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記憶喪失物語~after story ~ その6《完》

ビーッ! ビーッ! ビーッ!


ふたりが抜けただだっ広い会場に、まるで警報のような音が鳴り響く。


「……んっ?」

「うるせーよ、滋。 ケータイ鳴ってんぞ。」

「わ、ごめんごめんっ!」

「変な音ですね……。」

「あっれー? おかしいなぁ、着信もメールも入ってないのに……。」

「でも確かにお前のケータイから鳴ってたぞ?」

「う~ん、何で……? ってあああっ、そう言えばっ!!」


ガサ……ガサッ

慌てて自身の携帯を取り出した滋は、携帯画面をみとめると目を見開いて驚きの声をあげる。


「きゃああああ~~~!!!」

「さ、桜子っ!優紀ちゃん!みてみて!」

「「 ? 」」

興奮し出した滋に呼ばれ、二人は何事かと滋に近寄っていく。


「どうしたんだよ?」

「「「 …………。 」」」

「おい? 聞いてる?」


何故かそれきり絶句してしまった女三人を心配し総二郎とあきらが次々に声を掛けるが、返事はない。

なんだよ、どいつもこいつもスルーかよ。と、二人は目を合わせて会話をし、業を煮やした総二郎が滋の手元から携帯を奪った。


「っうおおおおおい!!」

「!!?」


叫んだ総二郎に、何事かとあきらもつられて覗き込むと、そこにはつくしに取り付けられたとおもわれるGPSのマップが。


「「 ここ、ラブホ街じゃん。」」






******






ザアアアアアア……




「…………。」


雨ではない、強めの水音に比例するようあたしの胸も高鳴っている。



ど、どうすればいいのか……

もちろん、そんなつもりで来たわけじゃないし、アイツだってお風呂入りたいって言ってただけだし!!

そ、そうよね!

別にドキドキしながら待ってる必要は全くなくって、ほ、ほらっ、雨が止んだら直ぐに帰るかもしんないし、ねえっ!?




ーーーー 何で、二人でこんなところに居るのか?

いや、ふたりは恋人同士なのだから世間一般では当たり前というか、別段不思議な事ではないのかもしれないけど……


あたしの爆発寸前の心臓の音なんてお構い無しに、部屋に入るなり

『風呂、先入ってこい。』

何て言うから。変な意味じゃないと分かっていても、緊張しすぎてどうにかなりそうだった。


結局、ずぶ濡れの道明寺を先に入らせて、取りあえず道明寺がお風呂から上がって来るのをあたしは大人しく待っている。

道明寺が上がってきたらどうしたら……何したらいいんだよ、もう。

「…………あ。」

そうだ。

この酷い雨さえ止めば、ここを出て帰れるかもしれない。

両手に期待を込めて、カーテンを掴んだ。



ーーーー なむさんっっ! !



「……やめとけ。」

しかし、背後から手首をつかまれて止められてしまう。

そのまま後ろを振り向くと、風呂上がりの司が見えた。


「も、もうあがったの?」

「おー。」


お風呂上がりの道明寺は当然のようにバスローブ姿で、ご自慢のパーマもこの時ばかりはストレートヘアになっている。

たまに髪から滴る雫が色っぽくて、あたしの心臓がわし掴みされたみたいに きゅん となった。

「先、使わせて貰って悪かったな。お前も早く温まって来い。」

「えっ!?」

「い、いいよ。あたしそんな濡れてないし。」

「ばか、濡れてなくてもじゅーぶん冷えてんだろ。風邪引くぞ。」

「う"っ……。」

「ゴタゴタ言ってねーで早く行け。……それとも。」

「?」

「一緒に入って欲しいのか?」

「!!?」


ガタガタガターーーー!!


(なななな、何を言うんだこいつはっ!!)


にやっと笑った道明寺におもいっきり動揺してしまったあたしは後ずさり、自然に近づいていたバスルームへの扉に手を掛けた。


「いいい、行ってくるね!」

ガチャッ!

