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ライオン #31

一方、つくしが去ったメープルホテルの一室。

今後の事を話し合うからと部屋に残ったふたりだが、今現在、結局何もせずにただ黙ってソファーに座っていた。

同じ空間を 同じ速度でただぼんやりと過ごす。

いつぶりだろうか、こんなに何もしないで時間を過ごすのは。

いや、いつまでもこうしてるわけにはもちろんいかないんだけど、何から切り出せばいいのかわからない。

下手なことを言って、ただでさえ落ち込んでいる彼女をさらに追い詰めてしまってもダメだ。


椿がひそかにそう悩んでいると、思いのほか元気そうな彼女の声が隣から聞こえた。


「ねぇ、椿……。」

「えっ?」

「変な人よね、牧野さんって。」

「…………?」


言葉の意味が読み取れず、椿は顔をしかめた。


「だって、色々オカシイでしょ? この私と友達になろうなんて!」


興奮しだしたあずみに、先ほどの光景を思い出して椿は思わず笑ってしまった。


「ふふっ、そうね。」

「笑い事じゃないわよ 椿! どう考えたって変よアレはっ!!」

「……ああいう子なのよ、つくしちゃんは。」

「ああいう子って、どういうこと!?」

「ん~~。 そうねぇ……。」



「私は 彼女ほどまっすぐに生きてる女の子を見たことがない、かな?」


椿の言葉に、あずみは目を見開いた。


「まっすぐに生きてる女の子……??」


オウム返し状態のあずみに、椿はやさしくほほ笑んで応える。


「そう、まっすぐ。」


「例え悲しい事や辛い事があったって、常に前を向いてる。 彼女は、いつだって自分を見失わないのよ。」


「…………じゃあ、司様は彼女のどこが好きなの?」


以前から用意していたのであろう質問を、椿にぶつけた。


「う~ん……。私も、彼女のことはすきだけどそれは妹を可愛がるようなものだし。 そればかりは、司に聞いてみないとわからないわね。」

「そう……。」

「でもね、司ってアレに似てない?」

「アレって?」

「ほら、いるでしょう? 数匹の仲間と、つがいである一匹のメスのみの群れ(プライド)を守ろうとする……」

「……それって、ライオンのこと?」

「そうそう! 以前はね、あの馬鹿、人間に産まれてきたのも忘れたんじゃないかっていうくらいの暴れっぷりだったのよね。」

「……。」


それなら、有名な話だったから私も知っていた。

遠く離れた留学先の海外でも、道明寺財閥御曹司の噂はいい話でも悪い話でもすぐに拡がっていたから。

ただ、尋常じゃない道明寺財閥の勢力を恐れて、誰も表立って噂をすることはなかったけれど。


「ま、今でもじゅーぶん暴君なんだけどね、これでも大分マシにはなったのよ。」

「……それは何故か、言わなくてももう分かるわよね?」

「……。」


ーーーーそう、わたしはとっくの昔に知っていた。

お爺様の力を使って、彼女の人となりを調べ上げるなんてことは朝飯前だったから。

そう、知っていたのに……。


「だって、せっかく女の子になって戻ってこれたのよ?」

「……うん。」

「帰国出来るって、やっと司君に会えるって思って嬉しかったのに。」

「そうね。 わたしも知った時ビックリしたわ。」

「なのに、あんな人に誰も敵うわけないじゃない……!!」





こんな私に、




『あの、もうひとつお願いがあるんですけど……。』

『『 ? 』』

『吾妻君の怪我が治って、もし彼が赦してくれたら、仲直りしませんか?』

『あ、あなた、自分が何を言っているか分かってるの?』

『もちろんです。』

『……いいの? つくしちゃんはそれで?』

『いいもなにも。 あずみさんは謝ってくれましたし。』

『それに、なんでも聞いてくれるんですよね?』

『そ、それはもちろん……。』

『あたし、あずみさんと似てる人知ってるんです。だからきっと、友達になれると思います。』

『つくしちゃんが、そういうなら……。』

『…………。』

『じゃ、今度は日本で。』



そう言って、彼女はこの部屋を去っていったのだ。


いとも簡単に、笑顔を残して。


「…………っ!」


