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シンデレラのパンプス act 1

    一目惚れだった。














「これ、ください。」

「はーい!」

「……あ、それ結構しますよ?お姉さん。」

「はい。そう思ったんですけど、なんかすっごく欲しくなっちゃって。凄い可愛いし、素敵で……。」

「……ありがとうございます。それ、私のデザインなんですよ。」

「わ、凄い! 本当ですか!」

「これ、私の人生で初めてデザインした靴なんです。一点もので、皮も使っちゃってるからかなり値がはっちゃうんですが……。」

「……私が買っちゃっていいんですか?」

「もちろん! 嬉しいです! お姉さん嬉しいこと言ってくれたから、サービスしときますね!」

「わぁ♪ 有り難うございまーす!」











******



向かいに座る優紀は、目を大きく開いてあたしをマジマジと見つめた。

「ひぇ~……。それ、そんなにたっかいの?」

「うん。あたしも値段見たとき、おったまげたよ。」


つい数時間前の出来事を、喫茶店で待ち合わせていた優紀に話すと、想像通りに驚いていた。つくしはそれを見て、向かいにいる優紀に向かって、ハハハと笑った。


「でも、買ったの?」

「うん。ときめいちゃったから。」

「ふぅ~ん? あの、つくしがねえ? へっえ~~~。」

「いっ、いーじゃん! 別にっ!」

にやにやと笑っている優紀に気恥ずかしくなってきたつくしは、少し怒ったように返した。

「ごめんごめん! 冗談よ。」

「…………もうっ。」







「道明寺さん、もうすぐ帰ってくるもんね?」

「う"っ……!?」

「べべべ、別に、道明寺は関係ないしっ!」

「照れない照れない。」

図星を突かれたつくしはさらに赤面した。

「でも、7万かあ~~。やるね、つくし。」

「うん。お陰で地道に貯めてたバイト代、すっからかんになっちゃったわよ。」

「つくしって、本当に靴が好きだよね。」

「う~ん……? 昔は、そうでもなかったんだけどなぁ。やっぱり、静さんの影響が大きいかも。」

「好きだねえ。静さん。」

「うん、憧れの人だからね!」









あたしの憧れの君。

藤堂静さん。

元々は藤堂商事のご令嬢で、F4に負けないくらいの超お嬢様。

だけど現在は、何不自由ない生活を自ら捨てて、困っている人を助けたい。そう宣言して国際弁護士をしている。

世の中には、完璧な人なんていないなんていうけれど、もし居るとすれば、その一握りのなかに静さんは必ず入っているだろう。



「……で、これ履いていくの?」


そう言った優紀が、人指し指をさした先には購入したばかりの箱に入っている靴。

ーーーー理由は、言わずもがな。道明寺が帰ってきた時に履くのかどうかということ。


「……たぶん。」


といいつつ、絶対あたしはこれを履いちゃうと思う。





「……昨日買ってた服に、絶対に似合うと思うよ?」

「!?」

「うふふっ、真っ赤になっちゃって。」

優紀は赤面してうろたえるつくしを見て楽しそうに微笑んだ。

「みみみ、見てたの……?」

「偶々よ、たまたま。」

「声かけようかなと思ったんだけどさ。つくしったら、あまりにも真剣な顔してるんだもん。何となく、声かけそびれちゃった。」

「ごめん……。」

「や、謝る必要はないんだけど。……っつーか、あたしが謝らなきゃいけないっつーか……。」

「……優紀?」

「つくしさ、昨日携帯の充電切れてなかった?」

「え?ああ、うん。……よく知ってるね。」

それを聞いた優紀がはぁ~っとため息をつく。

「……ちゃんと、着信履歴みてないでしょ?」

「え、あ、だって。スマホに代えてから使い方がイマイチよくわかんなくって。……って、なんで知ってるの? エスパー?」


つくしが不思議がっていると、優紀が驚きの新事実を発表した。


「あなたの愛しのダーリンから、あたしのとこまで連絡があったの。」





「……どぅええええええ~~!!?」

「なっ、なんで!?優紀のとこに!?」

「きっと、つくしが連絡つかないから焦って連絡くれたんだよ。」