バタン!!










「…………。」


慌ただしいことこの上ない牧野は、そそくさとバスルームへ消えて行った。

しかし、ドア越しにでもわかる慌てようが面白くて、ついつい口元が緩んでくる。



…………ほら、また。 騒音が。



バタバタバタ……。


ガン!

「ぎゃっ!!」

ドテッ

「いったぁーい!!」




コケたのか?


「クッ、」


「……ほんっと、おもしれぇな。」




すぐそこに、牧野が居る。



     この空間が。




    幸せで  たまらない。





******




「あがったか?」

「う、うん……。」


ぐるぐる、ぐるぐると頭のなかでいつ出ればいいのかと悩んで、ずっと湯船に浸かっていたけど、いつまでも浸かっていたら指はふやけてきちゃうし、お湯も段々冷めてきちゃって、意を決してお風呂をあがった。


「いつまでそこでボーッとしてんだ? 座れよ。」

「うっ、うん……。」


返事をしたものの、うまく身体が動かない。

そんなあたしに気づいたのか、道明寺は一旦立ち上がると、あたしの手を引っ張ってソファーに座らせてくれた。



ダメだ。


身体が緊張でがくがくしてる。

「触っていい?」

隣に座る道明寺が、優しくあたしに尋ねた。

「っえ……!?」

「そんな身構えんな。ただ、抱き締めるだけだ。」

「あ、う、ん……」


ぎゅうっ……。


「あったけーな。」

「うん……。」

胸に閉じ込めるように強く抱き締められて少し苦しい。

だけど、お互いの体温がすごく心地良かった。

「……あ、そうだ。」

「?」

「ちょっと、待ってろ。」

そう言って、あっさりとあたしから離れていった道明寺。

……どうしたんだろ?


