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ライオン #26

出発当日の朝。


念のため、手荷物の再確認をしてチャックまできっちりとめた。

「……うんっ、これで完璧!」

パスポートも財布もある。

ーーーー あと、土星のネックレスも。

廊下に出て、一人のメイドさんに行ってきますねと声を掛けると、あっという間に人が集まって来てしまった。

せっかく集まってくれたのだからと、一人ひとりに暫しのお別れの挨拶をしていたんだけど、人垣が出来るくらいの人数が集合するとあたしもさすがに心配になってきてしまう。

「皆さん、仕事いいんですか? 先輩にどやされません??」

「いいんです、そんなの!」

「こっちの方がよっぽど大切ですもの!」

おいおい。そんな事言って……タマ先輩に聞かれたら、どうするんだろうか?

「お土産、買って来ますね。」



「お嬢様、お元気で……。」

「くれぐれも、お怪我のないよう……」

「私達、牧野さまのお帰りを待っておりますので、どうかご無事でお戻り下さい!」


何故か涙目な皆さん。

あたしは今から、戦地にでも行くんだったっけか?


「ま、取り敢えず、行ってきます。」

「「「行ってらっしゃいませ。」」」


最後に大人数での合唱があたしを見送ってくれた。






******


「おーい、司ー。 そんな心配しなくてもいんじゃね?」

「…………。」

「っつーか到着は15時頃だったよな? なにも、こんな5、6時前から待ってなくてもいいだろ。」

「……別に、牧野を待ってる訳じゃねぇよ。」

「うそこけっ。」

「うるせぇな! 俺は好きで待ってんだから、お前は帰りたきゃ帰れば良いだろ!?」

「ほら、やっぱ待ってんじゃねーか。」

「うっせ。」



ーーーー 全く。

何を言ってもさっきからずっとこの調子だ。

いくら心配だからってこのクソ寒い中待つ事もなかろうに。

司の愛のデカさにはいつも驚愕させられる……が。そんな事より、気になっている事がひとつ。

「おい、司。」

「……あ?」

「お前、その格好どうした?」

「どう、って……。別に……。」

「別にって、お前普段そんな格好しねえだろ。」

何でも着こなす男だけに見落としそうになったが……いや、やっぱこれはおかしいよな?

「……これ、地味か?」

「いや、地味っつーより……下手な探偵みてーだぞ。」

「じゃ、良いじゃねーか。」

「……良いのか??」


真っ黒なダッフルコートに黒ぶちの伊達メガネ。

深く被った、これまた真っ黒なニットキャップ。

お前が身に付けてなきゃ、不審人物だぞ。


……うん。

司が挙動不審な理由は、一つしか見当たらねえ。


「牧野がそんな格好しろって?」

「ばっ……!バカ野郎!んな訳ねえだろっ!」


ーーーー 何故赤くなる?


「……そーいう事なら、仕方ねえか。」


言っても無駄だろうし。


「違うっつってんだろ!!」

「ほら、あっちにベンチあっから座って待ってよーぜ。」

「お? おぉう。」

親指で後方のベンチを指し、司とふたり並んで広々と腰を掛けた。

男ふたりでこんな所ですることもねーし、だからといって司はここを離れたがらないだろうし。どーすっかなと考えあぐねていたところに、ちょうどTVのニュースの速報が流れていたので目を移した。



『そ、速報ですっ!』

『今朝10時頃、道明寺財閥総帥、道明寺 束さんが何者かによって襲われたもようです!』


「「 !? 」」


ーーーー 今、何て言った?


