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ライオン #22

ーーーーったく、何でこの俺が司の秘書なんかしなきゃなんねえんだよっ!








そう思いはするものの、あの中でなら、俺が一番適任なんだよな……。

なんて、冷静に考えてしまえる自分が恨めしい。

せめて、

「オイッあきら!今度こそ仕事は終わったんだろうな!?」

隣にいるこの猛獣のように振る舞えたなら。

嫌なものは嫌だと、自分勝手に生きられたなら。

自分はもっと、ストレスも少なくかつ自由に、思いのままに生きられたのではないか?

無駄だとわかってはいても、たまにこんなことを考えてしまう。

でもまぁ……。


『美作さんいないとあの3人バラバラじゃん。』


『いやんなること多いけど、誰かに頼られるってすごいことだよね。』


そんな時は、遠い昔親友から貰ったこの言葉を思い出して何とか自分を奮い立たせてんだ。

普段、ちゃんと言葉にして感謝されない俺としては、自分の存在意義を価値を見てくれる奴も居るんだなって。無駄じゃなかったんだよなって思って、嬉しかったんだ。

それに、


「ま。お前はお前で、苦労もあるんだろうしな。」

「……あ? 何言ってんだ?」

「何でもねーよ。ホラ、明日も早いんだろ? 下で車待たせてあっから。」

「! 手際がいいな。」


一足先に社会に出た親友。弱音も吐かずによく頑張ったモンだと、本当の意味で尊敬したのは数年前。

こいつん家に比べると若干劣りはするが、俺だって同じ立場のJr.だからな。

人間、同じ立場に立たねえと理解りあえないことは山ほどあるってことも学んだ。

染々とそんなことを考えていると、神妙な顔をしている司に声を掛けられた。


「あきら、お前さ……。」

「何だよ?」

「秘書、向いてんじゃね?」

「 ~~~向いててたまるかッ!!」




一言多いんだよバカ野郎ッッ!!




一瞬でもコイツを尊敬した俺は、損をした気分になった。



******



道明寺本社ビル12F。

ピリピリとした空気が二人の間に漂う。

「ねえ、あなた……。」

「……はいっ!?」

そんな空気を打ち破ったのは、あずみ だった。

「その左腕につけてる腕時計、何処で見つけたの?」

「…………時計? 見つけた?」

そう言われて、腕時計を確認しようとして、抱えていたさっきコピーが終えたばかりの資料が目に入った。


「……って、ああああっ!? ヤバイ! 急がなきゃっ!!」

「ちょっと!? まだ話は……!」

「ごめん! 後にして! たぶん急ぎなのこれ!!」

「あっ、こら! 待ちなさいよっ!」

あずみに背を向け、バタバタと忙しなく走り出した。

そのうち、前を歩いていた他の社員を捕まえ、営業部は何処かと質問攻めにしていた。


「すみません! 営業部って、何処ですかね!? 知ってます!?」

「営業部? 営業企画部なら知ってるけど……。」

「じゃあきっとそれだ! 教えてもらっていいですか? この会社ばかデカイから、まだよくわかんなくって。迷路みたいじゃないですか?」

「はははっ。そうだね、ここは日本一大きいかもね。……君、新入社員?」

「はい、そうです!」

「元気がいいね~。」

「あはっ。元気が良いのが取り柄ですから!」




少し離れた場所で見ていると、つくしはみるみるうちにその男性社員と仲良くなっていく 。

こんなにも自然体な彼女。

きっと彼女には、人見知りなんていう言葉は存在しないのだろう。


「能天気そうでいいわね……。」


誰に聞かせるわけでもない独り言を小さく呟き、踵をかえして秘書室に向かった。








******



「失礼しま~す……。」


案内してもらった通り、営業企画部のある33F にやって来たつくし。

この階に着いた途端に、自分は図書館にやって来たのでは。と思ってしまえるくらいに辺りは静まりかえっていた。

意味もなく、抜き足差し足忍び足。

不格好な忍者がそこに居た。



ーーーーだだだだだって、この階だけやたらと静かなんだもんっ……!



