fc2ブログ
QLOOKアクセス解析

ライオン #37

「俺に任せろって?」

「……とにかく、ついて来い。」

「へっ??」


あたしとおじさんは道明寺にいわれるがままついて行き、着いた先は……。


「司、ここって……。」

「ああ。」

「こっ、これはこれは、また……。」

目の前には、パッと見で高級のそれとわかるマンション。入口には、屈強そうなガードマンまでついている。

「アンタん家って、こんなとこにも不動産持ってんの?」

何故 あたしがこんなことを言うのかというと、見覚えのあり過ぎるカナダの国旗もどきのマークが、ガードマンの腕章にさりげなくついていたから。

「や、ここはババア専用のマンションなんだよ。 客用じゃなくて、完全なプライベートルーム。」

「へぇ……。」

「メープルのマークは、楓にとってアイデンティティのようなものだからね。メープルホテルに限らず、ビジネスから個人的なものまで 割と色んなものに使ってるんだよ。」


ーーーー ナルホド。


どおりで、厳重なセキュリティなわけだ。

でも、金持ちの考える事って本当にわからない。魔女専用ってことは、一人用ってことだよね? このドでかいマンションがたった一人の所有物? プライベートルームに一体 何部屋必要なんだろうか?

見た感じでは 軽く2、30部屋はあるよね……。なんて考えていると、背中に大きな手がポンと触れた。

「ほら、ババ…じゃねえ。 社長が お前に話しがあるんだと。」

「アンタのお母さんがあたしに? なんで。」

「 知らん。 業務命令だと。 」

「知らんって、アンタ……。」


ーーーーしかも業務命令かよっ!


「とにかく着替えて来い。」

「えっ? 着替えられるの!?」

「ああ。 あそこに突っ立ってるのが日本人の使用人だから、案内してもらえ。」

「うんっ!」

「……あと、中に姉貴も居るんだと。」

「わ、ほんとっ?」

「ああ。お前に会えるって張り切ってた。」

「なんだ、お姉さんもいるんだ。よかったあ~。この格好だと肩凝っちゃって。」

もうちょっとラフな格好が良かったんだよね~と、牧野は何を勘違いしているのか 満面の笑顔を俺に向けた。

……まぁ、それは後でわかるからいいか。








「司。つくしちゃん あれ、ちょっと勘違いしてるだろ?」

着替えに行った牧野の後姿を見送りながら、親父が言う。

「……だろうな。」

「いいのか?」

「まぁ、どーにかなるさ。」




*****



ちょっと待って……。


「何をなさってるんですか。 時間が無いのですから早くなさい。」

「…………。」

「お母様! そんな言い方したら、つくしちゃんがビックリしてるじゃありませんか!」


ちょっと待って……?


「あ、つくしちゃん、ごめんなさいね。 母はいつもああなのよ。でも悪気はないから許して頂戴ね?」

「いや、許すっていうか、説明して欲しいってゆうか……。」

「あ……、そうよね、ごめんなさい。訳も話さずに許して欲しいだなんて都合が良すぎたわ。」

「えぇ? いや、そういう訳では……。」

「母は昔から素直じゃなくてね。司がまだ小さい頃、誕生日に毎年プレゼントを持って帰って来てくれてたんだけど、あの子ったら 総二郎達と遊んでるものだから母も遠慮しちゃって。 結局、母が司とまともにクリスマスを過ごしたのは、司が寝てからっていう……。」

「椿さんっ! そんな昔の話、お止めなさいっ!!」

椿に暴露された楓の顔は 真っ赤に染まった。




そ、そんな過去があったのね……。

ーーーーっつーか。

誰一人として あたしの話を全く聞いちゃいないわ……。

「でもっ!これからは、司にはつくしちゃんがいるから お姉さん安心だわ♪」

「ねっ!? お母様!!」

「……道明寺の人間になるのなら、そんなことは当たり前です。」

「もぉまたっ! お母様ったらそんな言い方して!」

「あっ! つくしちゃん、ブーケはどれにする!?」

溢れんばかりのカタログを開き、満面の笑みで見せつけるお姉さん。

ところで。

(な、なんであたしはウエディングドレス着させられてるのおぉっ!?!?!?)