「お、おい司! こりゃどーいうことだ!?」

「……っ、知るか!!」


驚きのあまり、声を出すのも忘れそうになってしまった。

嫌な汗が、額を伝いだす。

そんな俺を置きざりにして、ニュースは無情にも流れ続けた。

『あの、道明寺財閥ですか!?』

『そのようです。』

ざわつくコメンテーターに、紙の上の情報をいち早く伝えようとするアナウンサー。

『襲われた、とは具体的にはどういった状況だったんでしょうか?』

『はい。総帥が歩いている所を、何者かに液体をかけられたようです。』

『液体、ですか?』

『ええ。鑑定の結果、ただの炭酸水だったことがわかりましたので、身体に影響はなかったみたいですね。』

『無事で、なによりです。 道明寺財閥の総帥ともなれば何かあった場合には世界経済に影響を及ぼしかねません。』

『今後はより、周りのボディーガードを強固にしていく方針です。』


ニュース番組はそこでCMに切り替わった。



「…………。」

「…………。」

「取り敢えず、連絡入れとけよ?」

「おう、そうするわ。」


あきらに促され、出入り口付近まで移動して日本の邸まで電話を入れた。

3コール目で、使用人受付の電話先に出たのはタマ。


『おはようござんす。坊っちゃん。』

「ああ。」

「……ニュース見たか?」

『……旦那様が襲われた事ですね。』

「ああ。知ってたのか?」

『旦那様からのお達しで、坊っちゃんには言うなと。』

「TVのニュースで流されてちゃ……意味ねーよ、あのバカ親父。」

『あれま、そうでしたか。 坊っちゃんに似て、抜けてなさるんですから……。 きっと、口止めをお忘れになったのでしょう。』

若い頃の親父を知っているタマは、総帥になった今でも言いたい放題だ。

っつーか、何気に俺も被害を被ってる。

「誰か気づけよな……。」

『そんなことは置いておいて、坊っちゃんアンタ。』

「……あ? なんだよ。」

『今度の、くいーん おぶ じゃぱん、つくしを出場させるおつもりで?』


…………何故だろう。

年寄りの横文字は全てひらがなに聞こえてしまうから不思議だ。


「そのつもりだ。 将来、俺と一緒にいる奴だからな。 ハク付けとくのに越した事はねえ。」

「左様でございますか。」

「それが、どうかしたんか?」

「いえね、ちょっと小耳に挟んだものですから……。」

タマの、歯に何かモノが詰まったような物言いが焦れってえ。

「なんだよ。はっきり言えよ。」

「実はですね……。」






******



「……ふぁ~っ。」


ああ、よく寝た。

飛行機乗ってる間中、見事に眠りこけちゃった。

無事に香港に到着したあたしは、空港に飛び交う現地の人の言葉をぼんやり聞きながら、はじめての香港を感慨深く眺めた。


……おっと、

こんなところでボーッとしている場合じゃないわ。

騒ぎになる前にさっさとヤツを見つけてずらからないと。

「ええと、何処に居るかな……っと。」

暫く地面に貼りついていた足を勢いよく持ち上げた。

「……って、うわわわあぁっ!?」

そしたら前方に見えたのは真っ暗な壁で、あたしは驚きの余り声を張上げた。

勢いよく振り返ったものだから、止まれずに壁に突っ込む形になる。

ぎゃーー!と心の中で叫んだが衝突したハズの壁の衝撃は軽くて、何故か暖かい。


「…………?」


恐る恐る見上げると……


「うるせー奴だな。」

「どっ、道明寺!!」


振り返ればヤツがいた。


ーーーー じゃなくてっっ!!


振り返ったそこには道明寺の身体がすぐ目の前にあって、今にもあたしを抱き締めようとする長い腕が絡み付こうとしている。


「近ッ! 近い、ちかいってば!!」

「ばか、近付いてんだから当りめーだ。」

「ここは公共の場なんだって!!」

「気にすんな。 誰も見ちゃいねーよ。」

いや、思いっきり注目の的ですからあああああ~!!

この状況をどう切り抜けるか必死になって考えていると、そこに救いの神が現れる。

「司、ほら、車あっちにあっからそれまでの我慢だ。な?」

そう声をかけて肩をポンッと軽く叩くと、道明寺は名残惜しそうにあたしから離れていく。


ーーーー さすが、元祖・猛獣使い。


「みっ、美作さんっ!?」

「チッ、……しゃーねえな。」

舌打ちしながらも、大人しく手を握るだけに留まっている道明寺。

「ななな、何で? 仕事はいいのっ!?」

「……お前も、車まで静かにしといてくれ。詳しい事はあっちで話す。」

ハァーっとため息を漏らす美作さんに、あたしは黙って頷いた。
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