そう。

他の階と比べてやたらと静かなこの階には極めて人が少なく、当然人口密度に比例して静かになってしまう。












タタタタッ  バン!


    タタタタッ  バン!




ーーーーなんで!?


なんで誰も居ないのよっ!?


手前から目につく扉を空けていったけれど、部屋は全てもぬけの殻で……。


「これ、どーしよ……。」


届けに来たは良いものの、誰もいないんですけど……。

静かにしていたことも忘れ、ただでさえ広いフロアをクタクタになるまで駆けずり回った。


ーーーー仕方ない。


時間を置いてまた来よう。

そう思い、営業企画部を出ていこうとしたところ、扉を隔てた向こう側から人の声が聞こえた。


「斉藤。……の件はどうなっているの?」


「!?」


思わずデスクの下に隠れてしまったつくしは、聞こえてきた声の主に驚いた。

「はいっ。中川グループと香川建設の合併でなんとか一段落つきそうです。」

「そう、よかったわ。では、中川宛に何か用意を頼むわね。」

「かしこまりました。」






ーーーー 楓社長……。


話の内容はさっぱりわからないが、久々に聞くこの声。

疚しい事があるはずもないけれど、体が勝手に緊張してしまう。

しかし、わざとではないにしろ、いつまでも盗み聞きのような真似をしているわけにはいかない。

どうやってここから脱出しよう……。

そんな事を考えていると、聞き覚えのある名前が会話の中に出てきたのをつくしは聞き逃さなかった。

「ところで、速水さんはどうなの?」

「は、速水ですか……。」

「えぇ。」


ーーーー何故か口籠る楓のお付き。

不自然な間を置いて、楓の秘書はこう告げる。


「秘書課にて、副社長の第二秘書として頑張っているとの事ですが……。」

「そう。」

「あ、あの、社長……!」

「何?」

「何故、副社長の秘書に速水を抜擢されたのですか?」

「……?」

「い、いや……。不満不平を言おうなんて思っているわけじゃないのですが、ただ……。」

「ただ?」

「あの事がバレたらと思うと、正直……。」

「…………。」

「も、申し訳ございません!出過ぎたことを申しまして……。」






ーーーー 秘密?





一体なんの事だろう?












それきり押し黙っている楓に、秘書とつくしはその間にどんな返答が帰ってくるのかどきどきしながら待っていた。



するとそのうち、何も言わなかった楓があっさりとこう言った。



「まあ、普通はそうでしょうね。」

「社長……!」

「ですが、仮に秘密が知られたとしても、そんなことで揺らぐ道明寺でわないわ。」

「……すみません。」



ピシャリ、と言い放つ楓。

男は勇気を出してみたが、楓の取りつく島のない様子に気落ちしてしまった。








「でも、そうね……。」

「?」

「将来の道明寺の右腕に誰が相応しいのか、見極める余地はありそうだわ。」

「まず、社員同士で戦争でもして頂きましょうか?」






ーーーー 戦争!!??









相変わらず、何を考えてるんだろうこの人は。

会社で戦争なんて……。

こんなに物騒な、不謹慎極まりない考え方する人ほかに居ないよ。

まさか爆弾持って破壊活動するわけじゃないだろうけど、きっと、とんでもないことをやりそうな気がする。






一刻も早くこの場を立ち去ろう。


とんでもないことを聞いてしまった。


早く、はやく逃げなければ。


そして、あたしは何も聞かなかった。


そういう事にすればいい。


今なら、間に合う。









慎重に、慎重に。

物音をたてないように。

中腰で、ゆっくりと出口を目指した。

緊張で、掌と額に汗が滲む。






ガタンッ!


「あっ……!」


「「 ーーーー!?」」






ーーーーしまった!


気づかないうちに、近くにあった椅子にあたってしまった。








その音に楓と斉藤もバッと振り返り、


「……誰か、居るの?」


動揺は悟られぬよう静かにそう言うと、もう誤魔化せない。と、腹を括った女が立ち上がり姿を現す。












「……盗み聞きとは、感心しないわね。」






「牧野さん。」






「ご無沙汰、しています……。」
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