「そんな……。どーしよう?」


あいつの事だから、怒り狂っているに違いない。


「ま、でも大丈夫だよ。」

「え?」

「つくしは今日、道明寺さんに会うための服を一生懸命探していました。って、言っといたから。」

「……ちょっ、ちょちょちょ、優紀っ!?」

「いーじゃん。ホントのことなんだから。」

「あんたね……。」

ーーーーまるで悪びれのない優紀に、つくしは、ガックリと肩を落としてしまった。

「ま、ま、ま!良いでしょ?道明寺さん、すっごくよろこんでたしね。」

「…………。」


複雑。

そーいう時って、ロクなことがない気がするんだよなあ……。


「怒って帰って来るよりは全然いいでしょ! ねっ!?」

「……そう、かなあ?」

「そーよっ! そうそう!」

「……だよね?」

「そーそー!」



プルルルルル……



「んっ?」

「ほら、つくし! ケータイ鳴ってるよ! 噂をすれば、じゃない!?」

「ま、まさかぁ~。帰国前まで死ぬほど忙しいって言ってたもん。ないない!」


そう言いつつも期待してしまう自分が居た。


意味もなく、手が緊張する。



プルルルルル……




「ね、誰だれっ?」


「ちょ、ちょっと待って。」




まさか、ね……。







まさか






まさか。








そんなハズないと思う気持ちと、そうだったらと期待している自分が居て、携帯を触る手が震えているのがわかる。



かなりの時間を掛けて、やっと出れた携帯の着信画面には……。














      " 道明寺 "










「ほら、やっぱり道明寺さんじゃん! 早く出なよっ。」

「う、うん。」


待ち切れなかったのか、携帯画面を横から覗き込んだ優紀が早く出ろと急かした。


「も、もしも……。」












「……あ。切れた。」


「ええっ!? 何やってんのよも~~。」


呆れる優紀に怒られながらも、心臓の音が止まない。

声すら聞けなかったのに、なんであたしはこんなにドキドキしているんだろうか。


「ごめんね、ちょっとかけ直すね。」

「あたしの事はいいって! 早く行きなよ!」


あたしは店内を出て直ぐに掛け直そうと、どきどきしながら震える手で通話ボタンを押して、ただ一人の声を待っていた。










でも。



今度はあいつが出なかった。




「ま、後でもう一回かけ直すよ。」

「今直ぐのがいんじゃない?」

「いいって。どーせ怒ってんだから。」

「そう?」




だって、忙しいんだろうし。


取り合えずその時はそのままにした。







******



「てめっ!出るのがおっせーんだよっ!!」


一人になってから掛け直すと、なかなか出なくって。

ようやく出たと思ったら、開口一番がこれだった。


「しょ、しょーがないでしょ! 出そびれちゃったんだもん。」

「だったらすぐかけ直せよ!」

「掛け直したわよ! でもアンタ、出なかったから……それに、優紀が一緒だったから後でいいかなって思って……。」


「……俺はダチの次かよ。」

「ちがっ……!そんなことない!」

「じゃ、俺が一番か?」

「……っ!? そんな、人に順番つけるなんて、あたしには出来ないよっ!」

本音半分、照れ隠し半分。誤魔化すように言ったその言葉の代償に、傷ついたようなあいつの声が返ってきた。



「…………そーかよ。」







「ど、どうみょ……。」

















「俺は、お前が一番なのに。」


「!!」









「あ、あのね、違くて……。」

「俺もう、寝るわ。じゃあな。」

「まっ……!」




ツー。ツー。ツー。




途切れた会話の先に聞こえて来たのは、無機質な機械音。











ーーーーどうしよう。


あいつが怒ってるのは、いつもの事だけど。


本気で、怒らせちゃった?


そんな想いがぐるぐると頭の中を駆け巡って。


その夜はよく眠れなかった。
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