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ライオン #33

「ただちょっと、黙らせてきただけだ。」

「「はっ!?」」

「どいつもこいつも仕事っつーのは表面上だけで、ほとんどは俺に自分の娘やら親戚やらを紹介したいだけだからな。」
 
「クソッ、こんなことなら牧野を無理にでも引っ付けときゃよかったぜ。」

「……お前まさか、相手の女の子殴ったりしてねえよな?」

最悪の事態を想定して、あきらが恐る恐る伺う。

すると司は心外だと言わんばかりの顔をして

「誰が、そんなガキみてーな事をするか。 馬鹿にすんな。」

と言う。


「「…………。」」


その言葉に、二人は暫しの間言葉を失ってしまう。
  

ーーーーいやいや、キミ、昔は幾度となくやってたからね?


ふたりは同時に、過去のあんなことやこんなことを振り返るが、口に出すと嫌な思い出がまたひとつ追加されそうなので、喉の奥に留めておいた。

すると司がキョロキョロと落ち着きなく何かを探し始める。


「ーーーーで、牧野は?」

「……悪い、司。」

「お前の親父に攫われた。」

「……あぁ? 親父ぃ!?」

「急いで追いかけたんだけどよ、この人混みだろ? 近づけもしないうちに牧野連れて逃げてっちまった。」

「ちょっと目を離した隙にもってかれたんだ。」

「っ!……なに考えてんだ!あのクソ親父!」

「って、あ、おい! 司!?」

聞くなり、牧野を探し出そうと途端に動きが機敏になる司。

今にも何処かへ行ってしまいそうな司の腕を、あきらが捕まえた。

「待てって! どこ行く気だよ!」

「牧野を連れ戻しに行くに決まってんだろ!?」

「一旦落ち着けよ! 闇雲に探したってそう簡単に見つけられるわけねえだろうが!」

「んなこと言ったってジッとしてられるワケが……!!」


ちょうど、その時。


パッ


「「「……えっ?」」」


広い会場全体が 暗闇に包まれる。


会場の所々で叫び声が上がり、なんだ一体何事かと大多数の人間がどよめく中、ブレーカー近くに居たある1人の男だけが静かに笑っていた。










「ごめんね、ビックリしちゃった?」

「い、いいえ……。」


否定の言葉とは裏腹に、見開いた大きな瞳からは動揺が隠せていない。


「まっ、これはただのお遊びだから。……そんなに心配しないでいいよ? つくしちゃん。」

「お、お遊びっ?」


思わず声が裏返り、つくしの頬がひきつった。


「そう、ゲームさ。」

「げっ?」


ーーーーいきなり何を言い出すんだ!? この人は!

関係者しか入れないような舞台裏にあたしを連れて来たかと思えば、ちょうど目の前にあったブレーカーを躊躇いもなく落とした。

そのことによって、パニックになった会場全体にこだまする叫び声が聞こえていない筈はないのに、慌てるどころか、何故か楽しげな顔をしている。


ーーーーこのおじさんって、もしかしなくてもかなり変な人?


つくしは、冷や汗を流しながら男の顔を見上げる。

すると唐突に、何処かで見た事があるような既視感におそわれた。

口角を上げ、不敵に笑う横顔が 誰かに似ていると思った。

残虐ともいえる微笑で、大勢の無関係な人を平気で巻き込む。

そう。

昔、こんな人が確かに居た。


ーーーーあれは、誰だったっけ?


   
「…………あれ?」



そういやあたし、このおじさんの名前すら知らない。

そもそも、自分の名前すら名乗っていないような……


「……つくしちゃん? どうかした?」


なのに何故、あたしはこのおじさんと普通に話していたんだろう?

それに何故、おじさんはあたしを知っているの?

我ながら今更の疑問が頭の中を掠める。


「あた、あたしの名前……なんで知ってるんですか?」


速度を上げた心臓の音を抑えながら、つくしが尋ねると、男はすぅっと目を細めてつくしに笑い掛けた。


「君は、警戒感というものがまるでないね。」

「!?」

「駄目だよ、知らない人に付いて行っちゃあ。」

「…………。」


ーーーーそれもそうだ。


何をのこのこよく知りもしない人に、あたしは付いて来てしまったんだろうか。

昔から道明寺に《お前には危機感がない》とか、よく言われていたけどそんなつもりは全然なかった。

けど、あたしの事をよく知らない人にまで言われてしまうあたしって……



相当ヤバい?



「じゃあ、おじさんは……悪い人なんですか?」

「ん? 僕かい?」

「少なくとも、道明寺財閥で働く一社員ですよね?」

つくしがそう言うと、男はあっけにとられた顔をした。

「僕が、一社員……?」

「はい。」











「………………………………ぷっ!!」

「!?」


沈黙を破って、いきなり吹き出したおじさん。


「え? あの、あたし、何か可笑しなこと言いました?」

「アハハハハハッ!」

「!??」

「そっか、君にはそう見えてしまうのか!」

「????」


おじさんはひとしきり笑うと、笑い過ぎて涙目な表情で妙に納得したように2、3度頷いた。 


「うんうん、確かに僕も、道明寺財閥で働く人間のひとりだよ!」

「はぁ……?」


ーーーーじゃあ、なんで笑ったの?


「いやぁ~、君は本当に面白いね。気に入ったよ!」

「はぁ。 そりゃどうも……。」 

なんだか納得のいかないつくしは、その場は適当に流しておいた。

「で、おじさんは一体誰なんですか? 名前は?」

変な人ではあるけど、悪い人ではなさそうだ。

つくしはとりあえず安心して警戒感を解いた。

「ん~? 強いて言えば、正義の味方 かな?」


「…………はっ?」


ドヤ顔でそう言う男を、つくしはぽかーんと口を開けたまま見上げた。


「あははっ、嘘うそ!」


ーーーーさっきから、あたしで遊んでないか? この人。

上手いことはぐらかされて釈然としない気分だけど、そんなあたしを放っておじさんがさっさと先に進むので、慌ててあたしもついて行く。

「……あ、ここから階段だから気をつけて。」

男は先に一段上って、つくしが転ばないよう手を差し出した。

先程、この男がほとんどのブレーカーを落としてしまったので、この舞台裏も薄暗く、目を凝らして注意深く進まないと本当に危ない。

こんな状況なので、つくしは仕方なく男の言う通り、手に捕まった。



男に導かれながら、ゆっくりと、慎重に……上って行く。

「……なんで、階段に上るんですか?」

足元を見つめながらつくしが尋ねた。

「僕が誰なのかは、階段を上ったら直ぐにでもわかるから。 ね?」

「…………。」


答えになっているようでなってない返事。


なんだそれ。

どうせ教えてくれるんなら、さっさと教えてくれれば良いのに。


そう思いながらも、つくしは大人しく階段を上った。
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