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記憶喪失物語。~after story~ その3

『消毒、してやるよ。』


ーーーー飛行に乗り込んですぐに、あいつが言った。


『えっ!? い、いいって! ほんとに!』

『なぁーにがいいんだ、このやろ。 類が触った後なんか跡形もなく消してやるっ!』

『き、消えてる消えてる! ほらっ! あの日ちゃんとお風呂屋さんも行ったし大丈夫だから!』

『……信用ならねえ。』

『なにがよ!? しかもおでこだよ?』

『うるせえ。たとえデコだろーが、髪だろーが、指だろーが、お前に触れるのは許さねえ。』

『…………嫉妬深。』

『なんか言ったか?』

『いいえ。何でもありません。』

『…………。』









それから。



無言になった道明寺の大きくて体温の高い手が、あたしの頬に触れた。

何をするわけでもなく、大きな両手であたしの顔を挟みこんで、ひたすら優しい眼差しであたしを見つめてる。


暖かい 手。


ーーーーいつも思うけど、コイツほんとに体温高いよね。


『顔、つめてーな。』

『……そう?』


暫く無言だった道明寺が、あたしの顔を両手で挟みこんだまま額同士を コツン と鳴らした。


『お前、いつも冷えてねぇ?』

『……アンタが、無駄に熱いんだよ。』

『コートくらい買ってやんのに。』

『ばか、要らないってば。』


至近距離で見つめあったままこんな会話をしていると、不意に、道明寺の手に力が入って 唇が ちゅ。と軽く鳴った。


すぐに離れた唇はすぐにもう一度降りてきて。


そのまま、もう一度。


気がつけば、子供のようなキスを何度も繰り返していた。










優しいキスにうっとりとして身体の力が抜けた頃、頬にあった手が背中にまわり、きゅうっと抱き締められた。

すると、道明寺の頭があたしの首筋に落ちてきて小さな声で何か言った。





『まきの……。』


掠れて切なくなるような声であたしを呼び、ぎゅっ と抱き締められあたしも背中に手を回した。






『ねぇ、どうしたの……?』

『…………。』


暫く身動き出来ない状況が続き、さっきから何を聞いても何も返って来ない。

一体どうしたんだろうと顔を見ようとしたけど、ぎゅっと抱き締められた手がそれを許してくれなかった。



『道明寺? なにか、あった?』

『…………なんも、ねえよ。 ただ、な。』

『?』

『お前が生きてるって、もう少しこのまま感じてたい。』

『こうやってると、やっとお前の元に帰って来たって実感すんだよ。』





『道明寺…………。』













ーーーーそれは、NYで事故に逢った事と。

はたまた、記憶の無い時の事も言っているのだろうか。

そんな声でそんな事を言われちゃうと、あたしはもうどうしていいのかわからない。



もう、大丈夫だよ。とか

心配しないで。なんて

とても陳腐な台詞に思えて。



結局。 何も言えずにいたあたしを知ってか知らずか、その後はいつも通りケンカしたり馬鹿話したり寝たりして、日本に着くまでの間の時間を潰した。





******



「こんなとこに居たの。」

「……花沢 類。」

パーティ会場に着き、少し店内の熱気にやられてしまったつくしは外に出て涼んでいた。

「散歩?」

「う、うん。そんなとこかな。」

「……そっか。俺も。」

花沢 類はそう言い、あたしが腰かけていたベンチのすぐ隣に座った。

「寒いね。」

「へ?……あ、あぁ。 冬だしね。」

って、あたしは何を当たり前の事を。

「花沢 類は寒いの、好きなんだっけ?」

「うん。」

「なんで?」

「う~ん……。何でだろ? 夏より涼しいからかな?」

「???」


そりゃ、そうでしょーよ……。

相変わらず変な人だなぁ、花沢 類。


「……何で笑ってんの?」

「えっ? あたし、笑ってた!?」

「うん。 気持ちわるい。」

「やだっ、花沢 類のせいだからね!」

「俺のせいにしないで。」

「……あのさ。」

「ん。」

「あたしって、何か出来そう?」

「ん??」

「いや、あたしってさ。ご存知の通り超庶民じゃん。」

「……そうだね。」

「でもさ、道明寺はバカみたいに金持ちでしょ?」

「…………さっきから何が言いたいの?」

「いや、その、さ……。 自分で言うのもアレなんだけど、あたし、道明寺に色々貰いすぎてて……正直何を返したらいいのかわかんないんだよね。」

「ごめん、うまく言えないや。」

「……ふぅ~ん?」


牧野が言ってるのは物やカタチあるものの事ではなく、気持ちの問題なのだろう。

つまり……

司に愛され過ぎて戸惑っていて、自分も何か伝える術が欲しいということ。


「ずいぶん今更だね。 昔っからそうじゃん。」

「う“っ。」

「牧野はさ、そのままでいんじゃないの?」

「そんなわけには……!」

「きっと牧野が頑張ったところで、司はどーせその10倍は何かしたがるんだから。」






「……それも、そうかも。」







寒空の中ふたりで寛いでいると、野生の勘で嗅ぎ付けたのか、少し離れた場所から怒号が聞こえた。


「牧野っ! なにしてんだよ!」

「……あ。」

「見つかっちゃったね。ほら、行きなよ。」

「うんっ、花沢 類! ありがとね!」

「もーそれは聞き飽きたってば。」

「そうじゃなくって! あたし、花沢 類やみんなが居なかったらこんなに頑張れなかった!」

「…………。」

「あたしが辛い時、いつも傍に居て話を聞いてくれて、凄く嬉しかったの! 本当だよ?」

「いつも支えてくれて、ありがとう! 感謝してる!!」


このあと牧野は、やたらと急かす猛獣に連れ去られて行った。











ーーーー 俺の方こそ。


あんたのそのクルクル変わる表情にどんだけ救われたか……

知らないだろ?

あんたを慰めるふりして、司を想って泣くあんたを何度奪いさってやろうと思ったか。

笑顔が一番似合うアンタを曇らせる司を、あの時は本当に憎んでいたのかもしれない。

でも、バカでどうしようもない奴だけど、司から牧野を奪うなんて俺には出来なかった。

やろうと思えば出来たかもしれないのに、しなかった。

それは、牧野の笑顔が一番輝く瞬間を知ってしまっていたから。

きっと、それがすべて。









「……あ。月。」


夜空を見上げると、優しくて気遣いの出来る親友に似た月が俺を優しく照らしていた。














「……やっぱ、一発殴っときゃ良かったかな。」

「何を?」

「!!」

びっくりして振り返ると、いつの間に来たのか隣に大河原が座っていた。

「……何?」

「類くん、フラッとどっか行ってから戻って来るのおっそいんだもん。 迎えに来ちゃった。」

「……そ。」

「ね。今ね、みんなで司とつくしの結婚式をプロデュースしようよって話をしてたの!」

「……何の話?」


どれだけ飲んだんだろうか。心なしか、大河原が酒臭い。


「やっぱ、新郎新婦の登場はゾウかラクダに乗って登場が良いよね~って話になってさ!」

「…………。」

「どう!? 面白いでしょ?」

「……楽しそうだね。」

「だよね~! よおし、滋ちゃん頑張っちゃうよ!」

「ん。頑張って。」

「何言ってるの、類くんも強制参加だよ!!」

「…………じゃ、俺はスピーチでもやろうかな。」

「わーい♪ みんな参加だ~!!」



その際俺は、新郎新婦の恥ずかしい話でも披露させて貰うことにしよう。

大きな愛情と、ほんの少しの意地悪を持参して。
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