「お、お姉さん……?」

部屋に入った瞬間。

挨拶をする暇もなく 嵐のような採寸が終わったかと思えば、次から次へとドレスを試着させられていた。

「本当、よく似合うわ~? 」

「……溝ねずみの頃よりは、少しはマシになったようね。」

「お母様っ!? やだ、つくしちゃんにそんな事言ったの!?」

「本当の事を言ったまでです。」

「は、はははっ。」

乾いた笑いがつくしの口から漏れた。

そういやそんなことも、ありましたね。

この人も相変わらずだ。




「でも……。」

「今の貴方には、司がよく似合うわ。」

「……えっ?」




一瞬、時が止まった後。



楓が静かに喋り出した。


「私が あの時した事は、今でも間違ってるとは思わないし、謝るつもりもないわ。」

「……。」

「ましてや、許しを乞うつもりもない。」

「…………。」




魔女の 開き直りとも取れる発言。

だけど、凛としたその態度に、怒りを覚えるどころか 逆に感心してしまった。

なんて、魔女らしい。

冷血で、残酷で、この人には誤魔化しが一切通用しない。


「それでも良ければ……。」

「?」


呟くように発せられた声に、つくしが顔をあげる。








「そんな義母親でも良ければ、司と結婚してあげて。」










ーーーー は?



「い、いま、何て……?」

「同じことは二度言いません。」

「お、お母様……っ!?」

呆けた視線から逃れるように、フンっと 逸らされた顔がほのかに赤い。

椿お姉さんが思わず涙ぐんで居たけど、恥ずかしいのか、そちらは見ようとせずに

「ほら、髪がまだよ。」

「あいたたた!」

そう言って、あたしは少々強引に後ろを向かされて、鏡に映る魔女は さらに喋り続けた。

「……良く、頑張ったわね。」

「あの子が……、司がNYに渡った後、あなたと司をずっと監視してました。」

「か、監視って……。」

ピクリとつくしの口角が上がり、不自然な笑顔が出来あがる。

「ちっ、違うのよ、つくしちゃん!」

「母は昔みたいに何かしようとしてたわけじゃなくて、ただ 司とつくしちゃんをずっと見守ってただけなのよ!」


ーーーー えっ!?


「椿さん! あなたは黙っていなさい!」

不器用過ぎる母のフォローをしようと、口を挟んだ椿を嗜めた。

「……思えば、貴方には驚かされっぱなしだったわ。」

「英徳の高等部を卒業してどうするのかと思えば、急遽決まった英徳大学に主席入学。」

「貴方は知らないかもしれませんけど、英徳大学主席は、日本じゃ何処の企業も欲しがる人材なのよ。」

「えっ!? 凄いわ、つくしちゃん!」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。 だから貴方がうちを受けると聞いた時も驚かされた……。」


今まで彼女は " 道明寺 " を怨みこそすれ、好かれる要素など一つもなかったのだから。

だから彼女の志望動機を聞いた時、私は彼女をうちで働かせようと決めたのだ。




『当社の志望動機は何ですか?』

『はい、私は、自分の世界をもっと広げたいと思ったからです。』

『と、言いますと?』

『自慢じゃありませんが、私はごく普通の一般家庭で育ちました。平凡だけど、平和な家庭環境に満足していましたし、これからもずっとそうやって生きて行くものだと思っていたんです。』

『それで……、出身高校・大学が英徳ですか??』

『そうなんです。本当は都立に通う予定だったんですけど、ひょんなことから英徳に通うことになってしまって。学校の人とは話しも合わないし、最初のうちは学校がイヤでイヤで(笑)』

『それは、大変でしたね(笑)』

『でも、そんな大嫌いだったはずの場所で、人生を掛けて付き合いたいと思える大事な友人達と出逢えました。』

『……ほう。』

『それで、英徳に行かなかったら出逢えなかったかけがえのない友人達を見ていて、思ったんです。』

『今のままで、満足していていいのか。もっと、頑張れるんじゃないかって。平和も結構だけど、英徳に行かなかったら出逢えていなかった友人達のように、飛び込んだ先に何かあるのなら、もっともっと自分の世界を広げてみてもいいんじゃないかって。』

『色んな世界を見てみたいんです。』



私の危惧していたことなど笑い飛ばすかのように、彼女は眩しい未来しかみていなかった。

その瞬間、道明寺家の未来を照らすのは、司と彼女だと素直に認められたのだ。



「あなたが男じゃないのが本当、残念なくらいよ。 」

「お義母さん……。」

「だから、出場するのなら道明寺の名に恥じない闘いをしなさい。」

始めてあたしに、鏡越しにだけど、にっこり微笑んだお義母さん。

昔。

あたしがこの人にはじめて会った時、なんて冷血で、残酷で、誤魔化しが一切通用しない人なんだろうと思った。

でも今は、

なんて高潔で、聡明で、誇り高い人なんだろうと思う。

そんな人に背中を押して貰えるのなら、あたしはもっと 自分を信じてもいいのかもしれない。




スポンサーサイト



6 comments

非公開コメント

0 trackbacks

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)