ついには、堪えていた雫がポタポタと溢れだしてしまう。

そんなあずみを椿はやさしく抱きしめた。



「彼女だって人間だから、いつも前向きってわけにはいかないでしょうけど……、彼女にはきっと私たちには無いものを持っているから惹かれるんでしょうね。」

「例えばそれは、どんな環境でも戦える強さや、人を赦すことの出来る優しさとか、ね。」


人を赦す事というのは、簡単そうで、実は一番難しい。

過去に拘らず、前に進もうとする彼女の精神力は一体どれだけのものなのか。

想像するだけで気が遠くなりそうだ。


「ねえ、椿……。」

「ん?」

「司君が雄ライオンなら、牧野さんは雌ライオンかしら。 ほら、ただ大人しく守られてるだけじゃないところとか。」



「…………近からずといえども、遠からず ってとこね。」




******



「ほら。」


リムジンが会場の前に停まると、先に降りた道明寺がエスコートするようにあたしに手を差し出した。

普段の道明寺と違って、どこの坊ちゃんだよっていうくらい(や、実際坊ちゃんなんだけどさ。)スマートな身のこなしで言うもんだから、思わずどきっとしてしまった。


「ひ、一人で降りられるから大丈夫だよっ!」


それを誤魔化すように一人でさっさと降りようとするけど、目の前の男はそれを許してはくれなくって、グイッとあたしの手を引いて下ろされてしまう。

それどころか、強引に左手であたしの腰を抱いて、ぎゅうぎゅうと不必要に身体をくっつけてきた。

調子に乗るなと怒りたかったけど、既に大勢集まっている招待客の前で暴れてパートナーである道明寺に恥をかかせるわけにもいかないし、それになにより男の力に敵うはずもなく、結局、されるがままになってしまった。

会場内に入り、仕事の話で道明寺が傍を離れると、それを目ざとく見ていた西門さんと美作さんが茶々をいれてくる。


「どうしたんだよ? 牧野、大人しいじゃん。」

「今日は調教師役交代か?」


「…………。」


無視よ、無視。

こいつらはあたしたちで遊びたいだけなんだから。


「……調教師って、どっかのエロビデオみたいだな。」

「いいねえ、司と牧野のSM!」

「いや、よくねーだろ。 SとS同士でつり合いとれなくね?」

「っつーかそれ、いつものこいつらじゃん。」

「はははははっ! それもそうだな!!」


「…………。」


ーーーーあんたら、後で覚えときなさいよ。






「しっかし、お前あれだよな。」

「んっ?」

「高校生の頃のお前と比べると、まるで別人見てるみてーだよ。」

「そう? 今日、そんなにお化粧濃くしたつもりなかったんだけどなぁ。」

「いや、化粧どーのこーのじゃなくてだな……。」





ーーーー牧野は 変わった。


折れてしまいそうな華奢な身体つきは変わらないが、それでもいくらか女らしくなった。


もともと大きな瞳は、化粧を覚える事によって色気を漂わせ、成長期が過ぎた頃からか、顔の輪郭もシャープになっていった。

一時期金太郎だったのが信じられないくらい長く伸びた艶やかな黒髪も、今では牧野の容姿を引き立たせている。

俺はもともと、牧野の顔がいいのは何となくわかってたけど、俺の予想を遥かに越えちまうんだから女ってのはつくづく恐ろしいよなあ……。



「おいっ、総二郎!」

「……あ?」


俺は、少しの間ぼーっとしてしまっていたらしい。

あきらからの呼びかけに少しビクッとしてそちらを向いたが、あきらの視線は別に注がれていた。


「あれ、本物だよな?」

「は? なにが?」

「なにがじゃねーよ! 前見てみろ前っ!」

「なんだよ……?」


言われて、渋々あきらの指をさす方向をみると、さっきまで俺たちの近くに居たはずの牧野が視線の先に居た。


「……ああ、なんだ。 司が連れてっただけじゃねーか。」


牧野の隣には、180越えの黒髪で天パな男の後ろ姿。

なにをそんなに慌てる事があるのかと、呆れて視線を逸らした。


「ばっ、よく見ろっ! あれは司の親父だろっ!!」


「………………………あっ?」

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