ぐらいでしょうに。


「司がさ、婚約までした彼女を俺に紹介しようと思ってないみたいでね。」

「?」

「確かに、かつて僕が倒れた時に、貴重な大学の4年間を蹴ってまでNYに来てくれたのは自分の不甲斐なさを感じもしたけど……やっぱり感動したんだよ。一個人の親としてね。」

「そのお礼ってわけじゃないけど、自分のパートナーは自分で決めていいって言ったのは他でもない。私達夫婦だ。」

「……では、反対してるわけではないのですね?」

「勿論だ。私達が知らないうちに、あの問題児だった司を、いい男に育ててくれた彼女を誰が反対できる? むしろ、彼女に感謝の意を伝えたいくらいだ。」

「…………。」








まぁ……世間にはまだ内密にしてますが、婚約を許してるくらいですからね。

二人のたゆまぬ努力の甲斐あって、数年前とはちがう今がある。

有名人のあの方じゃありませんが、

《 努力は必ず 報われる。》

二人して、それを見事に体現なさいました。




「なのに、あいつと来たら……。」

「いくら自由にしていいと言ったからって、親なら結婚相手を見たいと思うのが普通だろう? なのにあいつはこれっぽっちも親の事を考えていない。だからこれは、いつまで経っても紹介もしてくれない息子へのちょっとした悪戯なんだよ♪」

「はぁ……、そうですか。」






ーーーーつまり、寂しいんですね。




年甲斐もなく、無邪気に笑う道明寺財閥会長 道明寺 束 (つかね) 。








さっきから、妙に既視感があるなと思ったら。






《 そっくり、だ。 》






見た目も仕事ぶりも、もう立派な男性なのに。司様の、たまに呆れるほどの子供っぽさにそっくりだ。アノ 性格はこの方から受け継いだものだったのか。


……でも、いくら年を取っても新鮮さを忘れない表情に惹かれてしまうのは何故だろうか。

無意識に、人々の視線を集めるカリスマ性。

恵まれた容姿とはまた別のなにかが、あるとしか思えなくなるほどに。

道明寺 の由緒正しき血統が、そうさせるのかーーーー。
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