「……お。あったあった。」

「??」

「ほら、」

自分のスーツを探っていた道明寺が何かを見つけると、それをあたしに投げて寄越してくる。

あたしの手のひらには、想い出の小さな箱がおさまった。

「あ……これ、」

「やっと、持ち主の元に帰ったな。」

「いいの?あたしが持ってて……。」

「あ? お前以外誰が持っとくんだよ。 そんなもん。」

「……ありがとう。」

「…………ん。」

あたしがお礼を言うと、道明寺も照れ臭そうに、少し赤くなっていた。

「っつーかよ……。」

「んっ??」

「これ、あの時川に捨てたよな? 確か。 お前まさか……。」

「ちちちち、違っ……!!」

「…………。」

慌てふためきだす牧野。

真っ赤になって必死に抵抗してるけど、その反応は、ますますそうだったんだと俺に確信させた。


「……つけてやるよ。」

「あり、がと。」

道明寺はそれ以上なにも言わず、あたしから土星のネックレスを受けとると、ソファーの後ろに回って着けてくれる。

そのまま肩を抱き締められて浸っていると、道明寺が掠れた声で囁いた。

「……あの、さ。」

「ん?」

「お前の傷、やっぱ残んのか?」

「……!」

気にしてたのか。

「ぁあ、うん。……ちょっとね。」

「ごめん。」

「や、やだっ、謝んないでよ!アンタらしくもないっ!」

「見せてくんねえ?」

「……はいっ?」

「お前の傷、見せて。 なんもしねえから。」

「そそそ、そんな、ダメだよ……。」

「頼む。」

「だだだ、だって……」

「な、牧野。」

「う"っ……。」


ずるい。

そんな、捨てられた子犬みたいな顔されたら断れないよ。

いつもの暴君はどこに行っちゃったのよ、もう。

道明寺 司らしからぬ姿を見ているうちに、とうとうあたしは根負けしてしまった。


「す、少しだけだよ。触っちゃ駄目だからね。」

「…………わかった。」


真っ赤になってる牧野に背中を向かせ、バスローブ姿の背中を剥いだ。

白くて、傷ひとつない頼りなさげな肌が露になり、俺はそれを見た瞬間頭が沸騰しそうになったが、なんとか堪えて傷を探した。


「……どこ?」

「うーんと、腰あたりの左側……?」

「……これか。」

「っひゃ……!」

人指しゆびで ツツ……。となぞると牧野はさらに真っ赤になってビクンと身体をしならせた。

「いてーのか?」

「ばかっ、アンタが急に触ったからびっくりしたのよもうっ! 触っちゃ駄目だっていったのに!」

慌ててバスローブを羽織り、俺から逃げるように遠退く。

「ザンネン。」

「ざ、残念って……!」

「けど、お前も俺と同じ所に傷があるんだな。」

「……え? あんたもここなの?」

「ああ。」

「そうなんだ……。」

「なんの因果かわからねーが、俺が刺されて記憶なくなって、お前が刺されて記憶が戻ったんだと思うと寒気がするぜ。」

「……呪われてる?」

「ああ、強力なヤツな。」




「「 ……………………。」」




「「 あははははっ!!」」









ねえ、道明寺。


もしあのとき、刺されて記憶が戻るか、刺されないで記憶が戻らないか選べるとしたら……


あたしはどうしたかな?


記憶がなくっても、あんたが好きなのは変わらないし、変えられなかったけど、やっぱり、共通の想い出で笑い合えるのはとても大きな財産だね。



「あたしばっかりズルい。道明寺の傷も、見せてよ。」

「……いいけど。 俺は出血多量で死にかけたから、お前の傷よりえげついぞ?」

「い、いいよ? 恐くないもんっ、そんなの。」

「嘘つけ。 顔、ビビってんじゃねーかよ。」

「あ、あたしがビビる訳ないでしょおっ!?」

「ふん、どーだか。」


ぎゃあぎゃあ と、二人で場所もわきまえずに騒いでいると、この場所に似つかわしくないベルが鳴り響く。



ピンポーン♪



…………………… 誰?


音が鳴ると二人の間の空気も止まった。

暫く動けないでいると、そのうちガチャガチャと玄関をあける音がして、危険を察知した司がつくしを背中に隠す。


「誰だ? 一体……。」


キィ……


とうとう扉は開かれ、身を固くした二人の目の前に現れたのはーーーー。




「おまっ…………!」

「??」


「「「「 童貞・処女卒業おめでとーう!! 」」」」


パン パン パーーーン!!


耳が痛くなるほどのクラッカーの爆音と共に現れた6人。


「みっ、皆、なんでここに!?」


聞き慣れた声に、司の背中からひょっこりと出てきたつくしは驚愕した。


「なんでってそりゃー、二人の卒業記念を祝いに?」

「そそ。」

「明け方になりゃ、流石にコトは終えてると思ってな。」

「隠さなくてもいーんだぜ? 司のその乱れた格好見りゃわかるからよ。」

うんうん と、まだホロ酔い気味の皆は頷く。


……てゆーか、道明寺のバスローブが乱れてるのは、さっき暴れてたからだし。


そして何だかんだ、知らぬ間に時間は過ぎていて、時刻は早朝5時を示していた。

「…………てめぇら。」

ユラリ。と、どす黒いオーラが揺れる。

「「……つ、つかさくんっ?」」

「まさか、まだ……。」

「どうて……。」

たちまち酔いが醒めてきたふたりは嫌な予感で冷や汗がタラリと流れた。

「出ていけーーーーっ!!」

司が叫ぶと、全員一目散に逃げていく。








「ったく、しょーもねえ。」

「ふふっ。相変わらずだよねぇ、皆も。」

「……笑ってんな、邪魔されたっつーのに。」

「てゆーか、なんでここの鍵持ってたの? あの人たち。」

「知らねえよ。……っつーか、本当アレだよな。俺ら。」

「……そうだね。」






目と目を合わせて、笑った。










   「「 呪われてる? 」」












             〈fin〉
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